ルスベスタン「終わらないんでそろそろやめた方がいいですよ。」
ノア「…結構掻い摘んだつもりだったんだけどな。」
ルスベスタン「何百年分の人生ですから。話し合いは終わりました。」
ノア「何を話したの?…って教えるわけにはいかないか。」
ルスベスタン「ええ。…でも貴方に隠し事はできない。だから観念して言いますよ。」
ノア「よくわかってるね。」
ルスベスタン「…テオスについて、話しました。」
そう一言区切り、ルスベスタンは辺りを見回す。
ノア「必要ないよ。もう大体分かったから。」
ルスベスタン「それならよかった。」
ルスベスタンはノアに向かって両腕を伸ばす。
ノア「なに?その腕は…」
ルスベスタン「記憶を覗いたならどんなパターンで自分が熱を出すか分かるでしょう?おんぶして運んでください。 」
ノア「隠し事できないって分かった途端、急に図太くなったね…。仕方がないな…。」
ルスベスタン「えっ。」
ノア「なに?」
ルスベスタン「いや…なんでもないです。」
(てっきり…恨んでるのかと思ったけれど…)
ノア「くだらない勘違いしてる暇があったら、ゆっくり休んだ方がいいよ。テオスは…被害者だ。ほら、落とすからしっかり捕まる。」
ルスベスタン「抱っこは嫌です!」
ノア「はいはい。元気な病人だね…。腕輪は?」
ルスベスタン「職場に持ってきて、無くしたくないんでハートル商会に保管してます。でもこんな長くなるなんて思わなかったから、ちょっと後悔してます。 」
ノア「…今は名前を呼んでくれるヒトが居るから思い出せるのもあるんだっけ。どんな友人だったの?」
ルスベスタン「…先程からなんで分かってることを聞くんですか?」
ノア「…誤魔化してるんだよ。」
ルスベスタン「誤魔化し?」
ノア「…テオスを連れ出したのはこのボクだ。テオスがずっとあの国にいれば、君は辛い目にあわずに済んだ。君が恨んで刺してもおかしくない。だから誤魔化そうとしたんだ。」
ルスベスタン「なんでそれ言っちゃったんです?」
ノア「バレるからだよ。君達は皆真実を見抜くのが上手くて困るよ。」
ルスベスタン「そうですか。うん、不合格ですね。」
ノア「…もしかして、ボクは勝手にテストに参加させられてたの?」
ルスベスタン「そうです。アマラさんから聞きました。トスク国にこの先行くんですよね?」
ノア「…うん。」
ルスベスタン「これから貴方達はより警戒して進まなければならない。でも、このままじゃ全滅しますよ。貴方が1番強い。なのに、簡単に首に触れさせるなんて…」
ノア「病人だからなんだけどな。 」
ルスベスタン「分かってますよ。やたら優しいんで…。でもそれを利用するヒトだって居るんです。気をつけた方がいいですよ。」
ノア「ご忠告どうも。着いたよ。」
ルスベスタン「すみません、2階まで運んで欲しいです。」
ノア「…今までどうしてたの?」
ルスベスタン「その場で簡易的な毛布だけ被って野宿するか、時々キールさんやニャヘマさん達が様子を見に橋まで来てくれて、運んでもらっていました。」
ノア「…ボクらと同じ宿に泊まったら?」
ルスベスタン「…こっちのがお城に近いんです。」
ノア「まったく、大きい子供なんだから。」
ルスベスタン「そうです、大きい子供です。」
ノア(…隠せないなら隠せないで、とことん甘えるつもりなのかな…。)
ノア「どの部屋?」
ルスベスタン「……。」
ノア「?ねえ、どの部屋?」
ルスベスタン「…ん、あぁ…えーと…階段を上がって右に三個目の部屋です。」
ノア「りょーかい。…ボクは本当どこに行ってもテオスと繋がるな…。」
ノアは自分が宿泊している部屋の扉を開ける。
アリィ「あ、おかえり。遅かったね。」
ノア「アリィ。もうお買い物は終わったの?」
アリィ「うん!楽しかった!」
ノア「良かった。 」
ジーク「どこに行ってたんだ?」
ノア「ちょっと病人を寝床まで運んでて。 」
ジーク「そうか、お疲れ。」
ノア「…誰が?とか聞かないんだね。」
ジーク「ルスベスタンだろ?指が僅かに震えてたから、分かる。呼吸も止まってることがあったし…」
アリィ「普通は分からないんだからね?」
ジーク「観察は俺の十八番なんで。」
ノア「ちょっと今引いたかな…」
ジーク「えっ」
アリィ「ほらもう。ドン引かれるだけだから、言うのはやめときなって言ったのに〜。」
