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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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何時もの様に早く出社し、仕事を終わらせて鶴見川の方へ行く。

そんな日常…かと思って居ると。

子供が倒れて居る。

「…おい!大丈夫か!?」

「う…」

ぐぅ〜〜、と少年の腹の音が鳴る。

「…腹減ってンのか、…じゃあ奢ってやるよ。国木田の金でな」

え?と云う少年を放っておき、国木田に『鶴見川に来い』と簡潔に電子手紙(メェル)を送る。

「…で、何があった?」

「じ、実はここ数日何も食べてなくて……」

「ははッ、奇遇だなァ、俺もだ。因みに財布は持って来てねェぞ」

「ええ!?助けたお礼にご馳走っていう流れだと思ったのに……」

そうやり取りをしていると、国木田__俺と同輩の社員__が来る。

「何で態々呼んだ!」

「おー。お疲れ国木田ー」

「苦労は全てお前の放浪癖の所為だこの放浪者!!お前はどれだけ俺の計画を乱せば____」

「彼奴が国木田。俺の同僚だ」

「ほぁ〜、」

「聞けよ!!」

国木田の話を遮り、呑気に少年へ紹介をして居るとお叱りの声。

「お前、名前は?」

「中島……敦ですけど」

「じゃァ着いて来い敦。何が食いてェ?」

「はぁ……あの……」

少し言い淀んだ様子で少年……中島は、「茶漬けが食べたいです」と言う。

「ははッ!餓死寸前の少年が茶漬けを所望かァ!」

「良いぜ、国木田に腹一杯になる迄奢らせよう」

「俺の金で勝手に太っ腹になるな中原!!」

「中原?」

中島が聴こえて来た名前を鸚鵡返しする。

「あァ、名乗ってなかったなァ。」


「…俺は中原、中原中也だ。」








「おい中原、早く仕事に戻るぞ」

「俺が仕事をしている最中に『良い予感がする』とか云いながら社を飛び出す奴がいるか!おかげで見ろ、予定が大幅に遅れてしまった」

「じゃァ俺がこの少年を見るから国木田は仕事に戻れよ。まァ此の今迄俺が奢ったのを返せなかったら、痛手だと思うがなァ?」

「其れと之とは関係無いだろう!!それにこの理想手帳には『仕事の相方が放浪者』とは書いていない!!」

バンッ!、と机を叩き勢いの儘立ち上がる。

本当に予定が好きだなァ、と云うと之は理想だ!!我が人生の道標だ!!!と怒鳴られて仕舞った。

「ぬんむいえおむんぐむぐ?」

「五月蝿い、出費計画の頁にも『俺の金で小僧が茶漬けをしこたま食う』とは書いていない」

「んぐむぬ?」

「だから仕事だ!!俺と中原は軍警察の依頼で猛獣退治を___」

何故こいつらが話せているのかは知らんが、国木田は相変わらずの俺に少し苛ついているようだった。


「は〜食った!」

「もう茶漬けは十年は見たくない!」

「お前……」


「いや、ほんっとーに助かりました!孤児院を追い出され横浜に出てきてから食べる所も寝る所もなく……あわや斃死かと」

「…手前、施設の出か」

「出というか……追い出されたのです。経営不振だとか事業縮小だとかで」

「……ヘェ、」

可笑しい。

其れで一人や二人追い出した処で変わらない筈だ。

半分くらいを他所の施設に移すのが筋だ。

となると…

「おい中原。俺達は恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ」

「お二人は…何の仕事を?」


「…なァに、探偵だよ」

「探偵って云っても、猫探しなら不貞調査とかじゃねェ。斬った張ったの荒事が領分だ。」

「…異能力集団『武装探偵社』。施設の出だとしても知ッてンだろ?」

