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第二章 冷めたパスタ
ソファーでいつの間にか寝てしまっていた。
時計の針を見ると、すっかり明日に変わった時刻を告げる針が今まさにカチッと動いたところだった。
携帯を見るけど、なんの通知も来ておらず、一緒に食べようと蓮の帰宅を待ちわび、固まった二人分のパスタの麺が、不憫だった。
お腹も空いてるのに、食欲はない。
寝室の扉を開けて、ベッドと壁の隙間に座ると何だか落ち着いた。
暗い部屋にひとりきり。このひと月、ずっとひとりだ。
翔太📩「まぁ〜だ?待ちくたびれて化石になっちゃう」
いつから一人がダメになっちゃったんだろう。
ようやく会えた愛しい人は、明日にはまた、海を渡って行ってしまうというのに。
時空も距離も飛び越えて君に会えるなら、俺は何もいらないのに。
そんなバカなことを本気で願ってしまうくらい、俺は寂しくて、壊れそうだった。
固まったパスタをゴミ箱に捨てようと、お皿を取ると、震える手は流しの上で止まった。
「ごめんね君に罪はないのに……」
頰に伝う涙は、いつだって蓮が拭いてくれる。そうでしょ?
蓮 side
寒そうに体を縮こませ、膝を抱えたまま眠っている。
いつだって翔太は一生懸命で、不器用だ。
素直が一番の取り柄のはずなのに、〝会いたい〟を言えないで、随分と我慢しているようだ。
「ふふっ本当に化石なっちゃった?」
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
こんな筈じゃなかったのに。
もっと翔太に触れられる筈だったのに。
頰に触れた手は冷たく、
湿った頰に水滴は残っていない。
ただ、涙の跡だけが悲しく筋を描いていた。
「翔太風邪引くよ」
目を開けた瞬間藍黒色の瞳を揺らして、俺の首にしがみ付いた翔太は、枯れていた涙を一筋流すと、堰を切ったように声を荒げて泣き出した。
「遅くなってごめんね……大丈夫?」
いつものようにコクリと頷いた翔太。あぁ久しぶりのこの感じ。ようやく帰ってきたのだと実感した瞬間だった。
「キスしても?」
またコクリと頷いた。どうしちゃったんだろう……元気もないし、何故か一言も喋らない。
声が聞きたい……
唇を重ね、離れた。
意識的に離れて行った気がした。気のせいかな。もう一度キスしようと近付くと、勢いよく立ち上がった翔太は〝お腹空いたろ?〟そう言ってキッチンへ向かっていく。
「ごめん食べてきた」
「ーーそう」
今まで聞いてきた彼の言葉で、一番悲しそうで辛そうな声だった。
「翔太、大丈夫?」
「冷蔵庫入れなきゃね…………良かった今日の晩御飯はパスタで決まりだ!寝なきゃね蓮疲れたでしょ?あっお風呂入らなきゃだよね!入れてくるね」
リビングを右往左往して何かをはぐらかす様に慌てふためいて、視線を逸らす翔太は不自然だった。
腕を掴み制止すると、目に涙をたくさん溜めて、崩壊寸前の彼は俺を拒んだ。
「離して」
「悪かったよ。ごめんね帰るの遅くなって……仕事が」
「俺の問題だから……仕事なのは仕方ないでしょ?大丈夫だから、少しだけセンチメンタルなだけだ」
振り解いた手を、放って置けるほど、俺は翔太を軽視してない。一人でこの部屋で待つ辛さも孤独感も俺は分かっているつもりだ。
「どうして欲しい?ベッド行く?それとも一緒にお風呂入る?」
翔太は何も語らない。抱き抱えて脱衣所に連れていくと激しく抵抗した。一緒にいるだけで十分だとでも?触れられる事が余程嫌なのか、ズボンの裾をグッと握りしめて、顔を逸らした。
「何かいいなよ?意味が分からない」
「ごめんなさい…………怖い」
今更、触れられるのが怖い?何度も愛し合ったのに?必死に涙を堪えて上唇を噛んだ翔太は、何かを言えずに我慢している様に見えた。〝少し話そう〟ソファーに座って翔太の手を握った。〝冷たいね〟そう言った俺に、ようやく笑った翔太は〝ずっと待ってた〟と言って一筋の涙を流した。
「隅っこ、好きだね」
「暗いとこ…落ち着くから………一人でも少しだけ平気になるの」
「触れてもいい?」
「だめ……これ以上好きになりたくない」
「どういう意味?」
また目を逸らした翔太は〝早くお風呂入ってきて〟冷たい声色でそう言うとキッチンに立ち、コーヒーを淹れる準備を始めた。後ろから抱き竦めて真意を解いた。
時間は無限にある訳じゃない。時計の針がカチカチとなる度に翔太との時間が減っていく。
俺のいない間に、他の誰かを想った?
「やめて!俺に触れないで!」
振り解かれた俺の腕は、ダラリと床を向いて行き場を失った。
「俺は一時も離れたくないのに、君は違うの?会いたかったのは俺だけ?翔太も同じだと思っていたのに、俺の思い過ごしだったみたいだ」
コメント
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目に涙をいっぱいに溜めてめめを見上げるしょぴが可愛い。隅っこしょぴも可愛い。可哀想なのに可愛い😍