ジーク「…やっぱ俺って変態なのか…? 」
アリィ「今更自覚し始めた。」
ノア「…昔からなんだね。」
アリィ「そうだよー。」
ノア「アリィ、もしかして今テンション高い?」
アリィ「ものすごく。」
ノア「やっぱり。本当、笑ってるといつもの倍かわいいね。 」
アリィ「……や、あの急に…」
アリィは急激に顔を赤くする。
ジーク「アリィは慣れてないから、口説くのは程々にしてくれ。」
ノア「ジークは言ったり…」
ノアの言葉をアリィは、
真っ赤な顔をしながら遮る。
アリィ「ノア!」
ノア「はーい。」
ジーク「…2人って今日はもう寝たいか? 」
アリィ「全然。」
ノア「特に疲れてないよ。」
ジーク「じゃあ俺の話を、聞いてもらってもいいか?ルスベスタンと話したことと…イリアと話したこと。どっちも多分2人は知らない。」
ノア「…もしかしてテオスのこと…」
ジーク「ああ。」
アリィ「よく分からないけどいいよ。」
ジーク「長くなるぞ?」
アリィ「大丈夫!」
ジーク「じゃあ…」
ジークは深くベッドに腰掛け、話し始めるかと思えば、口をもごもごさせている。
ノア「あれ、話さないの?」
ジーク「や、話す。話す…けど…これすっごい言うか迷ったんだよな…。」
アリィ「?」
ジーク「…テオスって何かわかるか?」
アリィ「全くもって!!」
ジーク「だよな。」
ノア「テオスは有名だよ。イドゥン教が神として崇める不死の存在。2人が知らないって言ってて、ボクびっくりしたんだから。」
アリィ「私達名前すらない小さな村で育ったから、世間に詳しいとは言えないんだよね…。」
ジーク「俺も知らなかった。アリィより知ってることが多いのは、町に行くことが多かったからだ。あんまり宗教の方は…」
ノア「興味がわかなきゃ聞く環境でもなかったんだね。」
ジーク「そうだ。イリアがやたらとテオスについて気にかけてたのは覚えてるか? 」
アリィ「覚えてるよ。ポルポルに対してテオスに会ったことあるのー!?って。あ。」
アリィはノアの方を見る。
ジーク「今は先に俺が話してもいいか?」
アリィ「うん。」
ジーク「そのテオスなんだけど…大々的には隠されてるんだけど、とうの昔に聖地であるフィヌノア国から失踪してて…イドゥン教はテオスを探し続けてる。悪魔に接触して最後、行方知れずってのもあってな。」
アリィ「だから2人とも食いついたんだ。悪魔をやたら擁護してたし…。」
ジーク「で、ここからが大事で…イリアが言うには、俺がそのテオス様に近いらしい。」
アリィ「…え?でもジークって10何年しか生きてないはずだよ。イドゥン教は何百年も前にあるし…」
ジーク「ああ、おかしいんだ。…多分、本当多分でしかないんだけど…テオスは、じいちゃんだ。イリアがそもそも俺に話をしたのは…」
ノア「ボクが頼んだんだ。」
アリィ「ノアが…」
ノア「テオスをあの国から連れ出したのはこのボクだよ。外見も性格もなにもかも知ってる。…ジークは、テオスに性格や、目元がよく似てる。それにテオスしかない特徴があった。 」
ジークは一度大きいため息をついて再び話し始める。
ジーク「…俺のじいちゃんは、近くの森のはずれで行倒れてたのをあの村で保護したんだ。記憶喪失で、ほとんどあそこで育った。…ノア、お前記憶の魔法を使えるんだろう?なら記憶を消すことも…」
ノア「出来るよ。そもそもの本職は消すことだったし…テオスの記憶もボクが消したんだ。」
ジーク「…やっぱそうか。イドゥン教にとってテオスは都合のいい信仰を高めるための人形だ。本当のところは何をテオスに期待してるのかは知らない。でも1つ言えることは、俺はテオスの孫で、万が一それがバレたら非常にまずい。じいちゃんはもう死んでる。じいちゃんの子供の母さんは俺が殺した。」
アリィ「となると…残ってるのはジーク…。ねぇそれじゃあ、トスク国に行って大丈夫なの?遠いとはいえ…イドゥン教の聖地のフィヌノア国が隣国なんだよ?」
ジーク「もちろん考えた。引き返すのは無理だ。元々砂漠を使って、追っ手を巻いたんだ。それに五体満足で居れる自信がない。」
ノア「砂漠でまた再会、なんてのもおかしくないもんね。 」
ジーク「なら進むしかない。砂漠を避けたとしても…俺達の目的は別大陸へ逃げることだ。今から反対の大陸に逃げ先を決めるとして…そしたら必ず、セヌス国を通らなきゃいけない。」