『武装探偵社』。軍や警察に頼れないような危険な依頼を専門にする探偵集団___

昼の世界と夜の世界、其の間を取り仕切る薄暮の武装集団。

「…此処居心地良いな……また今度も来るか」

「其れは良いが仕事中に行くなよ!?」

「別に良いだろ、仕事は有る分終わらせてるし、呼ばれたら直ぐ行ッてンだからよ」

「そういう問題では無い!!」


「そ……それで、探偵のお二人の今日の仕事は……」

「虎探しだ」

「……虎探し?」

顔色が変わった。之は、確定か。

「近頃街を荒らしてる『人喰い虎』だ。倉庫を荒らすわ畑の作物を食うわ好き放題何だよ」

「最近この近くでも出たらしいンだが……」

ガタンッ、と何かが落ちる音がする。

中島が怯えた表情をして居る。嗚呼、訳ありだなァ

「ぼ、ぼぼ僕はこれで失礼します!」

「待て」

四つん這いで店を出て行こうとした中島を国木田が服を掴んで止める。

「む__無理だ!!奴___奴に人が敵う訳無い!!」

「貴様___『人食い虎』を知っているな?」

「あいつは僕を狙ってる!!殺されかけたんだ!!!」

今までに無く中島は声を荒らげる。

「この辺に出たなら早く逃げないと____」

瞬間、国木田が中島を転ばせて、うつ伏せにさせる。

「云っただろう。武装探偵社は荒事専門だと。」

「茶漬け代は腕一本かもしくは凡て話すかだな」

「……っ!」

これじゃァ拷問と大差ねェよ、国木田……

「オイ国木田」

「お前がやると情報収集が尋問になる。社長に何時も云われてンだろ?」

「……ふん」

少し不機嫌そうな顔をしながら中島の腕から手を離した。

「…そンで?」

「……うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです」

「畑が荒らされ倉も吹き飛ばされて___死人こそ出なかったけど貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって、口減らしに追い出された。……」

表情が落ち込んだ様なものに変わる。

大方虐待でもされてたんだろうが…

「そりゃァ災難だなァ、」

「それで小僧。『殺されかけた』と云うのは?」

「あの人食い虎___孤児院で畑の大根食ってりゃ良いのに、ここまで僕を追い掛けて来たんだ!!」

ドンッ、と机を叩いて苛立った様に云う。

「あいつ僕を追って街まで降りてきたんだ!!」

「空腹で頭は朦朧とするしどこをどう逃げたのか、」

「…そりゃいつの話だ?」

「院を出たのが二週間前、川であいつを見たのが___四日前」

「確かに虎の被害は二週間前からこっちに集中している。それに四日前に鶴見川で虎の目撃証言もある」

手帳の頁をぺらぺらと捲って云う。

「…中島、これから暇か?」

「はいっ!?猛烈に嫌な予感がするのですが!?」

「手前が人喰い虎に狙われてンなら好都合だなァ、虎探しを手伝って貰いてェ。」

そう云うと、ガタッ!と大きな音を立てて勢い良く立ち上がる。

「い、いい嫌ですよ!!それってつまり『餌』じゃないですか!!誰がそんな…!!」

「報酬出ンぞ?」

「っ!!」

「手前今無一文だろ?チャンスじゃねェか」

「後国木田は社に戻ってこの紙を社長に」

「おい、二人で捕まえる気か?まずは情報の裏を取って____」

「いいから戻れ」

「……」

渋々と言った雰囲気で戻る。


「ち、因みに報酬はいかほど?」

「ンァ?あー、大体これくらいだな」

「!?!?!?」



























「……本当にここに現れるんですか?」

「本当だよ」

少し不安な顔をして居る。まぁ、初対面だもンな。

「なァに、心配は要らねェよ。虎が現れても俺の敵じゃァねェ。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」

