初めて会った時から、犬みたいに誰にでも懐く人だな。何て思っていた。
仕事はテキパキこなすし、俺とは違って頼られる、リーダー気質のある存在だと思っていた。
でも、俺が見ていたのはほんの一部に過ぎなかったみたいだ。
そんな彼が移動してきた部署が外れだった。
どんなに結果を残そうと、仕事が出来ようと、上司の鼻に着いたと判断されれば徹底的に苛め抜かれるような、黒に黒を重ねた裏社会のような場所だった。
密かにこの人なら、そんな闇みたいな場所でも生き抜ける。何て自負していたのかもしれない。
午後の仕事が一段落ついて、煙草を吸いに屋上に出たとき、目を疑った。
「春に自殺する人が増える」
そんな話を知人から小耳に挟んで聞いたことがある。
密かにあこがれともとれるような羨望の眼差しを向けていた彼が、自殺しようとしているなんて、誰が想像できただろう。
あまり話したことは無いし、遠目でしか見た事は無かったけど、何故か彼には
「まだ生きてほしい。」
なんていう自分勝手な想いだけが頭の中をぐるぐると回る。
かける言葉なんて在り来たりなものしか思いつかないくせに、今になって惜しいなんて思ってしまう。
どうしても、彼がトんでしまう前に一度だけ、ちゃんと話がしたかった。
そう思ったら、自然と言葉が零れて行く。
自分でも説得力の無い事を言っていることは十分に分かっている。
彼が最後に見る景色が、思い出す人が、一人で見た夕日なんかじゃなくて、俺だったらいいな。何て思ってしまったから。
あわよくば、それで踏み止まってくれたらいいな。なんて淡い期待を抱きながら、彼の隣で煙草をふかす。
今、彼の瞳には俺はどう映っているんだろうか。
「ねぇ、俺に下さい。」
吸わないんじゃなかったのか?と不思議に思いながら彼を見上げる。
渡そうと手を伸ばした右手は難なく掴まれ、驚きで地面に煙草を落とした。
驚きと戸惑いで彼を見上げたら、その綺麗な顔が近づいて重なった。
あまりに一瞬の出来事に戸惑って固まっていると、その唇が動いた。
「初めて会った時から好きでした。
未練が残って化けて出る前に、伝えたかった。」
いつになく真剣に注がれる視線に、如何する事も出来ず、ただ真っ赤なゆでだこのようになった顔で見つめ返す。
顔が熱い。
「いやじゃなければ、俺の生きる理由になってください。」
「いやじゃなければってなんやねんw」
重くて苦い、鉛のような告白のはずなのに、どこかふわっとした抜け目のあるような告白に、思わず噴き出した。
「俺は真剣なんですけど。」
と言って不貞腐れたような顔をする彼が可愛くて、つい頭を撫でた。
「君がいなくなったら、俺、困るな。」
そう言うと、そっと抱き締められた。
「それって、期待していいんですか?」
囁くように問われたそれに、応えるように抱きしめ返した。
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