ライブの打ち上げが終わり、みんなと別れて帰路につく。終電間際のホームで、初兎が小さくため息をついた。
「ふー、疲れたな……」
「おつかれ、よく頑張ったな」
そう言って、後ろからふいにふわりと腕が回された。
「っ……まろちゃん……?」
「ん。ちょっとだけ、こうさせて」
背中にぴったりと感じる大きな体温。
肩のあたりに、あごを乗せるようにされて、心臓が跳ねた。
「駅でやんないでや……!」
「誰もいないし、いいじゃん。疲れた初兎、抱きしめたい」
「……まろちゃん、言うこと全部ずるい」
「じゃあ、こう言おうか」
抱きしめる腕に、きゅっと力がこもる。
「今日もかっこよかったよ。ステージで歌ってるお前、すごく好きだって」
「…バカ……」
初兎はうつむいたまま、でもその手をそっと自分の腕に重ねた。
逃げない。振り払わない。
むしろ、そこに安心してるような温度だった。
「終電、来るよ」
「……あと30秒だけ」
いふの声が、耳元で低く囁く。
その声も、腕の強さも、全部ひっくるめて。
――この15cmの距離は、やっぱり心地いい。
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