テラーノベル
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#追放
漆黒の帳が再び開かれし刻……
ふん……名乗るまでもあるまい。
我こそが──ツバキ。
闇と光の狭間に生まれし者。
運命に抗い、孤高を貫く聖女。
その瞳に宿りし封印された古の力──
今日は私が、カエデのメテオストライク騒動の直後の話をするわ。
◇◇◇
──バグ大岩が粉砕されたクレーター跡地(一時的な安全地帯)にて。休憩中。
「……さっきの大岩を粉砕したこのクレーターの周辺だけは、魔神族も警戒して近づいてきませんが……」
周辺の偵察から戻った辰美が、震え声で報告した。
「この先に行くにつれ、魔神族がたくさん居ました……
魔神族の数は目視では数えきれなかった……
今の私たちでは、ここから先へ進めばすぐに全滅です!
みんな、もっともっと強くなるしかありません!」
その言葉に、その場に重い沈黙が流れた。
カエデはいつも通りのんびりと石(ウィルソン)を磨いているが、
よく見るとその手は微かに震えていた。
「ククク……闇の力が疼く……怖いよぉ……サクラぁ、ひょっこり出て来いよぉ?」
私は不安を悟られないよう、左目を押さえながら精一杯強がった。
「神よ、我らに力を……」
ローザが聖典を開いて祈りを捧げている。
だが、もちろん神からの返事はない。
「……落ち込んでても仕方ないよね。やれることをやらないと……」
重苦しい空気の中、エストが口を開いた。
「そ、そうね。でも具体的にどうやって強くなるの?」
カエデが石磨きの手を止めて、不安そうに尋ねる。
「うーん……サクラお姉ちゃんと最初にやってたのはスパーリングだったかな。お互いに戦って経験を積むの」
「なるほど! ここなら広いですし、岩の壁のおかげで多少暴れても外に音は漏れません。理に適ってますが……でも、誰と誰が戦うんですか?」
辰美が首を傾げた。
「じゃあ! ツバキお姉ちゃんと辰美、戦ってみて。
辰美は人型でお願いします。手加減は……なしで」
エストが少し意地悪な笑みを浮かべて言った。
まるでサクラが乗り移ったかのような、容赦のない笑顔だった。
「え、えぉぉぉ!? 私がですか!? 手加減なし!?」
辰美が慌てふためく。
「ククク…よーし! 聖なる闇の力、とくと見せてあげるわ!」
私は左目を押さえながら、気合いを入れた。
「聖なる闇って、意味不明で斬新だね?」
カエデがポツリと呟いた。
(うっさい!)
「負けませんよ! サクラさんのために! 魔神族に勝つために!」
メラメラと炎を纏い、辰美が戦闘態勢に入った。
──ピリピリとした緊張感が漂う。
周りのみんなも固唾を飲んで見守っている。
先手必勝! いくぞ!
「くらえ! ホーリービーム♡!」
私の左目から、キラキラピカピカした光線がシュピーンと放たれる。
ビーーーーー♡
「ハートがイラッとするけど! そんな直線的な攻撃では!」
辰美はひらりひらりと軽々とビームを避け──
そのまま炎を纏いながら、こちらへ向かってダッシュで突進してくる。
「まだまだよ! ホーリービーム♡! ホーリービーム♡! 連射よ!」
私は必死に首を振って連射するが、
どれもビュンビュンシュルシュルと辰美をかすりもしない。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」
肺が鳴る。視界が白い。
あと一手、のはずだった。
だけど、もう限界に近い。
その時! カエデの目がキラリと光った。
「あーあ、ツバキったらもうバテバテじゃない。
昔はもっと体力あったのにねー」
カエデは石をポンと置くと、勢いよく立ち上がり、前に出た。
「え?」
エストが振り返る。
(……嫌な予感がする)
「ツバキの本当の力はそんなものじゃないでしょ?
ねぇツバキ、思い出してみなさいよ?
中学2年生の放課後、『青春』ってハチマキ巻いて机の上で『リンナリンナー♪』って大熱唱してたでしょう?
教室に誰も居ないと油断して、あのジャンプしながら。」
(おい……カエデ……なにを……)
「そしたらツバキの初恋の田中君が入ってきて、目を見開いて、口パクパクして、無言でそっ閉じして逃げてった『深淵の放課後事件』を!」
(……あ、それ言ったらダメなやつだよ……カエデ?)
