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出発したのは良かった。

今、自分は口を手で抑え必死に息を潜めている。失敗だった。イドゥン教を避けるために、遠回りをする形にした。それが良くなかった。

人の手が入っていない場所は、悪魔の巣窟だった。 ぐおぉと唸り声が聞こえる。

ルカ(…移動しないと。)

ゆっくり慎重に足を進める。パキりと何かが壊れる音がした。枝を踏んで折った。

悪魔がこちらを向く。どこに目があるかも分からない巨大な物体が口を開けていて。

咄嗟に双剣を手に取る。

ルカ(咄嗟に手に取ったはいいけど、どうすれば…)

ルカ「…あ。」

見つけた。

ロープを悪魔の体に巻きつけて、走り反動で悪魔の上に乗る。首だ。首を狙えばいい。思い切り刺し、足で更に押す。すると、悪魔は呻き声を上げた。上げて上げて、上げ続けて。やがて鳴かなくなって死んだ。血生臭い匂いが消えてくれなくて。悲鳴が耳に残ったままで。また吐きそうになる。ぐっと堪える。1匹、また1匹、1人、また1人殺す度に僕の中の何かが壊れるような気がした。

ルカ「…疲れた。」

かれこれ同じような生活をずっと続けている。

中々この場所から抜け出すことが出来ていなかった。 1歩歩けば悪魔、また悪魔。

でもこの道を変えるつもりは無かった。

きっと彼らは僕を探しているだろう。

それまでこの体が持つかも分からないけれど。

まだ進める。どんなに怖くても、どんなに気持ち悪くても。

ルカ「…戦わなくちゃ生きていけない。」

その言葉を胸に刻んで、血塗れになってでも、抗って抗って抗って。


ルカ「…ぇ…?」

挫けそうになった。

トスク国の門番兵「入るのは別に問題ないが、掃除屋アグヌットなんて来ていないぞ?あれ程の奴らが来たとなれば、俺はあの方に申告しなければならないし…」

思わず、膝をつく。

トスク国の門番兵「おっ、おい…!?兄ちゃん大丈夫か…?俺でよけりゃ話はしてやる。とりあえず入って治療を受けたらどうだ?」

そう言い、門番兵は僕の血塗れの姿を見る。

ルカ「いやこれ悪魔の返り血でさぁ〜。別に怪我はしてないんだよね。でもまぁ洗いたいな〜とは思ってたし入ろうかな。体力もほんのちょっとだし。」

そうして、また取り繕う。

トスク国の門番兵「ゆっくり休んでけよ。」

そう言われながら、トスク国に入国する。

こんな返り血まみれの姿、本来なら真っ先に洗い落とすのが最優先だ。じゃないと、トラブルになるから。でも、今そんなことを気にかける余裕が僕にはなかった。

ルカ「…ぼったくられたって…この事…?」

ぼったくりに会うのは予想していた。

だから、予めお金を分散させていた。

でも、予想していなかった。

そもそも、偽の情報を売られるのは。

ガイド違反商売を大陸商会のお膝元で、

やるなんて予想はしていなかった。

ルカ「…どうしたら…」

そう悩む。そうだ。また情報を買えば良い。

でもまた偽の情報だったら?

そう不安の過ぎる自分の頭を横に振る。

ルカ(…これしか他に方法はないんだ。)

