あれから、二十年。
もう、随分見慣れた景色だ。木々が入り組んだ森の入口、胸やけがするほど僕の魔力で充満している森の入口。全ての木々や植物や昆虫が、人里では希少なものであったり、伝説レベルにまで上り詰めたものもある。それらの全てにまるで言葉を交わして挨拶でもするように手を触れながら、二十年後のこの場所で、僕は今日もまた彼の墓石へと足を運ぶ。時が過ぎるのは速いもので、この墓を立ててからもう二十年。彼が死んでから、二十年。ああ、後悔はもうしないと決めたのに。お前のせいだぞ、この意地悪人間め。そんな彼と違って、僕は優しい魔王なんだ。矛盾かもしれないけどね。長いマントを踏まないよう気をつけながら墓石の前にしゃがみ込む。彼が好きだと言っていた、たんぽぽなる花を供え、手を合わせた。僕は、この花を知らなかった。知っていたけれど、たんぽぽという名前では認知していなかった。まあ、これが食用にもなるということは知らなかったが……あの時は彼に負けた気がして悔しかったな。でも、そのあとはたんぽぽを使った料理を作ってくれて、それがすごく美味しかったのでたんぽぽに免じて許してやろう。もし今ここに部下共がいたなら「なんて寛大なお心、流石我らが魔王様!」と平伏しただろう。はっはっはっ、もっとしてくれても良いんだぜ。そんな偉大な魔王様が今手を合わせて頂いているとうの本人である彼は、人を引き付ける魅力なんかも持ち合わせていたと思うのだけれど。彼の墓参りに来る人間なんか、もうあまりいない。来るのは教会の人間か色々な国の王族か、一年に一度しか来ないから僕は好きじゃない。一年なんて僕にとってはすぐだけどね、人間共はもっと長く感じているらしい。そんなに長いのに一度しか来ないって、どういうことだよ。仮にも世界を救った英雄なんじゃないの?人間は情が薄い生き物なんだね、怒りを通り越して呆れてしまうよ。でも、そんな愚かな種族に対して僕が無駄に思考するのも勿体ない。折角なら、もっと他のことを考えていたい。例えば今日のランチとか、ディナーとか、いつもの3時のおやつとか。ああ、なんて素晴らしいのだろう!食がこんなにも心躍るものだったのだと教えてくれたのも彼だったな。まあ、感謝なんかこれっぽっちもしていないけどね。あっかんべー。さあ、こんなことを考えていたら小腹が減ってきた。魔王城に帰って、人間共の王宮から引き抜いたシェフのおやつでも食べに行こう。そう考え、立ち上がり歩き出そうとしたときだった。
「久しぶりだな、この泣き虫魔王め」
懐かしい声が、聞こえた気がした。
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