一通り暴露すると、カエデはなぜか涙を拭った。
「や!!! やめろおおおおお!!!」
私はガクガクと震え、叫んだ。
「……田中くんの顔、今でも夢に出てくるの……
あの、魚みたいに目と口が泳いでた顔……」
(……やめろ。思い出すな……心臓が痛い……呼吸が、できない……)
でも、胸の奥にどうしようもない熱が込み上げてくる──
私はガクンと膝から崩れ落ちた。
「ツバキお姉ちゃんは昔は体力あったの!みたいな話じゃなかった!」
エストが驚きツッコむ。
だが、悪魔の追撃は止まらない。
「ツバキは……そのあと1ヶ月も部屋から出て来なくて……
やっと出てきたと思ったら今の厨二病キャラに……
うっうっ……あの事件で……明るかったツバキは死んだのよ……!」
「勝手に殺すな!!!」
カエデは好き放題言ったと思ったら、ワーンと泣き出した。
マジでこいつと友達やめたい。
「カエデさんがトドメを刺してる! というか詳細すぎる!」
辰美がドン引きしている。
「神よ……これは試練なのですか……」
ローザが聖典を抱きしめて震えている。
「カエデぇええ!!!
その話はやめろおおお!
封印したはずの記憶があああ!!!」
私はヨロヨロしながら立ち上がった!
「……そう、あれは初恋だった……最悪の初恋……」
視界がぐにゃぐにゃ歪む。いや、視界が笑っている。
「あの日から二度と歌うことも!
リンナリンナも! 田中君への想いも!
全部ッ……全部封印したのに!
なんで今さら蒸し返すのよおおおお!」
(思い出したくない……でも……消えない……)
私の悲痛な声と共に、左目から漆黒の涙が流れ始めた。
「昔の……昔のツバキを返してよ!!! 神様ぁッ!?」
カエデが泣き叫んでいる。
(なんでお前が泣いてるのか分からないよ……カエデ?)
「だからお前さ! 人の話を聞けよぉおおおおお!」
──奈落の底の奥から唸り声のような風が抜けた。
「あ、そうそう! そのあと学校中で【リンナさん】ってあだ名になったじゃない? あれ、サクラが最初に言い始めたのよね」
泣いていたカエデが秒でケロッとして言い放った。
悪魔だよこの人。
──静寂。
「……カエデぇああああ!
やっぱり犯人はサクラだったのかあああああ!
そのせいで私は──
……怖くて同窓会に行けなくなったんだぁあああああ!」
私が絶叫すると同時に、左目が怪しく輝いた。
その輝きはどんどん強さを増していく。
「大丈夫。サクラも同窓会に呼ばれもしないから」(ニコ)
カエデが満面の笑顔で言った。
なんでそんな残酷なことを笑って言えるのこの人?
(……この人、ちょっと楽しそうじゃない……?)
──その時、空気が変わった。
体から溢れる力……魔力?が、桁違いに強くなっているのが分かった。
(これは……私の中で何かが目覚めている……!)
「左目に宿る真の力──今こそ解放の時ッ!」
私の声がワナワナ、ガタガタと震える。
「こ、この魔力は……! ついに本気になったか!?」
辰美がサッと身構えた。
私は天を仰いで、壮大に叫んだ。
「我が左目に宿りし封印されし古の力よ! 闇を討ち、光を纏い、絶望を希望に変えし破滅と創造の聖眼を今ここに解放せよ!」
ゴォォォォォッ!
左目から放たれる光が、闇と光が混ざり合った神秘的なオーラとなって広がる。
私は両手で左目を囲い、叫んだ。
「このビームは……青春の弔いよッ!
もう隠れたりしない……全部ぶつける!
ぜんぶッ! あれは黒歴史。
でも今は田中君が…! それが力になるッ……!