そう、飲み込んで。

ルカ「携帯食も残りわずか…。1度買い足そう。その為には…」

お金が必要だ。売るなら大陸商会拠点で売りたい。悪魔を討伐したら報告してくれとのお触れがあるからだ。

ルカ「…多分ここ?」

あまりの風変わりな拠点に、少し自信を無くす。とりあえず入ってみると、大陸商会の拠点であってそうだった。

受付の女性「本日はどういった御用や? 」

ルカ「悪魔討伐の報告と、その売却。」

受付の女性「そんならうちやわなぁ。報告には証拠がいるから、先に渡して欲しいんやけど…」

ルカ「はい。」

受付の女性「んー…あんさん、お名前は?」

ルカ「トグルだよ。」

女性は驚いたような顔をする。

受付の女性「生きとったん!?あんた、死んだんじゃって噂だったんよ。頭イカれたんか言われとったで。」

ルカ「あー…ちょっと事情があって。」

多分このヒトが言ってるのは、悪魔ばかりの道を選んだことだろう。

大陸商会の情報の早さには感服する。

これからは、定期的に名前を変えた方がいいだろう。


受付の女性「またいつでも来てや〜!」

手続きを終え、商会を後にする。

ルカ「元気な人だな…。報告終わり。売却も終わり。まずは服と身体を洗いに行こう。」


そうやって情報を買って、騙されて、また道中で、返り討ちにしたものを売って、また買って、騙されて、また道中で、返り討ちにしたものを売って。それを繰り返して。


ルカ「売却。」

受付の男性「悪魔か。場所は?」

ルカ「西の平原。」

受付の男性「…平原で?」

ルカ「そうだよ。なーに?疑ってるわけ?ひっどいなぁ〜、悲しくて涙が出そうだよ…よよよ…。」

受付の男性「悪かったって。その元気があるなら大丈夫だろうけど。この数だと名前が居るぞ。」

ルカ「エイド。」

受付の男性「承ったよ。」

また別の名前を名乗る。これが何回目の名乗りで、何人目なのか正直もう分からない。自分の本当の名前も怪しくなってきた。あれ、俺の一人称って、自分だっけ?

ルカ(まぁ…どうでもいいか。)

一体何年こうしているのか。きっとわたし はとっくに、大人になったんだろうな。それでも、掃除屋アグヌットは見つからなくて。


ルカ「あー、疲れたな。 」

平原で焚き火を焚き、

干し肉を齧りながら呟く。

なんでこんな頑張ってたんだっけ。

それが思い出せなくて。

ふと、腕輪を見る。

ルカ「…うちは人間じゃなかったみたいだ。」

慌ただしい生活を送ってる自覚はあった。

それでも、ごく稀にわたくしに、同伴を願うヒトも居た。 彼もそうだった。

アイツとは長く共に居た。

奴は人間だと言っていた。

歳を取らないヒトの横で、髪が白くなり、

腰が曲がり、足が弱くなった人間。

同じ人間だった。はずなのに。


「お前って、ずっと同じ見た目だよなぁ。」


そう言ったアレの言葉が忘れられない。

フィヌノア国の人間は歳を取らない。

フィヌノア国から出たことのある人間は居ないが、フィヌノア国から出れば、歳は取らなくなるはずだ。でなければ、死を恐れるあの国が国外へ行くことを許さない理由にならない。

一体どうして僕は歳をずっと取らないのか。

いや、多分成長はしている。

僅かに体が大きい気がするから。

でも老いないのは何故?

