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国木田に呼び止められた敦は、ドアノブに手を掛けたままの状態で振り返る。
すると国木田は少し珍妙な表情で口を開く。
「最近になって”例の殺人鬼”の話がこの横浜でも話題になってきている。曰くこの横浜にもその殺人鬼が降り立ったらしい。
不確かな情報だが、警戒するに越したことはない。その殺人鬼は過去に殺しを数万とした奴だ。
見たら戦わず、絶対に俺に報告しろ。解ったな?」
国木田は真剣な眼差しで敦を見据えてそう告げる。
其の話は敦も知っていた。
突如現れ、手に持った大きな鎌で対象の喉笛を掻っ切り、姿を消す。
その一連の流れで数多くの人間を殺してきたと云われる少女の殺人鬼だ。
容姿は曖昧だが、少女は世間からこう呼ばれている。
【血塗られた天使】
白銀の長髪に紺のワンピースを身に纏った少女。
人形の様な整った顔立ちに、天使を想わせる金色の瞳。
それに返り血が相まってこの呼び名が付けられたと云う。
勿論この容姿は誰かが想像で作った可能性もない訳では無い。
だが犯行現場を目撃した人曰く、この様な容姿だったそうだ。
この殺人鬼の話は有名で、一般市民でも少しは知っている位だった。
その為か、最早この話は単なる噂なのでは…と云う意見も多いらしい。
現にその殺人鬼は横浜での目撃情報が無いからだ。
然し今回は別だ。
なんたって、その殺人鬼がこの横浜に降り立ったと云う噂が立っているのだから。
だけどもしかしたら誰かのイタズラ…若しくは、唯の噂かもしれない。
然しながら、たかが噂__されど噂だ。
不確かな情報でも、もし之が本当なのであればかなり危険となる。
殺人鬼の対象がこの横浜に居るという事になる為だ。
敦は頭の中で考えた。
誰が対象なのか、その対象はどうやって決めているのか、そもそも本当に殺人鬼は存在しているのか。
止まない疑問が次々と浮かび上がる。
考えても解決しない様な疑問に、敦は頭を抱えていた。
目の前に居る国木田の事すらも忘れて必死に悩んでいると、ふと国木田からおい、と頭を小突かれる。
「なーにを考えてるんだ、お前は。今は不確かな事は考えなくていい。
どうせ解らないからな。
兎に角、警戒だけは怠るなよ。」
考え込んでいた敦は一瞬吃驚するものの、真剣な眼差しで云う国木田に元気よく口を開いた。
「判ってます!では国木田さん、行ってきます。」