テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
200
9
注意⚠️
名前無し
伏黒恵夢小説
オリスト
原作関係ない
雨上がりの匂いが、まだ残っていた。
校舎裏。人の気配が少ないこの場所は、あなたのお気に入りだった。
「……こんなとこにいたのか」
低く落ち着いた声。
振り返ると、そこにいるのは伏黒恵。
「任務終わったの?」
「あぁ」
短い返事。
それでも、来てくれたことが少し嬉しかった。
「……怪我、してる」
あなたが指摘すると、彼はちらりと腕を見る。
「たいしたことない」
「よくないよ」
思わず一歩近づく。
「ちゃんと手当てしないと——」
「いい」
ぴたり、と言葉を遮られる。
その声は、少しだけ強かった。
「……」
気まずい沈黙。
さっきまでの距離が、急に遠くなる。
「……悪い」
ぼそりと、彼が言う。
「別に怒ってるわけじゃない」
「ううん、私こそ」
慌てて首を振る。
「勝手に心配してるだけだし」
言ってから、少しだけ後悔した。
でも、もう遅い。
「……心配する必要はない」
また、あの言葉。
でも今回は、少し違う響きだった。
「俺は呪術師だ。こういうのは日常だ」
「それでも——」
「それでも、だ」
静かに断ち切られる。
分かってる。
彼は間違ってない。
この世界は、優しさでどうにかなるほど甘くない。
それでも。
「……ねぇ、伏黒くん」
「なんだ」
「もし私が、足手まといになったらどうする?」
少しの間。
彼は、考えるように目を伏せる。
そして——
「切り捨てる」
迷いのない答えだった。
心臓が、どくんと鳴る。
「……即答なんだ」
「迷う理由がない」
その目は、まっすぐで。
残酷なほど、現実的だった。
「任務中に情は挟まない」
「……そっか」
笑えたかどうかは分からない。
その言葉は、ずっと胸に残った。
消えることなく、沈んでいくみたいに。
数日後の任務。
予想外の強敵。
崩れる建物。
響く悲鳴。
「伏黒くん……!」
瓦礫の下敷きになり、動けない。
足の感覚がない。
呪力も、ほとんど残っていない。
「……待ってろ」
彼の声。
近くにいる。
「今、出す」
必死に瓦礫をどかそうとする。
でも——
「来るぞ!」
別の呪術師の叫び。
強力な呪霊が、すぐそこまで迫っていた。
このままじゃ、全員やられる。
「……伏黒くん」
彼が、こちらを見る。
その目は——揺れていた。
「行って」
「……っ」
「大丈夫」
嘘だ。
大丈夫じゃない。
でも、言わなきゃいけない。
「私のことはいいから」
彼の言葉が、頭をよぎる。
——切り捨てる
「……行け」
今度は、あなたが言う番だった。
沈黙。
ほんの一瞬。
でも、それは永遠みたいに長くて。
「……悪い」
低く、押し殺した声。
次の瞬間、彼の気配が遠ざかる。
戦闘音が響く。
そして——
静寂。
気づいた時には、もう何も感じなかった。
痛みも、恐怖も。
ただ、少しだけ。
「……ちゃんと、選んだね」
それだけが、残った。
任務は成功した。
被害は最小限に抑えられた。
「……一般人の犠牲も少ない。上出来だ」
報告を受けながら、伏黒恵は無言で頷く。
「ただ——」
資料に目を落とす。
そこに書かれた名前。
一瞬だけ、視線が止まる。
「……」
何も言わない。
何も、表に出さない。
それが彼のやり方だ。
夜。
一人、座り込む。
手のひらを見る。
瓦礫をどかそうとした時の感触が、まだ残っている気がした。
「……正しい判断だ」
小さく呟く。
誰に言うでもなく。
「全員助けるなんて、無理だ」
分かっている。
最初から。
それでも——
「……」
言葉が続かない。
胸の奥に、何かが沈んでいる。
取り出すことも、消すこともできない何か。
きっと彼は、これからも同じ選択をする。
誰かを救うために、誰かを切り捨てる。
それが正しいと分かっているから。
でも——
そのたびに、少しずつ。
何かを失っていく。
気づかないまま。
戻れないまま。
そしていつか。
何も感じなくなった時。
その時になって、初めて知るのかもしれない。
自分が、どれだけ空っぽになっていたのかを。
終わり。
コメント
2件
バトエン書くのうますぎ!!尊敬でしかない😭好きなキャラで書いてくれてありがとう!あ、あとフォロワー様30人おめでとう!