本来ならとっくに老いてるはずだ。

だって、儂は

ルカ「…今、何百歳だ?」

鼓動の音が煩い。まさか、まさか、あの、

訳の分からなかった投薬実験は、

ルカ「…えいえ…ん…に…寿命が…こ、ない…?」

鼓動の音がうるさくて。頭が割れそうで。

だってそんなのそんなのは。

ルカ「…悪魔…と…おな、じ…」

そうだった。僕が人間だなんて、そう言えば誰も言ってなかったじゃないか。

ルカ「…この戦いに終わりは無い。」

永遠に自分を偽り続けなければ、いけない。

ルカ「…ふっ…はは…あっはは!」

ああ、可笑しくて笑ってしまう。

化け物じゃないか。

きっとフィヌノア国の理想。

俺にとっての最悪。

若き体で、若き脳で、永遠に狂いきることも出来ない。中途半端に忘れっぽくだけなって。

老いてるわけでもないのに、大切な母との約束を思い出せないなんて、どんな皮肉だ。

誰にも彼にも置いてかれる。

腕輪をみて、必死に記憶を手繰り寄せる。


ルカ「何作ってんの?」

共に旅した男「んー?腕輪。俺は人間、お前は長命種。お前が寂しくなった時用にやるよ。」

ルカ「げぇっ、重たっ。」

共に旅した男「おうよ、俺の愛はトン単位だぜぇ?」

ルカ「何が悲しくて、男に言われなきゃならないんだ。」

共に旅した男「連れねぇやつだな〜。」


口では、ああ言ってしまったけれど、本当はあの時凄く嬉しかったんだ。腕輪の嵌めた腕を胸に近づける。

ルカ「…本当は寂しい。」

君がいなければ、大切な約束を

思い出させてくれる人も居なくなる。

帰ってきたらどれほど良いか。

ルカ「…あれこれ…文字が刻まれてる。」

腕輪に刻まれた文字を解読しようとする。

解読するのにそんなに時間はかからなかった。

腕輪のあちこちに忘れちゃいけない、大切なことが刻まれていた。きっと彼は自分が居なくなったら、思い出せなくなると思って、そこまで考えてこの腕輪をくれたんだろう。

ああ、いつまで経ってもお前には負けっぱなしだ。もっと生きている間に素直になれていたら

ルカ「…上を見ること。」

腕輪に刻まれた1部を読み上げ、

上を見上げてみる。

ルカ「あぁ。」

家を出て、国を出て、空をまじまじと見たことはなかった。同じだと思ってたから。

でも違った。

外から見る空は、家の窓から見る外から、きっと今までの記憶の中で、一番綺麗で。

疲れ果て、もう楽になりたいと訴えていた心が今度は別の意見を主張する。

もっと見たいと。

綺麗な景色を見たい。美味しい食べ物が食べたい。雪道を歩いてみたい。

次々と、欲望が湧き上がる。

彼の叶えられなかった、

世界一周を遂げてみたい。

できる。それが自分にはできる。

君達の何倍も生きることができる。

だから、君達の分まで、生きれる。

母の 、父の、友人の、望みを自分が叶えたい。

ルカ「…まだ、諦められない。」

どんなにボロボロになっても、どんなに忘れっぽくなっても。どんなにうちが曖昧になっても。無謀かもしれない。でも、

ルカ「アイツらより、長く幸せに生きてやる。」

きっとそしたらアイツらは悔しがる。

きっと寿命以外では死ぬ事は出来る。

でも、まだ死ぬには大量にやり残したことがあるから。置いていかれる恐怖は付きまとうけれど、それでも生きていくことを選んだ。


ばんと机の叩く音が耳に響く。

やめて欲しい、頭がガンガンと痛むから。

ルカ「…お兄さん達、いきなり失礼じゃない?顔も知らないし…人違いじゃない?」

机を叩いた男「とぼけんな、ルシアをどこにやった?」

