テラーノベル
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ついに、私の運命を大きく変えることになる夜会の朝がやってきた。
鏡の中に映し出されているのは、見慣れた質素な侍女服姿の私ではない。
雪のように白い肌を、残酷なほど鮮やかに際立たせる深い夜空のような紺青のシルクドレス。
王室専属の職人が数ヶ月の歳月をかけて一針ずつ縫い上げたという銀の刺繍が
私のわずかな動きに合わせて本物の星屑のように瞬いている。
「…これが、本当に私……?」
信じられなくて、震える指先でそっと鏡の表面に触れた。
かつて叔母様たちに「灰かぶり」と蔑まれ
地下室でボロ布を纏って震えていた少女の面影は鏡の中のどこにも見当たらない。
けれど、外見がどれほど豪華に着飾られても
胸の奥に根を張る「私のような汚れた者が、アイン様の隣にいていいのか」という
消し去ることのできない卑屈な不安までは拭い去れなかった。
そのとき、背後から重厚で落ち着いた足音が近づき、部屋の空気が一変する。
「……ああ、やはり思った通りだ。これほどまでに美しくなるとは。俺の目に狂いはなかったな」
振り返ると、そこには第一王子の正装を完璧に着こなしたアイン様が立っていた。
燃えるような赤髪をきっちりと整え
数々の勲章が並ぶ軍服に身を包んだ彼の姿は、あまりにも眩しくて正視することさえ躊躇われる。
アイン様は息を呑む私にゆっくりと歩み寄ると
手に持っていた小さな漆黒の革箱を、私の目の前で開いた。
「仕上げだ、シンデレラ。これを着けて。君のために用意させたんだ」
箱の中に収められていたのは
眩いばかりの輝きを放つ大粒のダイヤモンドが連なるネックレスだった。
その中央で静かに揺れる青い石は、まるであの日
絶望の淵にいた私をアイン様が救い出してくれた時に見上げた、澄み渡る空の色そのものだった。
「そんな、こんな高価なもの……!たとえ一日限りの借り物だとしても、私には恐れ多くて身に着けられません……!」
あまりの重厚さに首を振る私を、アイン様は逃がさないと言わんばかりの強い眼差しで制した。
「借り物じゃない。これは、俺から君への個人的な贈り物だ。……そして、君が誰のものであるかを示す、証でもあるんだよ」
アイン様は私の拒絶を優しく、けれど断固として遮るように背後に回った。
首筋に、冷たい金属の感触が這う。
彼の熱い指先がうなじに触れるたび、そこから電気のような痺れが全身を駆け巡る。
カチリ、と逃れられない錠が下りるような硬い音がして、ネックレスが私の首元に固定された。
それはまるで、高貴な主人がお気に入りの小鳥に繋いだ、甘美な首輪のようだった。
「……よく似合っているな。これで、誰がどう見ても君は俺の妻だ」
アイン様の声は至極穏やかで優しかった。
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