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サンディ国の王城の中へと入ったレイニルは、すぐに侍女たちに囲まれてシャインとは離されてしまった。
連れていかれたのは浴場で、3人の侍女たちの手によって身体中を徹底的に洗われてしまう。
その後は真っ白なドレスを着せられて、また別の部屋へと案内された。時刻はもう夕暮れ時になっている。
「失礼します……レイニルです」
恐る恐るレイニルが室内に足を踏み入れると、そこは煌びやかな金や銀の家具に囲まれていて太陽のように眩しい。
そして正面の窓際に置かれた真っ黒なソファに腰掛けているのはシャインだ。
紛れもなく、ここはシャインの自室だと分かった。
「おぉ、さらに綺麗になったな、レイニル。さぁ、ここに座れ」
シャインがポンポンと自分の両膝の上を叩いたので、レイニルは戸惑って動きが停止してしまう。
いくらなんでも、いきなり陛下の膝の上に座れないだろう。
(恋人でもないのに、そんな……あれ、もう夫婦なんだっけ?)
レイニルが混乱して視線を泳がせていると、シャインは豪快に笑った。
「あっはっは! 冗談にしとこう。隣に座れ」
「はい」
その言い方だとシャインは冗談ではなかったらしい。レイニルは遠慮がちにシャインの隣に静かに座った。
だが、どうも落ち着かない。慣れない真っ白なドレスを纏った膝の上に両手を乗せて背筋を伸ばしている。
「そんなに緊張するな」
「……だって、こんなに真っ白な服、汚しそうで怖いです」
「あっはっは!」
(……え? 私、何か笑えること言いました?)
口に出す勇気がない脳内ツッコミをしながらレイニルが怪訝な顔を向けると、シャインは急に真剣な顔になった。
「なぁ、今までは婚約してから何日で雨が降ったんだ?」
予想通りの質問が来た。やはりシャインはレイニルの『雨女』の能力が欲しいだけなのだと。
30日も雨が降らなければ国の存続に関わるだろう。この危機的状況の救世主とでも思われているのだろうか。
そう思うと、なぜかレイニルの心が小さな痛みを伴った。
「当日に雨が降り……そしてずっと雨でした」
「それで30日以内に婚約破棄される、か。しかも4度も」
「…………」
なんてデリカシーのない言葉だろうかと言葉に詰まるが、シャインの真剣な眼差しからは嫌悪を感じない。
かと思うと、急に表情を崩して太陽の日差しのような眩しい笑顔を向けてくる。
「まぁ、5度目の破棄はないがな。オレで打ち止めだ」
「なぜです? 今日は雨が降りませんでした。私は陛下のご期待には添えません。ですから、きっと陛下も私を……」
「オレは破棄しないと言ったが」
「いえ、きっと、なさいます!30日以内に……!!」
気付けば、レイニルは必死にシャインに何かの答えを求めるように熱弁していた。
今までは嫌でも雨を降らせる雨女だったのに、今日に限って雨が降らない自分の能力が憎い。そう思うのはきっと、シャインに対する罪悪感だと思った。
いや、もしかしたら4度の婚約破棄による恐怖心かもしれない。どうせ捨てられるなら早い方がいい、そんな諦めもあったかもしれない。
するとシャインは今度は片手の指を顎に添えて視線を上向きにして何かを思案している。
「ふむ。結婚は荷が重いか。そこまで言うなら契約結婚にしよう」
「契約……ですか?」
「30日以内に雨が降らなければ離婚だ」
なんと潔く残酷な現実を突き付けるのだろうか。これでは5度目の婚約破棄と変わらない。しかも婚約破棄よりも離婚の方が重い。
プレッシャーの中で30日間を耐え続けるのも地獄だと思った。おそらく能力目当てのシャインはレイニルを本気で愛してはいない。
だがレイニルは、もう1つの重要な条件をまだ知らない。
「雨が降ったら離婚しない、という事ですか……?」
「そうだ。他にもルールはあるぞ。お前がオレに落ちた場合も離婚しない」
「……はい?」
どういう意味なのだろうか。それ以前に、なんでそんなにシャインは楽しそうに契約のルールを語るのか。
「30日間、オレは全力でレイニルを落としにかかる。お前がオレを愛したらオレの勝ちだ。責任もって一生愛してやる」
「陛下……何を仰っているのか、分かりません……」
愛したら負けの契約結婚。勝ちとか負けとか、ゲーム感覚で契約結婚を迫る国王にレイニルは引いている。そもそもの目的である雨が関係なくなっている。
それに、愛したという基準は何をもって判定するのか曖昧すぎる。これは単に陛下の戯れとしか思えない。
しかし雨が降らなければこの国を救えないし、離婚すればまたあの地下牢に連れ戻される。レイニルは契約を受けるしかなかった。
「……分かりました。契約します」
「よし。では契約を交わす」
シャインは突然、レイニルの両肩を掴んで強く引き寄せた。何かを思うよりも先に、唇に熱が重なる。
「んっ……?」
シャインはレイニルに深く口付けている。初めての事にレイニルの思考は真っ白に吹き飛び、青い瞳を球体になるまで見開いた。
ほんの数秒ではあったが、柔らかい感触と温もりが伝導してレイニルの唇はシャインと同化した気すらした。
ようやく離れると、シャインは口付け前と変わらぬ笑顔で呆然とするレイニルに言い聞かせる。
「これで契約完了だ」
つまり、結婚式代わりの『誓いのキス』だった。
レイニルは唇に手の甲を当ててソファから立ち上がった。当然、キスなんて生まれて初めてで、それも相手が国王だなんて……気が動転している。
「し、失礼しますっ!!」
顔を真っ赤にしながら、レイニルは逃げるようにして部屋を出て行く。こんなに顔が熱を持った経験もなくて、顔面が溶けてしまわないかと思う。
ソファに一人取り残されたシャインは、顔色ひとつ変えずにレイニルの感触の余韻を楽しんでいる。
「ふっ……可愛いな。どこに行くというんだ?」
ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、シャインは再びソファに背中を沈める。
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