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「えーと……峠のカーブの多いような道に、時たまドライブに繰り出していまして……。20代の頃の話なんですが……」
山の曲がりくねった道を好んで走っていたとか、いわゆる走り屋みたいで……。実際はそうではなくて、ただいかにカーブを上手く乗り切るかを楽しんでいただけなのだけれど、どうしても喋るそばから、若気の至りの気恥ずかしさが込み上げてくるようで……。
「そうなのか……?」
「……はい、ですが今はもうそんなことは……」
照れくさくて仕方がないので、もうこの辺で終わらせてくれたらと願いながら、口の中でボソボソと喋った。
「……すごいな」
驚きを隠さないままで、蓮水さんが一言を呟いて、
「今度、その山へ連れて行ってもらえないだろうか?」
興味が尽きないといった風で、目を輝かせた。
「いえ、ですがもう、あの頃のようには走れないと思うので……」
やんわりとお断りが出来ればと、なるべく無難に否定をすると、
「そうなのか? 君の昔ながらの走りを体験してみたかったんだがな……」
心底残念そうにも言われて、なんだか罪悪感にも見舞われるようで……。何て言うか私の言葉ひとつで、好奇心旺盛な眼差しで見つめたり、かと思えば打ち沈んだような顔つきになったりと……。やっぱりこれが、人たらしたるゆえんなのかもしれないと感じる。
「……でしたら、いつか機会があれば……」
と、その場を取り繕うと、
「本当にか? 楽しみにしてるよ」
その顔が、一変して嬉しそうな表情になった。
(ああーこれって、もう絶対に人たらしだ……。まさに天然で、無自覚な……)
そう思うと、伝えられたように確かに気をつけなきゃいけないのかもと、漠然と感じた……。