テラーノベル
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彼が少しでも眉を寄せ、資料を捲る手が止まれば
どの数字に不備があるのかを即座に察し、彼が口を開く前に先回りして必要な書類を整える。
「……シンデレラ。君は本当に、俺が欲しいものをすべて分かっているんだな」
深夜、静まり返った執務室で
私が淹れたハーブティーを一口飲んだアイン様が、ふっと力なく、けれど幸せそうに笑った。
ランプの灯りに照らされた、その疲れた横顔。
それがあまりにも尊く、愛おしくて。
私は自分の立場も、身の程も、すべてをわきまえられなくなってしまった。
私は気づけば、吸い寄せられるように、彼の大きな手に自分の手を重ねていた。
「アイン様のためなら、何でもしたいんです。私にできることなら、何でも……捧げますから」
口にしてから、あまりに重い言葉だったと恥ずかしくなる。
けれど、引っ込めることはできなかった。
アイン様の瞳に、今まで見たこともないような濃密な光が宿る。
彼の声が一段低くなり、重ねた手に、逃がさないとでも言うような強い力がこもる。
「……何でも、か。そういう発言を軽々としてしまうのは…少し心配だな」
アイン様の声が一段低くなり、重ねた手に力がこもる。
ぐい、と体ごと引き寄せられ、顔があまりに近くなる。
彼の吐息が私の唇をかすめ、甘い痺れが走った。
重なる視線の熱に溶かされてしまいそうになった
その瞬間
コンコンと控えめな、けれど無機質なノックの音が部屋に響いた。
「アイン様、失礼いたします。社交界デビューとなる夜会の、招待状の最終確認に参りました」
入ってきた侍従の冷静な声に、私は弾かれたように、火を浴びたかのような勢いで手を引いた。
そうだ。
もうすぐ、王城で国を挙げた大規模な夜会が開かれる。
そこで私は、正式に「アイン様の妻」として社交界の荒波にお披露目されるのだ。
「ああ、分かっている。シンデレラのドレスは、最高級のものを。宝石も、彼女の瞳の色を最も美しく引き立てるものを用意させてある」
アイン様はいつもの凛々しく、隙のない第一王子の表情に戻っていた。
けれど、その瞳の奥には、どこか冷徹で鋭い光が静かに、、宿っていた。
王宮の廊下を歩けば、壁の向こうから刺すような視線を感じる。
「どこの馬の骨とも知れない侍女が、王子をたぶらかして妃の座を盗み取った」───
そんな、悪意に満ちた噂がすでに毒のように広まっていることは知っていた。
アイン様を狙い、虎視眈々とその座を窺っていた令嬢たちの、真っ黒な嫉妬。
アイン様の隣に立つということは、彼の盾になるということ。
彼の評判を傷つけないよう、すべての非難を私が受け止める覚悟はできていた。
私を待ち受ける運命の夜会。
その幕が開く瞬間が、刻一刻と近づいていた。
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