*9月15日放送ミセスLOCKSネタ
・元貴くん誕生日プレゼントにスマートクローゼットが欲しい
・『藤澤涼架のそれだけはやめて!』
・『ベンのミッドナイト・モーニング』
『しわのばし 脱臭 ボックス』
それらの言葉で、スマホでネット検索を掛ければ、すぐに該当のものが一番上に出てきた。スマートクローゼット…へぇ…。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、…さんじゅうにまん?!
「元貴これ32万もするよ!? 超高級品じゃん!!」
「元貴にとっては、端金なんだろ。」
「嫌なこと言うな。ちゃんと高いって言っただろ。」
八月下旬、九月分のラジオ収録を終えて、僕たちはスタッフさん達と仕事部屋に集まって、しばしの休憩をもらっていた。
元貴と並んでソファーに座りながら、飲み物を貰ってぐだぐだとおしゃべりする。若井はソファー前に立って、腰に手を当てて飲み物を飲んで、離れたところで会話しているスタッフの様子を眺めていた。
「こんな…二、三着しか入らなさそうなクローゼットなのに…。」
「いや、クローゼットとして使おうとしてないから。皺伸ばしだって言ってんだろ。」
「でも、前買ったスチーマーだって割と俺が朝」
『スチーマーだって割と俺が朝、元貴の服も一緒にかけてる』
そう言おうとして、元貴に口を手で押さえられた。若井も口パクで『バカ』って言ってる。
そうだった。僕たちは同じマンションに三部屋借りてもらっているけれど、僕と元貴がほとんど一緒に暮らしている事は、三人だけの秘密だったんだ。僕は、少し離れたスタッフさん達をチラ、と見て、誰もこちらを気にしてない様子にホッとする。
「…アホ。」
「あは、ごめんごめん。」
元貴が呆れた顔をして、僕を窘める。僕は苦笑いで、誤魔化した。
「いやぁ、それで言うと、ラジオの若井凄かったね、流石だよ。」
「どこがだよ、あんなおふざけ。電波で流しちゃダメだろ。」
「『流石なのかい?! ダメなのかい?!』」
「「『どっちなんだい?!』」」
僕と若井が一緒に言って、ケラケラと笑う。元貴も眉を下げて、さっきの収録の思い出し笑いをしているようだ。
「まー、涼ちゃんのに比べたら、録れ高はあったわな。」
元貴に、痛いところをグサッと刺された。わかってるよ、自分の時は全然盛り上がらなかったのなんて。若井みたいに元貴を楽しませたかったのに、実はちょっと、いやかなり、落ち込んでるんだから。
「二人はさ、なんかやっぱ、中学の休み時間ってこんな感じだったのかなってなるよね。」
僕が、元貴と若井に向かって笑いながら言った。二人は、中学からの幼馴染で、僕には出せない、なんというか、空気感、みたいなのがあると思う。
「別に、あんなんじゃなかったけどな。」
元貴がなんでもない風に言い放つ。
「いやあんな感じだろ、俺の小粋なギャグでいつも元貴笑わせてたじゃん。」
「いや? 冷めてた冷めてた。」
「おぉーい!」
やっぱり、二人のやり取りは、どこか幼い感じがして微笑ましくて、面白い。僕も一緒になって笑ってしまう。
「てゆーか、涼ちゃんの時は、元貴が悪かったよな、アレ。」
「なんでよ。」
「全然協力的じゃなかったやん。涼ちゃん困らせて。」
「なんにも答えてくれなかったもんね、元貴。やっぱ俺だけのせいじゃないよね。」
「いやいや涼ちゃんのMC力不足だよ。」
「なぁんでよ!」
その日の打ち合わせやなんかの仕事を終えて、送迎車で三人ともマンションに送り届けてもらう。マンションの上層階、ワンフロアに三部屋しかないところが、僕らの家だ。角部屋が良い、との事で、元貴と若井が両端を、僕が真ん中の部屋を住処としている。
「んじゃ、おつかれー、おやすみ〜。」
若井がひらひらと手を振って、自分の家へ入っていった。僕も、真ん中のドアを開けるべく、鍵を探しながら、元貴に挨拶をしようと振り向くと、その前に腕を後ろから掴まれた。
「なんで帰んの?」
「え?…いや、別に…。」
「…ちょっと。」
そのまま腕を引っ張られて、元貴の部屋の方へ連れて行かれる。
そのまま玄関に押し入れられて、元貴はさっさと家の中へ入ってしまった。僕も、靴を脱いで、元貴の部屋へと帰る。
「リョウカ〜、ただいまぁ〜。」
リビング入ってすぐのケージに近寄り、尻尾を振りつつピョンピョンとケージの縁に脚を乗せて跳び続ける元貴のわんちゃんに声を掛ける。僕が、元貴のわんちゃんに思い付きで『リョウカ』と名付けさせてもらって、そのまま定着しているのだ。
