テラーノベル
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凜寧.@ていふ
どれくらい走ったのか、よく覚えていない。息は切れ、胸はまだドキドキしている。
でも、なんとか“昇降口”までたどり着いた。
靴箱の並ぶ薄暗い空間。
出口の扉はすぐ目の前だ。
あれさえ開ければ……きっと、外へ。
「帰る……帰るんだ。絶対に」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
伸ばした手が、扉の取っ手に触れた瞬間。
ガタンッ!!
扉が大きく震えた。
金属がきしみ、ロックが勝手にかかっていく音がした。
「そんな……!」
もう一度強く引く。
でも、扉は動かない。それどころか――
ギチ……ギチギチギチ……
取っ手の形が変形し、歪み始めた。
まるで、俺の手首を掴んで離すまいとしているみたいに。
ゾワッと鳥肌が立った。
そのとき――背後から声がした。
「どこへ行く?」
振り返らなくても、わかった。
さっき扉の向こうにいた“それ”だ。
声は震えながら続く。
「ここにいてくれるんだろう?
忘れないって、言ってくれるんだろう?」
足がすくむ。
背中に冷たい汗が流れる。
だけど……言葉が詰まったのは、恐怖だけが理由じゃなかった。
“忘れられるのは痛い”
その言葉が、胸に残っていたから。
怖い。
だけど、逃げるだけじゃ……なにも変わらない気がした。
俺は、小さく息を吸った。
「……俺は、帰るよ」
声が震えていた。
それでも続けた。
「帰るけど……忘れたりしない。
ここで起こったことも、この学園も……覚えてる。
忘れてほしくないって気持ちも。
ちゃんと、俺が持っていくから」
沈黙が落ちる。
空気が、止まった。
まるで学校全体が耳を澄ましているような静けさ。
やがて――
「……本当に?」
その声は、怨念のものじゃなかった。
泣きそうな、力のない声だった。
俺ははっきり言った。
「うん。本当だよ。
だから帰らせて。
思い出を……未来に持っていくから」
取っ手を握る指に、力を込める。
その瞬間。
パキンッ!
何かが割れる音がして、扉の歪みが解けた。
ロックも、外れた。
「……!」
俺は引き、扉が開いた。
冷たい風が吹き込んでくる。
外の景色は白く霞み、まだはっきりとは見えない。
でも、それでも“出口”だった。
振り返る勇気はない。
でも一言だけ、背後に向けて小さく言った。
「ありがとう。俺のこと、信じてくれて」
足を踏み出す――
その瞬間、背後からかすかな声が届いた。
「……行ってらっしゃい」
風に溶けてしまいそうな、優しい声だった。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!この学園で一体昔何があったんだろう…?🤔 次の場所?では誰が待ってて、どんな思いが思いがあるんだろ。この声の正体も謎だ〜笑 続き楽しみにしてます!!