「…はは、凄いですね、自信のある人は、…僕なんか孤児院でもずっと『駄目な奴』って言われてて____」

「そのうえ今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で、」

落ち込んだ声で、淡々と、少し震えた声で中島は云う。

「こんな奴がどこで野垂れ死んだって、…いや、いっそ食われて死んだほうが____」


「……人であるだけマシだろ、」

中島の嘆きに対して、誰にも聞こえないよう、そう呟いた。

「……却説と、…徐々だな」

ガタンッ、と何処かで音が鳴る。

「今……そこで物音が、!!」

「そうだなァ、」

「きっと奴ですよ中原さん!!」

「…いや、風で何か落ちたンだろ」

「ひ、っ人食い虎だ!!僕を食いに来たんだ!!」

「座れよ、虎はあんな所からは来ねェ。」

「ど、どうして判るんですか!?」


「…抑も変なンだよ。中島」

「経営が傾いたからッて養護施設が児童を追放するかァ?経営が傾いたなら一人二人追放した所で何にも変わりやしねェ。半分くらいを他所の施設を移すのが筋だ」

「…中原さん、何を云って__」


上の窓から月光が中島を照らす。


「手前が街に来たのが二週間前。」


「虎が街に現れたのも二週間前だ。」


中島の姿が白虎の形になっていく。


「手前が鶴見川べりに居たのが四日前。」


「同じ場所で虎が目撃されたのも四日前だ。」




「国木田が云ってただろ?『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いッてなァ。」


「巷間には知られてねェが、この世には異能の者が少なからず居ンだよ。」





「その力で成功する奴も居りゃァな、」


「力を制御出来ずに身を滅ぼす奴も居ンだ」

「大方施設の奴らは虎の正体を知ってたンだろうな。」

「だが手前には教えなかった。」

「手前だけがそれを知らなかったンだ。」

「手前も『異能力者』なンだよ。現身に飢獣を降ろす月下の能力者_____」

虎がこちらに飛び掛ってくる。

「ハッ、好都合じゃねェか。」

虎の額に触れると、虎は地面に沈む。

「俺の異能力は触れた“もの”の重力の重さとベクトルを操る。」

「大人しく気絶してろ、人虎」


虎は瞳を閉じ、元の青年の姿に戻る。

「おい中原!」

「おぉ、遅かったじゃねェか。虎はもう捕まえてンぞ」

「!…その小僧……じゃあそいつが」

「あァ、虎の異能力者だよ。変身してる間の記憶がなかったんだろうな」

「全く___次から事前に説明しろ。肝が冷えたぞ」

ぴらり、と自分の書いたメモを見せる。

『五番街の西倉庫に虎が出る

逃げられぬよう周囲を固めろ』

「おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ。皆に酒でも奢れ」

「莫ァ迦、皆と酒が呑めンなら寧ろご褒美だよ」

倉庫の入口から人影が三人。

三人ともが中原と同じ武装探偵社社員である。


「なンだ、今日も怪我はなしかい中原。つまんないねェ、」

与謝野晶子_____

異能力『君死給勿』

「はっはっは、中々できるようになったじゃないか中原!僕には及ばないけどね!」

江戸川乱歩_____

異能力『超推理』

「そのヒトどうするんです?自覚はなかったわけでしょ?」

宮沢賢治____

異能力『雨ニモマケズ』

「どうする中原?一応区の災害指定猛獣だぞ」

国木田独歩_____

異能力『独歩吟客』


「あァ、実はもう決めてあンだ」

中原中也_____

異能力『汚れつちまつた悲しみに』


ちら、と中島の方を一度見遣る。


___『こんな奴が何処で野垂れ死んだって___

いやいっそ喰われて死んだほうが____』


表情を笑みに変え、

「ウチの社員にする」

と言い放つ。








「はあぁあああぁぁぁ!?!?!?」






これが事の始まり___


怪奇ひしめくこの街で

変人揃いの探偵社で

これより始まる怪奇譚


これが先触れ

前兆し______





中島敦_____

異能力『月下獣』

武装探偵社社員 中原中也

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