ルカ「ルシア?」

なんだか、その名前をどこかで聞いた気がする。でも思い出せない。腕輪を見ようとする。

机を叩いた男「目を逸らしてるんじゃねぇ。」

ルカ「…あのさぁ、ルシアってのが本当に分かんないから考えてあげてるの。そんなことも分からないの?」

机を叩いた男「なっ…」

ルカ「悪いけど、俺記憶力良くないんだよ。だからこの腕輪見なきゃ思い出せない訳。これ以上は、あごの骨折れるから離してくんない?」

男は、わなわなと腕を震わせる。

机を叩いた男「…このまま折ってやる。」

あ、これまずいな。

この町のご飯屋さんがかなり評判いいみたいだから、折角楽しみに食べに来たのに。これじゃあ台無しだ。楽しそうだったお店の雰囲気も、今じゃ皆怯えてる。

そんな重苦しい空気を切り裂いたのは、制止の声を上げた男だった。

背の高い男「よせ。メジェム。」

メジェムと呼ばれた男は従わない。

メジェム「でもボス…!こいつ…!」

背の低い男「メジェム。タンザの言う通りだ。よさんか。コイツがルシアを殺したのかなんて、証拠俺らにはないんだぞ。」

メジェム「っ…!」

メジェムは悔しそうに、歯を食いしばりながら手を外す。

背の低い男「お前さんの気持ちも、もちろん分かる。ルシアの武器を持ってるなんて気が気じゃない。でも、似たような武器だって大量にあるだろう?」

メジェム「ハピィ…お前は…」

ハピィと呼ばれた背の低い男は答える。

ハピィ「もちろん、寂しいさ。大切な仲間なんだから。」

タンザ「…すまなかった。」

ルカ「本当だよ。さいっあく。いきなり寄ってたかって、覚えのないことで手を出そうとしてくるなんて…どういう神経してんの?折角の楽しげな雰囲気が台無しだ。」

タンザ「…この場にいる全員の食事代は俺が持とう。皆、楽しげな雰囲気を壊して済まない。」

ハピィ「ひゅう。太っ腹〜。 」

メジェム「そんな事しなくても…!」

ハピィ「あーあー、お前さ、いい加減にしろよ。分かんないかなぁ?お前のミスをお前のだーいすきなボスが代わりに、恥かいて庇ってくれてんの。」

メジェム「…っ…。」

ハピィに叱られ、メジェムは言葉に詰まる。

ハピィ「分かんねぇ?こうしてる間にも、ボスが恥かくんだ。ちったぁ、頭冷やした方がいいぜ。んじゃあおじさんは、メジェム連れてくっから。後よろしくボス。 」

タンザ「ああ。」

メジェムを窘めた時と打って変わって、ハピィは食事屋の全員に笑顔で話し、紙を配る。

ハピィ「いやぁ、うちの新人がすいやせんね。お詫びと言っちゃあ、なんですけど、ハートル商会に言ってくれりゃあ、オマケか、まけますんで。」

それは自分も例外なく。

ハピィ「ささ。」

ルカ「は、はぁ。」

そうして嵐のように3人中、2人が過ぎ去っていく。

タンザ「相席しても?」

ルカ「…はぁ。自分は優しいからね、認めてあげる。感謝しなよ。」

タンザ「勿論だとも。ありがとう。 」

ルカ「…あんたね…冗談を冗談と思わないタイプ?」

タンザ「いいや。今のがジョークなことくらい分かる。ジョークだろうと感謝はするべきだ。 」

ルカ「ふぅん。」

食事を続けるけど、緊張で味がしない。

そりゃそうだ。顎の骨を折ろうとしたヒトの仲間が目の前に座ってるんだから。

タンザ「彼と同じものを。」

ルカ「えっ、食べんの?」

タンザ「当たり前だろう。ここは食事処だ。食べずに居座るだけなど失礼だ。皆も遠慮せず、食べて欲しい。」

多分今全員同じことを思ってる。

ルカ(いやそう言われても気まずい…)

