「異界の者? あの作業員のことか?」
私は恐ろしい作業員との激闘を指摘され、恐怖がまざまざと蘇る。
「異界のものは本来は人間だけど、現実の世界と夢の世界で、何らかの事象で挟まってしまって、この世でもあちらでも、とても苦しくて理性を失ってしまっているの。決まって、大抵は危険な行動をしてくるわ。そして、例えどちらかの世界で、死んだとしても、また復活をするの。本体の人間は無事だから」
「本体の人間って、どこにいるの姉さん?私は本でしか読んだことがないからよく解らないのよ」
呉林は真剣な顔で聞いている。
「解らないわ私でも。でも、何か感じるものがあって、それが言葉では現せられない結論へと私を導いてくれているの。とても強い力よ。……その人たちはどちらでもない世界にいるようよ」
「あの。殺しちゃっても本体は無事なんですよね。人殺しにはならないんですか」
私は半ば血の気の引いた顔で尋ねる。
「ええ。人殺しではないわ、大丈夫よ。でも気を付けて、何度でも蘇るから」
霧画は声のトーンを低くした。
「やったー!私のご主人様は、犯人にならない!ならない!」
今まで話に加わらなかった安浦は、居間でも反響するくらいの声をだし万歳をしている。
「よかった」
私はカタカタと震えている手を揉んで、ほっとした。怖さが薄くなりだした。仮に異界の者だとしても、人を殺すのは精神的にかなり辛いもののようだ。
「取り合えず。南米に行かなきゃならないのね」
呉林は溜め息まじりに呟いた。
私は「どうやって」という当たり前のことを、口に出そうとしたが飲みこんで、
「飛行機代と何週間の滞在費を稼ぐしかないか」
私はがっくりとした。週払いで薄い私の財布で、南米まで……不可能では? パチンコや競馬でも稼げない。ギャンブルが駄目だとすると……まじめに働くしかないか。でも、どれくらいかかるのだろうか?
「渡部と角田も連れて行った方がいいかな?」
「そうね。その方がいいでしょ。姉さん?」
「ええ。と言っても誰のこと?私も行こうかしら?」
なんとも大旅行になりそうである。そして、一週間も赤レンガの喫茶店の開店を待つ必要が完全になくなった。
せんべいを一人で食べつくした安浦を家に帰らせてから、一人で帰ることにした。
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