テラーノベル
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君はいつも笑っていた。
少し大げさなくらい、明るくて、元気で、何もかも上手くいっているみたいな笑顔。
「大丈夫だよ」
それが君の口癖だと気づいたのは、いつからだっただろう。
本当に大丈夫な人は、そんなに何度も言わない。
でも僕は、そのことを指摘できなかった。
だって君は、そう言うことで立っていられる人だったから。
ある日の帰り道。
駅前の人混みの中で、君は少しだけ足を止めた。
「ねえ、先に行ってて」
その声はいつも通り明るかったけど、ほんの一瞬、呼吸が浅くなるのを僕は見逃さなかった。
君は気づいていないと思っているだろうけど、僕は君の“一瞬”を何度も見てきた。
「……大丈夫?」
そう聞くと、君はすぐに笑った。
「うん、大丈夫」
やっぱり、そう言う。
そのとき、遠くから玲奈がこちらを見ていた。
腕を組んで、少しだけ眉をひそめている。
後で、彼女は僕に言った。
「ねえ。あの子さ、無理してるよね」
僕は答えなかった。
答えなくても、同じものを見ていることは分かっていたから。
「でもさ、あの子、弱いって思われるの嫌いじゃん。だから踏み込めない」
玲奈は苦笑いを浮かべた。
「……あんたは、どうするの?」
その問いに、僕はすぐには答えられなかった。
でも心の中では、もう決まっていた。
僕は、何度だって会いにいく。
君が「大丈夫」って言うたびに。
君が一人で立とうとするたびに。
数日後、君は少し遅い時間にメッセージを送ってきた。
「ごめん、今日会える?」
短い文だった。
でもその裏に、どれだけ迷いがあったか、僕には分かってしまう。
君の部屋の前。
ドアを開けた君は、いつもより笑顔が下手だった。
「来てくれたんだ」
その声は、少し震えていた。
「来るよ」
それだけ言って、僕は部屋に入った。
何か特別な言葉を用意していたわけじゃない。
慰め方も、励まし方も、正直分からない。
しばらく沈黙が続いて、君はぽつりと言った。
「……私さ、弱音吐いたら、嫌われると思ってた」
その瞬間、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「強くいなきゃって。ちゃんとしてなきゃって」
君は笑おうとしたけど、うまくいかなかった。
「大丈夫って言ってたら、本当に大丈夫になれる気がしてた」
僕は、君の隣に座った。
触れないくらいの距離で。
「君が大丈夫じゃないって分かってても、僕はここにいるよ」
それは、告白でも約束でもなかった。
ただの事実だった。
君は少し驚いた顔をして、それから、初めて目を伏せた。
「……ずるいね」
「何が?」
「そんな言い方」
君の声は、もう強がっていなかった。
その日、君は泣いた。
声を殺して、肩を震わせて。
僕は何も言わず、ただそこにいた。
きっとまた、君は強がる。
明日になれば、いつもの笑顔で「大丈夫」って言う。
それでもいい。
つよがりの君に、僕は何度だって会いにいく。
君が一人で抱え込もうとするたびに。
君が「大丈夫」と言うその裏側に、気づいてしまう限り。
名前のない僕は、
君の弱さに名前をつけなくても、そばにいることを選び続ける。
それだけで、いいと思っている。
コメント
1件
作るの上手だねっ!