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私の名前はジョン・ドウ(仮名)だ。本名じゃないのかだって? そりゃそうだ。私はジョンでもないし、名前もない。ただのジョン・ドゥという存在なのだ。ああもちろんジョンというのは愛称だよ。
私の職業は探偵だ。それもまともではないタイプの探偵だ。つまり、殺人事件の調査をする方ではなくて、調査員の方だ。そんなものになるくらいなら警察になった方がいいと思うかもしれないけれど、それは大きな間違いなんだ。
そもそも探偵なんていうものは、殺人事件の捜査のために雇われている人間のことを指す言葉であってね。殺人事件が起きなければ探偵の仕事はない訳だし、つまり僕らがこうして暇を持て余している以上、この事務所に依頼が来ることはありえないということになるよねえ。いやまあ、それならそれで結構なことなのだけれど……。
ああ、失礼。独り言だよ。気にしないでくれたまえ。
おや、電話だ。どうやら君たちの出番が来たようだね。仕事の依頼かな? まあいざという時に備えて心の準備だけはしておくといいよ。何事も平和が一番だけど、世の中そんな風に都合よくできてはいなくてね。
ああ、そうだとも。僕はいつだって平和主義者なんだ。だからこそこうして細々と商売をしているんじゃないか。
もちろん、君たちが僕の代わりに依頼を受けてくれるっていうなら話は別だが。
さて、誰からの連絡だろう。もし仮に依頼人だったとしたら、一体どんな用事なのか非常に気になるところではあるが……。
おっと、残念ながら違ったようだ。見知った名前が表示されていたものでね。
君達には気の毒だが、どうにもならないだろう。なんせ私は、彼を釈放してしまったのだから。
ああ、別に私だって彼と同じ考えを持っていたわけではない。
私は彼に、この世界の秘密を教えることにしたのだ。
あの男は実に興味深い存在だ。
彼のような人間がいるとは思わなかったよ。
確かに現実改変能力は強力だし、使いようによってはどんな不可能も可能にする力を持っている。しかし彼はそれを使いこなすだけの知能を持っていない。それが問題なのだ。我々には彼を適切に管理することができない。ならば、いっそ殺してしまったほうがましだ。
私はそう考え、上司を説得して実験をやめさせることに成功した。それからしばらくして、SCP-9976が収容されたことを知った。どうせろくでもないオブジェクトだろうと思いつつサイト内を調べてみると、そこには予想通りとんでもないものが存在していた。
それは一言で言うなら巨大なチェス盤だった。黒白に分かれた駒がそれぞれ一つずつ存在し、それらは互いに相手の陣地に侵攻しようとしているように見えた。そして、その中心に位置する場所に一体のキングがいた。他のどの駒よりも大きく、禍々しい姿を持つそれを見ているうちに、私の中に奇妙な感覚が生まれてきた。
これを倒せば、あるいは……。そんな思いにとらわれている自分に気づき、慌てて打ち消す。馬鹿げている。いったい何を考えているのだ、俺は。
だが一度生まれた衝動を抑えることはできなかった。気が付けば私は黒いポーンを手に取っていた。
これが何なのかはよくわからない。ただ、この駒は他のものとは違う何かを感じさせる。まるで自分を求めているかのような錯覚すら覚えるほどだ。私がこれに魅かれている理由はわからなかった。しかしこの駒だけは特別だという確信があった。
やがて、私の意識はこの駒の中へと吸い込まれていった。
そして次に目が覚めたとき、世界は大きく変貌していた。
そこは一面灰色の世界だった。どこまでも続く荒野が続き、空には太陽の代わりに巨大な月が浮かんでいる。
そして目の前では、少女の形をした化け物がこちらに向かって笑いかけていた。
「うふふ……ねぇ君ぃ~☆ ボクちゃんのことぉ、覚えてないかしら?」
彼女の名前は夢子。かつて俺のクラスにいた女子生徒だ。だが今の彼女は人間ではなかった。身長はおよそ5メートルほどもあり、全身からは鋭い棘のようなものが何本も生えている。
その姿を見た瞬間、俺は全てを思い出していた。どうして今まで忘れていたのか不思議なくらい鮮明に記憶が蘇ってくる。そうだ、あの日俺たちは彼女に殺されたのだ──。