んははっ、さぁさ、今回はどんなお題かな…♪
2回目──書き出しは『君にとって、私は友達の一人に過ぎないことはよく分かっていたつもりだった。』で、煽り文は『この声が届くまで。』です。
(君にとって、俺は友達の一人に過ぎないことはよく分かっていたつもりだった)
『その、はずだったのになぁ…?』
さめざめと、翠(みどり)は自身の新緑色の瞳に涙を浮かべて部屋の隅で小さく横になる。
翠『…知ってるもん、俺のこの恋は…元から報われないんだよ、ね…』
翠は静かに目を閉じて頭に思い浮かべる。小さな頃から知っている、大好きな白羽 蒼(しろはね あお)の事を。
『翠、翠』と呼ぶ声が、優しく撫でてくれる手が、事ある毎にはにかむ蒼が、翠は大好きで。
蒼は好きだと言ってくれるけれど、それは恋愛としてでは無い事が、鈍感な翠にもわかっていた。
それでも、それでも──
『……蒼の一番は、俺だと思ってたのに……』
つい先日、外に散歩と称して出かけた際に見てしまった。何時も翠に向けてくれるあのはにかんだ顔を、隣で歩く女の子に向けて。『ほんっとに大好き』と、声を発して……
翠『ッ……いやだ、ゃだ…いた、ぃ…いたい…よぉ…』
思い出す度、胸がずきりと痛んで。それなのに、あの時の声が耳に、頭に、こびりついて離れなくて。
翠『思い出したくない、のにっ……なんで、ずっと、…ッ…』
ぽろぽろと、大きな瞳から涙を流し、失恋した痛みに、必死に耐えて。頭の中で、必死にいい方に変えようとして。
翠(っ、蒼に、お似合いじゃんか…?すらっと長い腕と足に…さらさらな髪…それに、顔も可愛かったもんね…?)
翠は自身の手足を見る。あの子には到底敵わないほど短い手足に、少し癖のある毛で、顔はみんなは可愛い可愛いと言うがどこまで本当か分からない。
翠『……もっと…もっと…蒼に見合う容姿で、産まれたかったなぁ…』
そんな事を願っても、意味は無い。分かっている、そんなことは。
翠『…でも…でも…おれのほうが、あおのこと…すきなのに…っ…』
何度も、何度も告白はした。した、けれど。
翠『っ…届かないんだもんね、?俺の、言葉は…』
悲しいかな、そのどれも、蒼には伝わらなくて。何時も笑って撫でて、流されて終わってしまう。
翠『なんで……なんでなの…?おれの、ほうが……』
大好きなのに。そんな事は、もう言っても無駄で。頭でもすっかり理解しきってしまって。
悲しい、悔しい、こんな自分嫌いだ、と。そんな思いだけが、頭を駆け巡って。
翠『だめだ…何か…気、紛らわせなきゃ…』
どんどん自分を卑下する思いだけが浮かんでくる頭に、これではいけない。と翠は重い体を起こし、居間へと足を進める。
居間へ着くと、母は居らずテレビだけが一人、ぽつんと着いていた。
翠『おかぁさん…買い物かな』
そう考えながら、付けられたテレビを何の気なしに見始める。どうやら動物番組のようだ。
そこから10分程たっただろうか。玄関が開く音と共に『ただいまー』と、聞きなれた声が聞こえてくる。
翠『……っ…』
帰ってきた、と嬉しさと同時に、胸の痛さが再度込み上げてくる。
『あれ、みどー?翠ー?』
あの声が、何時ものように翠を呼ぶ。
翠『…お出迎え、行かないと…』
そう思いながら、途端に鉛のように重くなった足を玄関へと進める。
翠『……おかえり、蒼』
蒼『んー!!たっだいま、翠!』
控えめに、顔を小さくあげて一声かけると、蒼はぱぁっと弾けるように笑って。
蒼『手洗お!おいで翠、一緒に行くよ!』
翠『はいはい……』
少し迷ったが、とてとてと。前を歩く蒼の後ろについて行く。
蒼『~♪ん!手、洗い終わったよ翠!んじゃ、一緒に居間行こっか♪』
ひょいと、蒼は軽々と翠を抱っこして。翠はいつもならそれが嬉しい。が、今日だけはとても嫌で。