タンザ「怪我はないだろうか。メジェムがすまなかった。」

ルカ「なんとかね。あれなんなの?」

タンザ「ルシアに対する思い入れが人一倍強かったからな。…ルシアという名前に本当に聞き覚えはないのか?」

ルカ「知らないってば。覚えてない。 」

そう言いながら、腕輪を見る。

ルカ「あ。」

タンザ「何かあったか?」

ルカ「いんや。」

なかった。どこにも。

店主「あいよ、待たせたな。」

タンザ「できたてか。これはいいな。」

店主「喜んで貰えたようで何より。」

タンザ「君の銃を見せてもらっても?」

ルカ「は?嫌だけど。」

これは母の形見なのだ。

それだけは覚えてる。

訳のわからないやつに渡したくない。

タンザ「そうか。それは残念だ。名前を聞かせてくれないか?」

ルカ「え、なに俺プロポーズでもされんの??グステンだけど…」

タンザ「違う。」

ルカ「え?」

この町ではグステンと名乗っている。何も違わないはずだが。

タンザ「偽名や活動名でなく、本名だ。」

ルカ「なんでそんなもん教える必要が…」

教えるつもりは無かった。でも一応探してみる。なんだっけ?ルイド?イジィ?エムロ?シュウ?えー、なんだったけなぁ。

無数に作り上げた自分の中から、

忘れてしまった本当の自分を探してみる。

だけど、見つからなくて。

タンザ「…君の名前はルカか?」

ルカ「…あ…」

思い出した。忘れてはいけない大切な名前。

唯一武器以外で両親から託されたもの。

今まで作り上げた、無数の死体から、

とうの昔に死んだはずの『ルカ』をタンザは拾い上げた。ああ、そうだ。俺?違う、僕は『ルカ』で、ルシアは

タンザ「…ルシアはいつか、子供が出来たら自分の名を1部入れると言っていた。暫く考えていたが、最終的に『ルカ』 と名付けたい。そう言っていた。」

聞かなきゃいけないことがある。

言わなきゃいけないことがある。

だけれどこの身体は言うことを聞いてくれなくて。こんな急に色々思い出せば、体がついていけなくて、熱が出る。

ルカ「…まずい…」

タンザ「どうした?顔が赤いが… 」

ああ、ダメだ。意識が朦朧としてきた。

こういう時は宿に戻って休むのが1番だ。

たどり着けるか自信はないけれども。

ルカ「…ご飯…」

こんなことをしてる場合では無いのは、百も承知してる。でも、ここで食べないと勿体ない。

タンザ「…すまない。急用が出来たのだが、容器に残り分を入れても?」

店主「構わないが… 長持ちするものじゃないぞ?」

タンザ「うちの者は食欲旺盛でね。問題ないさ。歩けるか?」

そう言い、急にタンザは僕に肩を貸そうとする。

ルカ「…急に…なんの…というかこうなったのは…」

タンザ「ああ。俺の責任だ。君のことを考慮せず、質問攻めにしてしまった。」

ルカ(気持ち悪いし…本当に意識が…)

タンザ「大丈夫か?」

そう聞こえはしても、返事は出来なかった。


ルカ「…ん…」

目を開ける。

いつもなら、熱が出て寝たあとは決まって身体が暑いか、寒いかの2択だけれども。

ルカ「…苦しく…ない…?」

ハピィ「おお、目が覚めたか。悪いねぃ。起きて最初に目に入るのが、美少女じゃなくておじさんで。」

ルカ「…え?」

ハピィと目が合い、思わず困惑の声をあげる。

ハピィ「お前さん、熱が出て急に倒れ込んだのよ。お前さんがどこを寝床にしてるから分からんかったもんで、俺らんとこに、一時的にお持ち帰りって訳だ。」

メジェム「……。」

ハピィ「ほれ、謝らんか。すまんな、俺ちゃんの独断で、お前さんの銃を見せてもらった。 」

ルカ「…返してくれる?」

ハピィ「そう怒らないでくれよ。そのままじゃ休みづらいと思ってそこに置いてある。 」

慌てて銃を手に持つ。

ハピィ「お前さんの持っている銃、ボスから聞いたルカという名前の情報。それを統合した結果。お前はルシアの息子だな?ルシアはそう簡単に自分の武器を貸すような奴じゃない。何かあったんだろうってのは分かる。」

