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連載中の「あかぎれが痛むのです」から設定取ってます
コメント失礼します! 控えめに言って最高です!!! 良い夢見れそうです!
aph/🇬🇧夢獣化(猫化)
何でもいい人向け
のんぼりとした陽向が西に傾く頃。お昼休憩が終わった(夢主)は、喫茶店から再び会議室に戻ろうとしてテラス席から立ち上がろうとしたそのとき、足元に絡み付く温もりに気付いた。
「あら…猫ちゃん ?」
アイボリーのポインテッドカラーが目立つ、スコティッシュフォールド。ぺたんと曲がった耳はフワフワの毛がビッシリ生えていた。珍しい若苗色の優しい瞳は、(夢主)をじっと射止めて離さなかった。
細長い真っ赤な首輪は、肥えたモフモフの毛に邪魔されて半分ほど隠れていたが、黄金色に輝くタグが、存在を眩く主張していた。
(夢主)は少し困った後、迷子かしら…とむむむと眉をひそめた。
まだここに滞在しても時間には間に合うが、一人間として国の方々よりも先に着席しておいた方がマナー上よろしい。そこで(夢主)は、猫ちゃん移動大作戦を実行したのだが……。
マァ、大失敗に終わった。
まず、傷付けないように微細な振動を起こしてどいてもらおうと思ったのだが、この猫。案外図太い。少し足をずらせば、締め付けんとばかりに更に強固に絡み付く。そのせいで身動きが取れなくなるのだ。
だからそれは諦めて、強行突破で持ち上げてあげようと思ったものの……。(夢主)は勉学づくしのエリート様。頭が柔らかくても、比例して身体が柔らかい訳では無いので、テーブルの下に腕も頭も突っ込むなんて無茶な芸当だったのだ。
30分尽くして結局全てが無駄に終わった(夢主)は、アメリカ人のお姉さんに連絡をした。このお姉さんは四年前にフランスの会議場で出会い、まだ新人だった(夢主)にご指導ご鞭撻を与えてくださったベテランのお姉さんだ。本会議で奇跡的な再会を果たした為、彼女に何とかフォローしてもらおうとホヤホヤ考えたのだった。
動物愛護団体に訴えられないためにも、午後の会議は遅れるかもしれません。誠に勝手ながら、補欠の方をご用意してくださいまし……と。
支離滅裂ではあったが、マァ本会議主役の国でさえ遅刻、寝坊などなど…。気の抜けた可愛い方々が多いため、殺人さえ犯さなければ基本的に許されるものなのだ。特に猫ちゃんなんて、「マァしょうがないね」で済まされる代表例なのだ。
さて、もう開き直ってコーヒーフロートを一杯頼もうかしら……と思った頃、反対車線側の通りから目立った金髪の男が走って来るのを見た。丁度会議場がある方角からの来訪者だったので(夢主)は、関係者の方かしら……とニコニコ呑気に思っていた。が、それは杞憂に済まされず。
「あ、(夢主)ちゃ~ん !」
「あれ、ウェールズさん。会議開始まで十分(じっぷん)もありませんよ」
それは見知った男であった。そしてあろうことか、息を荒くしたまま、(夢主)が座っているテラス席の真ん前に立ち尽くした。
(夢主)は自分の事を棚に上げて応えたものだが、ウェールズには関係ないらしく。
「あ、いたいた !ソイツ、その猫 !」
「あら、私。この猫ちゃんにお邪魔されて身動きが取れないのですが……この子にご用事でしょうか。」
「用も何も無いよ !ゴメンね(夢主)ちゃん、ソイツ俺の弟でね」
「弟さんと言えば…」
「そう、いーくん !また魔法失敗して、自分にかけたんだよ~ ?」
と。
(夢主)はあまりにビックリして、目を見張る。この可愛らしい毛玉ちゃんは、かの紳士様でしたの…という風に。
そして、言われてみれば、昼休憩前には姿が見えなかったような……と。
「もしかして会議中からずっとこの姿で…… ?」
「そう、俺も最初は逃がさないように抱っこしてたんだけどね、逃げちゃったから」
「逃げちゃったんですね…」
欧州各国は(夢主)の記録対象では無いので、気付かなかった。向こう側のテーブルではそんな騒動があったなんてこと。
さて、(夢主)は更に困った。元々離し難い猫ちゃんの正体が、敬うべきお国様だったということだ。それはもう触れる事すら難しいでは無いか、と。
どうやって離してもらおうかしら、と唸り出した時、ウェールズがひとつ、提案をした。
「そうだ(夢主)ちゃん、いーくんにキスしてあげてよ」
「おぉお……恐れ多いの極み……」
悪魔の提案である。さも当然のように口にした言葉は、(夢主)の脳内を駆けずり回って悩みの種となった。とんだ迷惑である。
「大丈夫だと思うよ、猫にはなったばかりだし、感染症のリスクは低いと思うけど」
「そういう問題では……」
「御伽噺の王子様とお姫様も、キスして解決するでしょ?」
「……あれ、そうかも ?」
色々と思うことはあるはずだが、マァ度重なるショックで脳が焼けた(夢主)には関係ない。
蛙よりはマシよね、とふわふわした考えを示し始めたからだ。例え国家公務員のエリート様でも、こういうことはあるのだ。
「わかりました、何か感染したら救急車呼んでくださいね……」
「うん、準備できてるよ。ほら、いーくん動いて」
「誰にどこへ動けと言うんだよ」
(夢主)の膝へ重たい温もりが伝わった時、頭上から従来とは違うもうひとつの声が聞こえてきた。
「あら……イギリスさん。戻りましたの……」
見上げれば、見知った顔の男が腕を組んで立っていた。若苗の瞳、榛の暗い金髪。見知った分厚い眉毛は、猫ちゃんとお揃い。
「いーくん、猫になったんじゃないの ?」
「もう治った、時間経過で勝手に戻る……それよりお前ら、何してたんだ」
スコティッシュフォールドは不意をついて、茂みの中へ飛び込んで行った。葉擦れの音以外は何も無く、沈黙が続いた。
今日の午後は、それだけだった。