これが……私の、新しい力よッ!」
すぅ……。
「食らえ……我が必殺奥義……《 †タナカ・ダークネス・シャイニング・ホーリービームーーーッ† 》!!!」(通称:田中ビーム)
しゅごごごごごごーーーーー†
──沈黙。
「「「「……技名ダサッ!」」」」
見事に一同が唖然とハモった。
「長すぎて詠唱不可……!」
辰美が戦慄する。
「写経が捗りますわ!」
ローザの羽ペンがすらすら動く。
「逆に好き」
エストは通常運転だ。
「お腹空いた。早く終わろうよ」
カエデがフォロー?する。
みんなが一斉にツッコんできた。
「お前らうっせーぞ! ビームで焼くぞッ!」
私は完全にヤサグレモードに入り、ビームを振り回した。
「こ、これは……」
辰美が慌てて炎の盾を作り出すが、ビームはそれを完全粉砕して貫通した!
「うわあ! す、すご……この威力……魔神族にも通用するかも…!」
辰美は咄嗟に身を翻したが、服の裾が大きく焦げた。
「くくく……これが聖女の真の力…田中君の呪いから生まれた真髄……」
私は力尽き……その場に倒れ込んだ。
「ツバキ!!よく頑張ったわ。技名は意味不明だったけど、威力は本物ね」
駆け寄ってくるカエデ。
倒れかけそうになった私を、しっかりと受け止めてくれた。
「えへへ……私……強く……なれた……? これで魔神族と戦える……?」
私はカエデの腕の中で、安堵の表情を浮かべた。
「うん! うん!」
カエデが泣きながら頷いている。
なんなのこの人!? 情緒やべーよ!?
が、その瞬間──。
ピキピキッ──!
私のオデコに、亀裂のような光る線が現れた。
(つづく)
《天の声:ちなみに田中君は今、サラリーマンで来年父親になる》
……。
(……マジかよ)
◇◇◇
おまけ(*読み飛ばし可)
──中学二年生。
ツバキの『深淵の放課後事件』から数日後。
ツバキが不登校(引きこもり)になってしまった教室で、
クラスメイトたちがヒソヒソと噂話をしていた。
「ねぇ、山田さんって……やっぱあの事ショックで休んでるのかな?」
「田中くんに見られたんでしょ? 机の上で歌ってるとこ……」
「なんか、ちょっと痛いよね……可哀想……」
その同情混じりの陰口を聞きつけたサクラが、
バンッ!と自分の机を叩いて立ち上がった。
「ちょっとあんたたち! 陰でコソコソ同情するのやめなさいよ!」
「!?」
サクラがツバキを庇った!
隣の席でメロンパンをかじっていたカエデは、親友の友情にひっそりと感動した。
しかし、サクラは満面のドヤ顔で言い放った。
「『山田さん』じゃないわ! ツバキにはもっと相応しい名前があるでしょ!
今日からあいつのことは、敬意を込めて【リンナさん】と呼びなさい!!」
「リ、リンナさん……!?」
クラスメイトたちがざわつく。
「そうよ! 誰もいない教室で愛を歌い上げる、孤高のロックシンガー!
それがリンナさんよ! 哀れむくらいなら称えなさい!」
「リンナさん……! なんだかグローバルでカッコいいね!」
カエデが純粋な瞳で拍手喝采を送る。
「でしょ!? さぁみんなも! リンナ! リンナ!」
「「「……」」」
「「「リンナ! リンナ!」」」
「なぁ?トドメ刺してない?」
田中君がキョロキョロして言った。
「うるさい!ロックを感じろ!」
サクラが一蹴した。
サクラの圧倒的なカリスマ性と、
カエデの無自覚な後押しにより、
教室は謎のライブ会場のような一体感に包まれた。
「「「リンナ! リンナ! リンナ!」」」
……こうして、サクラの「陰で哀れまれるくらいなら、いっそ伝説のネタキャラに昇華してやる」という不器用な(そして最高にタチの悪い)優しさにより、
ツバキが部屋で泣いている1ヶ月の間に、学校中で【リンナさん】の呼び名が完全に定着してしまったのである。
そして1ヶ月後、必死の覚悟で登校してきたツバキを待ち受けていたのは、
「おはようリンナさん!」「一曲歌ってリンナさん!」という陽気な地獄であり──
「……わ、私は何回死ぬんだ!?
次はど……どこから……はぁはぁはぁ……
だ、誰も私のそばに近寄るなぁああーーーーーッ」
──逃げ場を失った彼女の精神は、
現実逃避という名の『中二病』へと、完全に舵を切った。
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