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ネタ披露会の後。
寿司子が稽古場の端で、黙々とノートにシャーペンを走らせる。しかし頭の中では不満や不安でいっぱいだった。
それでも、寿司子のノートには、次のネタ案が次々と書かれていく。
そしてページの端に、無意識にこう書いていた。
『絶対ウケるまで、やめない』
寿司子の芸は見ているものが「え、何これ?」と一瞬固まるような独特の世界観であり、感想交換の場で同期からは「面白いけど、ちょっと難しい」「マニアックすぎる」と評されることが多かったが、寿司子は自分の感性を曲げるつもりはなかった。
これが自分のお笑いなのだ、と。
しかし、内心では焦りも感じていた。
周りの同期たちは、すでにコンビを組んだり、それぞれの個性を掴んで頭角を現し始めていたからだ。
このままピンで続けていて、本当にプロになれるのだろうか。
自分に才能があるのか、ないのか…と暗い思いはめぐり、思わず涙ぐみ、鼻を鳴らしそうになったとき、いきなり頭上に明るい関西風イントネーションの声がかけられた。
「なあ、あんた。さっきの宗教ネタ……ツッコミどころ満載すぎて、腹立つほどおもろかったわ!」
顔を上げると、金髪ショートヘアの少女。
確か彼女の名は――稲瀬リコ。同期で大阪・八尾出身…だったっけ?
リコは、明るく元気な関西娘で、その声は浅草の街に響き渡るほど大きかった。
人見知りの寿司子とは対照的に、常に周りに人が集まり、その場を明るくするムードメーカーだ。
強烈な第一印象の彼女との出会いが、寿司子の運命を大きく変えていくことになる。
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