「……今日はなんか、もう、だめかも」
そう言ってソファに沈み込んだ初兎は、どこか元気がなかった。
レコーディングのスケジュール、SNSの更新、動画の編集。
「頑張り屋」の名がつくほど走り続けたその足が、少し止まった。
「初兎、おいで」
「……なに」
「おいで。ちゃんとこっち」
隣に座ったいふが膝をとんとんと叩く。
渋々体を動かした初兎がそこに近づいた瞬間――
ぎゅっ、と大きな腕に包まれた。
「なっ……!?」
「今日はもう、なーんもしなくていい。甘えて? 全部俺がやるから」
「ま、まろちゃんなに勝手に……!」
「はいはい、文句は後で。今はただの“がんばりすぎた人”なんだから」
頭を撫でながら、背中を優しくさする。
その手つきは、まるで子どもをあやすみたいに優しかった。
「お前さ、ずっと前から頑張りすぎなんだよ」
「……そんなこと、ないし」
「ある。俺が見てる。誰よりも近くで、見てる」
「まろちゃんだって…」
初兎が何か言いかけて、でも口をつぐむ。
その代わり、そっといふの服の裾を握った。
「……もうちょっとだけ、このまま」
「うん。何時間でも抱いててやる」
「バカ」
「俺は初兎バカだから、問題ない」
その言葉に、初兎の肩がふるふると揺れる。
泣いてるのか笑ってるのか、わからないまま、
ただそっと、深く深く、抱きしめ続けた。
コメント
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一気読みしました!神作過ぎる…