「待っててね、手洗ってくるね〜。」
洗面所で手洗いうがいを済ませてから、リョウカを抱き上げる。ふと、元貴はどこだ、と視線を彷徨わせると、早々にソファーに座っている元貴の頭が、後ろから見えた。
今日は、制作作業はなさそうだな、とその後ろ姿から推察する。リョウカのご飯やお水を用意してあげて、遊びを催促するリョウカの相手を、床に座ってしていた。
不意に、隣に元貴がしゃがみ込んでくる。
「…涼ちゃん、なんか落ち込んでる?」
「え…?」
「いや、一人になろうとしてたから…違う?」
「…う…うーん…。」
僕は、リョウカが噛んで引っ張るおもちゃを握りながら、言葉を濁した。
「なに? …俺、なんかした?」
「ううん! 違う違う! 元貴じゃなくて…まぁ、いつもの、俺の、反省…みたいな。」
元貴が、じっと見つめてくる。これは、反省の内容を言え、と言われてるんだろうな、と僕は察した。
「…ラジオでさ、二本立てのやつ。なんか、久しぶりにダメダメだったなぁ〜と思って。若井のベンはあんなに盛り上がったのに。」
「やっぱり…!」
元貴が背中をバシッと叩く。
いった…。
「やめてよ涼ちゃん! ベンで落ち込まないでよ!」
元貴が床に座り込んで、ははは! と笑う。
「だって…元貴だってあんなに楽しそうでさ、若井ってすげーなぁーって思うじゃん。」
「いやあいつはすごいよ。アレをやり切んのはマジですごいと思う。俺もできないもんあんなの。」
ほら…。
僕は、リョウカにおもちゃを取られて空っぽの手を、組み合わせてイジる。
「でも、涼ちゃんの真っ直ぐなMCがあっての、ベンでしょ。」
「え?」
「最初から若井がベンでめちゃくちゃしてても、あんな上手くいってないよ。涼ちゃんの、真面目で、俺に困らされてるやつがあってこそ、活きてると思うよ、あのベンは。」
「…そう?」
「てかやめて、ベンを深掘りさせないで、俺に。」
元貴は眉を下げてククッと笑う。僕も、なんだか真面目に話してたのが可笑しくなって、はは、と笑った。
リョウカがおもちゃをその辺に放ったらかして、僕の胡座に登ってきた。
「よしよし。お前も慰めてくれるのか、ありがとう〜。…元貴も、ありがと。」
「ん。」
元貴が手を伸ばすので、リョウカを抱き上げて渡す。ちょっと拗ねた顔をして、リョウカを受け取り、元貴もリョウカを撫でる。
「…俺は、涼ちゃんが恋人な分、人前では若井を意識的に優遇してるから。」
元貴が、ポツリと呟く。
「でも、それに傷付かないでね。んで、傷付いたら俺に言って。」
「…うん、わかってるよ。…ごめんね。」
元貴は、僕と付き合っていることで、僕と若井とのバランスにすごく気を遣って考えてくれている。それに気付かないほど馬鹿じゃないし、それに嫉妬するほどヤワでもない。けど、やっぱり時々は、胸がズキンと痛む時も、ある。この絶妙なバランスを、僕だって努力して守っていかないといけないのだ。
リョウカを抱っこして笑っている元貴の頬に、そっとキスをする。
「ごめんね、ボブのこと深掘りさせちゃって。」
「…ボブなのかい? ベンなのかい?」
「「どっちなんだい?」」
二人でクスクスと笑う。僕たちの顔を見比べて、リョウカは首を傾げていた。
「…ところで、ホントに買うの? あの、スマートクローゼット。」
「…涼ちゃんがね。」
「…え。…それだけは、やめて。」
ニヤリと笑って、元貴が僕に唇を重ねた。
コメント
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七瀬先生、すげぇよ!みんなベンが刺さってるよ笑 みんなベンに期待してるよ🤣🤣 嬉しいよ! ずっとベンが居座ってるからね!やっと日の目を見るね✨ 今だけは…今だけはベンのこと言わせておくれ🤣笑
またまた笑ってしまったw こういうのも全然アリ◎ もとぱの自由さとその場の空気を読んでやらざるを得ない涼ちゃんが日常すぎて、またそれがいいのかも。涼ちゃんもまんざらでもない感じw 遂に満を持してベン登場!! もちろんベンの気になる点はいくつかあるけどそれをサラッとうまく纏めちゃうんだろうな七瀬さんは!!
ごめんなさい他のストーリー全部ぶっ飛ばしてこれみちゃいました!!😭ベン語ってるのやばいですWWWWWWWWW