タンザ「ハピィ、大事なことを飛ばしている。俺達は掃除屋アグヌット。ヒトも、動物も、汚物も、何でも掃除する。」

ルカ「掃除屋…アグヌット… 」

掃除屋アグヌット。確かにそう名乗った。

なんだよ、こんなにあっさり会えるなんて。

なんだったんだ、この何百年は。

いや、それはきっと。

ルカ「ふっ…ふふ…あはは…!!」

笑いが止まらない。

もう感情がぐちゃぐちゃだ。

メジェム「おい、狂ったのか? 」

ハピィ「そうじゃねぇだろ。」

ルカ「あはは…はは…う…はは…うぅ…」

笑いと涙が混ざってもう分からない。

タンザ「…俺達の仲間であったルシアが、依頼を受けてフィヌノア国に赴いて、消息不明になったのは、200年以上前の話だ。…ルシアは人間のはずだ。大方予想はつく。 」

ハピィ「ボス的にはルシアについてどう思うよ?」

タンザ「ハピィ。お前も分かってるだろう。」

ハピィ「…悪かったよ。」

タンザ「メジェムもだ。この先の関係が悪くなるのは困る。」

タンザに言われ、渋々メジェムはルカに謝罪する。

メジェム「…すまなかった。お前がルシアを殺したんだと思ってたんだ。ルシアは俺たちにとって、家族のようなものだったから…いや、言い訳は良くないな。すまなかった。」

タンザは僕に穏やかな声で聞く。

タンザ「ルカ。君の母は、何か掃除屋アグヌットについて言っていたか?」

その名前で呼ばれると、朧気だったはずの記憶が鮮明に思い出せる。

ルカ「…特には…掃除屋アグヌットに、銃を見せて…ルシアの息子だって言うように、言われて…というか僕の名前はルカって決まったわけじゃないのに…」

確かに本名はルカだが、それを肯定した覚えはない。

タンザ「君の反応を見ていれば分かる。 」

タンザは急に僕の耳を手で覆う。

そうして、僕には聞こえないよう気遣う。

残念ながら、僕は耳が良いから無駄なのだけれど。

タンザ「ルシアは死んだ。この子はルシアが、自分では守りきれないと判断して、残りの掃除屋アグヌット…俺達に任せたんだろう。ハピィ、メジェム。」

メジェム「俺は賛成だ。…俺がいるのは気まずいかもしれないが…ルシアの最期の頼みなら俺は全力を注ぐ。」

タンザ「ハピィ。」

ハピィ「…俺は反対だ。」

メジェム「ボスに逆らうのか?」

ハピィ「逆らったつもりは一度もない。今もそうだ。俺ちゃんは今真剣に考えてるんだぜ?俺達は裏の住人だ。その子を、本当に守り切れるのか?」

タンザ「それは…」

ハピィ「でもルシアが託したということは、この子も1人じゃ、まずいんだろう。だから、掃除屋アグヌット、ではなくハートル商会で預かるってのは?本人に許可が居るけどな。」

ハピィがそう言うと、タンザは僕の耳を覆っていた手を外す。

タンザ「ルカ。俺達、掃除屋アグヌットは君に手を出しはしないし、手を出させない。全力で守ろう。うちに来る気は?」

ルカ「……えっと… 」

正直名乗れと言われただけで、その先のことは知らない。庇護を受けるということでいいのだろうか。戦うのも痛いのも嫌だ。熱が出ると、辛いし寂しい。でも、今はそうじゃない。

ルカ「…お願いします。」

タンザ「これから、君は名前を変えることなく、ルカとして活動しなさい。」

そうして、僕は掃除屋アグヌットの仲間として迎え入れられた。ハピィが気を利かせてくれて、仕事に関してはハートル商会の裏方だったけれど。


目の前に大量のお金が入った袋を置かれる。

ルカ「あ、あの…」

切羽詰まった男「お前も掃除屋アグヌットなんだろ!?俺は見たんだ!あのタンザと食事しているのを!この際誰でもいい!今すぐ依頼を受けてくれ!」

ルカ「ぼ、僕は…その…」

僕はあくまでハートル商会の所属だし、戦うのは無理だ。

切羽詰まった男「まさか引き受けられないって訳じゃないよな…?それとも金が足らないのか…」

ルカ「あ…」

今この場に、僕以外は居ない。

僕が断れば、掃除屋アグヌットの評判は落ちる。そうしたら掃除屋アグヌットにくる依頼は減る。僕に良くしてくれるあのヒト達に迷惑をかけたくは無い。

ルカ「…分かった。何をすればいい?」


タンザ「ルカ。」

肩がびくっとなる。

ルカ「た、タンザさん…。」

タンザ「…怪我や熱は?」

ルカ「な、ない…。」

タンザ「どうして依頼を受けたりしたんだ?」

依頼を終えた後、思いのほか直ぐにバレてしまった。

ルカ「えっと…それは…」

タンザ「ルカ。もう無理に自分を押し殺す必要は無いし、無理に依頼を受ける必要はなかったんだ。君は今回受けてしまったから、これからまた同じことが起こるかもしれないんだ。」

ルカ「…で、でも僕は…」

タンザ「俺達のことを気遣ってくれたんだろう。それも分かってる。ルカ、これから頼まれても嫌だと思う依頼があれば、容赦なく断って構わないから。今回は引き受けてくれてありがとう。お疲れ様。」

タンザさんは勝手なことをした僕に対して、ずっと優しくてこれからどうしたらいいか、色んなことを教えてくれた。

それから僕は少しでも、皆の本当の仲間になりたくて、依頼を受けるようになった。イドゥン教が近くにいる時は気分じゃ無いとか適当な理由をつけて断って。 いつしかタンザさんのことを本当の家族のように慕うようになった。


ルカ「タンザさん。」

タンザ「どうした?」

僕の髪を撫でながら、タンザさんは聞き返す。

ルカ「…あの…タンザ父さん…って呼んじゃ…ダメかな…?こんな大きな息子…嫌かもしれないけど…」

タンザ「…パパって呼んでくれたりは…」

ルカ「それは絶対に嫌だ。」

タンザ「はは。それは残念だ。…もちろんだ。」

ルカ「…タンザ父さん。」

少し気恥しかったけれど、それなりに幸せだった。

ポルポルは今日もお腹が空いている

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