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「おい敦、少しいいか。」
短く発せられた其の言葉に一人の少年が顔を上げた。
やっていた作業をそっちのけて、少年は声のした方へと歩いて行く。
「何かありましたか、国木田さん。」
国木田、と呼ばれる男性は小さく唸った。
何処か怒りに満ちた顔で眉間に皺を寄せている。
その表情を見て、少年__敦は何となく云いたい事を察した。
「もしかして…また太宰さんが自殺に……?」
恐る恐る…然し確信を持ってそう尋ねた敦に、国木田は目頭を押さえながら口を開いた。
「ああ、また彼奴は仕事を放棄して川に行きやがってな。
毎度すまないが敦、あの唐変木を連れ戻しに行ってくれないか?」
申し訳なさそうに国木田は敦にそう問うた。
何時も使用している【理想手帳】に何かを書き込みながら。
思わず敦は苦笑いする。
太宰、と云うのは、敦の上司で国木田の同僚。
相当頭のキレる人で、敦を武装探偵社と云うこの組織に勧誘した張本人だ。
容姿端麗で頭脳明晰。
非の打ち所が無い程、”外見は”完璧だ。
だが残念な事に太宰は自殺愛好家。
年中無休と云っても過言ではない程、毎日女性に会っては口説き文句を云い心中に誘う。
それ所か、一人の時は高確率で川で流れている。
云わば失格人間だ。
そんな上司を持つ敦は武装探偵社に入ってからというもの、その太宰を連れ帰る役目を自然と担う事になっていた。
仕事はせずに入水自殺を試みるものだから、同僚兼相棒の国木田も常に頭を悩ませている。
その為、敦は成る可く早く太宰を連れ帰る他なかった。
「判りました、国木田さん。」
敦はそう一言述べ、国木田に一礼してから歩き出した。
必要最低限の物を持って扉に手を掛ける。
然し国木田に呼び止められた事で、その行動はストップされた。
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