翠『やめて、蒼。嫌だ、下ろして…!』
てしてし、ぺちぺち。何度も軽く蒼の顔を不機嫌そうな声を出しながら叩いて。
蒼『えっ…なーんで、どしたの翠?俺の事嫌い?機嫌悪い?』
と、蒼が困惑したような声を上げていると
母『あんたが浮気したからじゃないのぉ?』
にまにまと楽しむように、母が洗濯カゴを持って現れて
翠(おかぁさん、洗濯物だったんだ…)
蒼『え?!浮気なんかしてないってー!!最近俺外行っても他の子撫でてないし!』
母『そっちじゃないわよ~、この前女の子と出かけたでしょあんた。それ見られてたんじゃないの?』
くすくすと笑う顔は、とても面白がっていて
蒼『あれ!?あれは猫好き仲間で一緒に翠のおやつ買いに行ったんだって!!母さんにも言ったでしょ!?』
母『あっははwそうだったかしら?』
翠『…!?そうなの…!?あとおかぁさんは楽しむのやめてよっ…!!』
蒼の言葉を聞いて驚いた後、母に何故言ってくれなかったのかと抗議すると
蒼『ほらー!翠も怒ってるよ、こんなに”イカ耳”にして!』
母『っふふ…wごめんごめん翠、そんなに”にゃんにゃんシャーシャー”言わないで許してちょうだいな』
翠『もぅ…!!!!』
翠は自身の耳をぺたりと倒し、長い尻尾を不機嫌に揺らしながらも、喉だけは安心したようにくるくると鳴らして。
蒼『もー、ほら、誤解も解けたところで…今日も疲れたしきゅーけーきゅーけー!』
そう言って、蒼はごろりと居間に寝転んで翠を撫でだして。
翠(はぁぁぁ……良かったぁぁぁ……)
撫でられながら安堵のため息を小さく着きながらも、頭の中でまた思いが浮かび上がる。
翠(……俺…一生蒼に思い伝えられないんだよね…はぁ…)
今回の1件を元に、心の底から思った事をまた思い出してしまい沈む翠に、テレビから流れる言葉が耳に届いた。
『そういえばね、私の祖母からよく聞いた話なんですけどね?猫って生き物は20歳を超えると猫又になって言葉を話せるように、そしてずっと生きられるようになるんですって!凄いですよねぇ…』
翠『……!』
ぱっ、と。思わずテレビの方に弾かれたように顔を向けて。
翠は、『これだ』と思った。猫又、猫又…!猫又になれば蒼に思いを伝えられる、蒼とずっと一緒にいられる、!なんて素敵だろう、と。
そう考えたら、いてもたってもいられなくなって。とたたたっと、蒼の顔の真横に移動して。
蒼『おわわっ?どしたー?』
少し驚きながらはにかむ蒼の口に、自身の口を、軽く重ねてから、宣言するように大きな声で。
翠『俺、長生きする、!沢山生きて、猫又になって…蒼に伝える!』
翠『だから…ずっと一緒に居てね…?』
翠『蒼に届かない俺の言葉が……』
翠『──この声が、届くまで』
蒼『ん?うんうん、そんなにいっぱい鳴いてどうしたー?甘えたいのかー?よーしよしよし、それならいっぱい撫でてやる~っ』
翠(…もちろん、この言葉が、蒼に分かるわけがないけれど。それでも…愛してくれるから)
きらり。曇ってばかりだった頭が、心が。明るく晴れ渡っていくように。
翠の顔にも、笑顔が浮かび。
翠『今は仕方ないから、それで我慢してあげる!』
明るく、一声鳴いて
蒼の胸に飛び込んで。
蒼『おわわっ!…んっはは!大好きだぞ~、翠!』
翠『俺も、大好きだよ、蒼!』
飛びっきり、大好きな蒼に
伝わらなくても、届かなくても
いつか届く日を夢見ながら
好きを、大好きを
伝え続けよう
そして、いつかは─────
───届かない声だとしても
END───
コメント
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ぬっこ様なのね ぬっこ様なのね……(翠くんを誘拐する決心)
ぬっこだったのか… 確かに動物と人間じゃ叶わない恋だからか…