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第42章 「神官少女の告白」
不意の訪問者
夜の帳が降りた宿に、軽やかなノック音が響いた。
俺とミリアが警戒しながら扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
白い神官服に身を包み、胸元には青い紋章――神殿の正規の証が刻まれている。
だが、その瞳は怯えと必死さが入り交じり、ただの使者ではないことを物語っていた。
「……ルーラさんを、守りたいんです」
少女は小さく頭を下げた。
神殿内部の告白
部屋に通すと、少女は名を「シア」と名乗った。
年はルーラより少し上、まだ十六か十七ほどだろう。
「神殿の一部……評議会の連中は、ルーラさんを“器”として狙っています。
彼女の持つ特別な血筋が、儀式に必要だと……」
その言葉に俺たちは凍りついた。
ルーラは俯き、小さな手で服の裾を握りしめる。
シアは続ける。
「私はまだ見習いの身ですが、巫女様のそばで書簡を扱う仕事をしています。
そこで偶然、“ルーラを捕らえよ”という密命文を目にしてしまったんです」
疑念と決意
「……つまり、アドルを捕らえたことで余計に動きが早まる、ってわけか」
俺の言葉に、シアは力強く頷いた。
「神殿の中にも正義を信じる人はいます。でも、上層は評議会に近い。
だから……今のうちに、外の者に託さなければと思いました」
ミリアが鋭く問う。
「なぜ私たちを信用するの? あなたまで危険になるのに」
シアは真っ直ぐこちらを見た。
「ルーラさんの目を見たからです。怯えていても、決して諦めていない目でした。
その光を、評議会なんかに奪わせたくない」
その言葉に、ルーラの瞳がかすかに潤む。
小さく「……ありがとう」と呟いた。
行動の兆し
俺は深く息を吐き、シアに向き直る。
「分かった。お前の覚悟は受け取った。だが神殿内部の動きを探るには、お前一人に負担をかけすぎる」
シアは首を振る。
「もう後戻りはできません。せめて――情報を伝える役目くらいはさせてください」
ミリアが肩をすくめて笑う。
「やれやれ、また妙な子が増えたわね。けど……悪くない」
こうして、俺たちは神殿の内部事情を知る唯一の協力者を得た。
次章への布石
だが同時に、神殿からの包囲網が迫りつつあることも明らかになった。
評議会が動く前に、こちらが一歩先を打たねばならない。
俺はルーラの肩に手を置き、仲間たちを見渡す。
「――神殿に踏み込む時が近い。覚悟しておけ」
その夜、静かな宿の一室で、嵐の前の緊張が確かに息づいていた。