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十四番街にてホーライ・ファミリーを壊滅に追い込み、その支配地域の安定化と残党の掃討にある程度目処がついたマルコは、幹部達を説得して貴族が使用していた屋敷を買い取って新しい本拠地とした。敷地も広く内装も貴族が使用していただけあって豪華なものであり、調度品もまた高級品で固められていた。 これらの要素は、成金主義的な面がある幹部達やボスを満足させるのに十分であった。とは言え、物にマルコもそれらに関心が向いたわけではない。勢力を拡大するに辺り体裁が必要であったこと、また屋敷が比較的十四番街の中心地に近いことが最大の理由であった。
更にマルコはまだまだ高級品である自動車を数台購入。これらは黄昏に建設されたライデン社の工場で生産されたものである。シャーリィは友好の証と称して格安で提供したものである。
しかし同時に燃料であるガソリンも黄昏で生産されているので、結局は暁の収入が増えただけであるが。それと同時に支配地域の道の整備も始めた。
当然これらの施策には金が掛かるのだがマルコにとって幸運だったのは、ホーライ・ファミリーは傘下から吸い上げ続けた莫大な資金を使わずに溜め込んでいた事である。それらを全て強奪したトライデント・ファミリーは資金的に随分と余裕が出来たのである。
「なあマルコ、無駄遣いしてるって他の幹部連中が騒いでいるんだが?」
マルコへ語り掛けたのは、トライデント・ファミリー幹部の一人であり彼の最大の理解者であるフル=チアノである。
「訳の分からねぇ家具やらやたら高い酒を買うような金があるなら、もっと別の事に金を使うべきだろう。今回の件で他の組織から注目を集めているんだ。
早く地盤を固めねぇと、あっという間に呑み込まれるからな。チアノの叔父貴からも釘を刺してくれねぇか?」
「もちろん釘は刺してるが、いきなり大金が手に入って目が眩んでいやがるからな」
「ハッ!自分達はなにもしてねぇのにか。悪いがこの金は組織を強くするために使う。文句があるなら直接俺に言うようにってな」
「言えねぇ辺りアイツらの小物っぷりがわかる。だが、奴等はボスからの信頼が厚いからな」
「そこが分からねぇんだよな。なんでボスはあんな連中を大事にしてるんだ?」
「義理って奴さ。奴等は長いこと組織に身を置いてるんだ」
「なにも貢献して無ぇと思うんだが」
「それでも組織に尽くしたって事になるんだよ。まあ良い、他の奴等は俺が何とかする。次はどうするんだ?」
「リガ・ファミリーを潰す」
リガ・ファミリーとは、十四番街にあるマフィア組織の中でも指折りの武闘派集団である。
「おいおい、リガ・ファミリーかよ」
「なんだ叔父貴、怖じ気付いたか?」
「そりゃあな。アイツらの容赦の無さはよく知ってるだろう?」
「ああ、昨日も構成員に因縁をつけたバカがバラバラになって便所に捨てられていたらしいな?」
「そうだ。だから奴等に手を出す組織はこれまで居なかった。しかも奴等のバックは確か……」
「花園の妖精達、だったか?」
「そう、夜の女帝が率いる奴等だ。手を出すのは躊躇するさ」
「その辺りは心配要らねぇ、当てがあるからな。ちょっと黄昏へ行ってくる。留守を任せたぜ、叔父貴」
「任せとけ、下手な真似はさせねぇさ」
その日の正午、マルコ=テッサリアは黄昏へ赴いていた。グレーのスーツにフォードラ帽を被ったその姿はまさに典型的なマフィアであったが、シャーリィから渡されていたパスを提示することで黄昏へ難なく入ることが出来た。直ぐに彼はシャーリィとの面会を求めた。
「あー、しばらく待っててくれるか?シャーリィは市中の視察に出ていてな」
対応したのはルイスである。シャーリィはいつものようにベルモンドを連れて市中視察に出ていたのである。これはシャーリィが余程の事情が無い限り続けている日課である。
日々発展していく黄昏の町は眺めているだけでも楽しいものがあり、シャーリィはそれらを楽しみながら新しい施策などを考える大切な時間であるとしている。
「間が悪かったか」
「まあ、もうすぐ昼食の時間だ。そこまで時間はかからねぇさ」
「ふむ……なあ、聞いて良いか?」
「なんだよ?」
「暁が花園の妖精達と協定を結んでるって話は本当なのか?」
「さあ、知らねぇな。シャーリィに聞けば良いんじゃねぇか?」
「アンタは幹部だろ?教えてくれても良いだろう」
「幹部だろうが知らねぇこともあるよ。うちはシャーリィを中心に回ってるし、アイツの考えを本気で理解できるのは妹さんかシスターくらいだ」
「分かった、素直に待ってるさ」
一時間後、視察を終えたシャーリィとマルコと会談に望む。
「ホーライ・ファミリーを叩き潰したのだとか。鮮やかな手並みでしたね、マルコさん」
応接室でマルコの対面にシャーリィが座り、後ろにはベルモンドが立ち、部屋の隅には当たり前のようにヴィーラが腰掛けている。シャーリィは礼服ではなく赤いドレスを身に纏っていた。
これは貴族らしく振る舞うようにとカナリアから助言された結果である。
マルコは見慣れないヴィーラを少し気にしたが、別の幹部だろうと意識をシャーリィへ向ける。
「耳が早いな、代表」
「情報は何よりも大切なので。それで、ご用件は?まさか戦勝報告ではありませんよね?」
「そうじゃなくてな、確認したいことがあるんだ。次のターゲットはリガ・ファミリーなんだが」
「武闘派集団を真っ先に潰すつもりですか。悪くない手ですね」
「詳しいな。それで、潰すのは問題無いんだが厄介なことがあってな」
「伺いましょう」
「リガ・ファミリーのバックについているのは花園の妖精達って話なんだ。俺の調べが正しいなら、あんた達と花園の妖精達は手を組んでいるだろ?だから問題なんだ」
マルコの言葉を聞いてシャーリィが首をかしげる。
「ティアーナさんがマフィアの後ろ楯?」
「ああ、店で使う薬の材料をリガ・ファミリーが納めてるって話だ。もちろん十四番街での話だがな」
「はて、ティアーナさん達が怪しい薬物に手を出しているとは思えませんが」
「真偽は分からねぇが、アンタ達は俺達の大切な後ろ楯だ。ちゃんと筋は通しておきたいし、もし本当ならリガ・ファミリーには手を出さねぇようにする」
「相変わらず義理堅いですね。分かりました、こちらで確認しておきましょう。真偽が判明したら使いを出します」
「助かる。それまでは俺達も大人しくしてるさ。よろしく頼む」
十四番街の抗争は新たな局面を迎え、後ろ楯である暁も巻き込んでいく。