アリィ「うん。殺されに行くようなものなのは分かってる。…ねぇジーク、正直に答えて。貴方の判断に、全員の無事に、ジークは含まれてる? 」
ジーク「含んでるよ。」
ジークは即答する。
ジーク「含んでる。大丈夫。…約束したから。だから、トスク国には行くけど、大きくヒトが整備した道から外れてその先に行く。でもその道は悪魔が大量にいることで有名なんだ。かつて、トグルってヒトがそれを報告した。だから、今の装備じゃ無理なんだ。この国は小国であまり大したものが揃えられないんだ。でもトスク国は大国だ。 」
アリィ「装備を整えるためにも、トスク国には絶対寄りたいんだね。…分かった。それなら私は納得する。遮ってごめんね。 」
ジーク「構わない。それで…ルスベスタンが、あちこち行かなきゃ行けないせいで、暫くこの国からは出られない。でもその期間、ルスベスタンが鍛えてくれることになったんだ。だからこれから定期的に席を外す。 」
アリィ「ん、分かった。イドゥン教に狙われてるのは私だけじゃなかったんだね。私もジークのことを守るからね!」
ジーク「いや、お前は休んでくれ本当にまじで。ノア、俺が居ない間の見張りを頼む。」
ノア「はーい。ボクも話さなきゃ、ね。」
ジーク「さてと…これからの話は今した通りだ。…テオスに関してはお前のがきっと詳しい。もし話してもいいと思うなら…」
ノア「うん。話すよ。…ボクらの事も含めてね。まず、第一に…悪魔ってなんだと思う? 」
ジーク「…人類に到底及ばない力を扱う化け物。ヒトや動物を無尽蔵に喰らい続ける、飢餓に苛まれ続ける生き物。そんなとこか。」
アリィ「…私は…正直分からなくなってきてる。」
ジーク「アリィ…。」
ノア「ジークの答えはちょっと正解。飢餓に苛まれ続けている。まさしくだよ。」
ノア「ボクら、悪魔は生まれてこの方、一度も『食事』をしたことが無い。」
アリィ「それは消化器官がないからだよね?」
ノア「ううん。違うよ。ボクらには確かに消化器官が無くて、食べることは出来ない。ボクが言ってる『食事』って言うのは…魔力、生命力の補給のことだよ。 」
ジーク「それじゃあ今までどうやって…」
ノア「必要がなかったからだよ。…ボクらの故郷は、ありえないほど生命力の溢れている土地だった。減ることがなかった。空腹を知ることがなかったんだ。知る前に無意識に回復していたから。なんて言えばいいのかな…。永遠に湧き上がるエネルギーがあったんだ。もし遠くに行ったとしても、故郷に帰れば元気になる。そんな認識がいつからか出来てしまった。…ある日、故郷は襲撃を受け、皆散り散りになってしまった。その場で殺された者もいれば、一時的に逃げれた者もいた。でも、逃げたところで徐々に生命力は失われていった。そうなったら次は、ヒトの真似事だ。満たされるはずもないのに、お腹を壊すだけなのに、食べて食べて食べ続けた。そうしていくうちに悪魔へと、進化を遂げた。食事にだけ執着する、他を捨て置いた生き物に進化を。…襲撃したのはテオスで、悪魔を生んだ張本人。 」
アリィ「…悪魔になる前はなんだったの? 」
ノア「君と同じようなものだよ。ちょっと特別な力を使えるヒト”だった”。古代に失われた種族、アヴィニア人。」
ジーク「…アヴィニア…今の世界に悪魔をばら蒔いたって言われる罪人達を指す言葉に、今はなってる。」
ノア「間違ってはないんだから、イドゥン教も上手くやったよね。1000年前までは、恨んでたし、直接テオスに手を実際に下そうとしたよ。あるヒトが手を貸してくれて、そのヒトの姿を使えば、出入りは簡単だった。…一切抵抗しなかったよ。それどころか、殺した後はここから逃げたらいいって…教えてくれた。」
ジーク「…随分潔が良かったんだな。」
ノア「そりゃそうだよ。テオスは実際には手を下してない。実際にやったのは司教『クロノ』だから。テオスの陰に隠れて色々やってくれた張本人。テオスはそれの隠れ場所にさせられてただけだった。…悪魔なんて都合のいい理由、誰よりもアレが1番よく似合ってるよ。」
アリィ「…情報がいっぱい来て混乱してるんだけど…今まで殺してた悪魔達って…ヒトだったの…?じゃ、じゃあ私は…」
ノア「…もうヒトじゃないよ。気にしなくていい。もう、元には戻れない。殺すのは救いだと、思う。これからも、ヒトで居られるうちに殺してあげて。ボクはちょっとやりたいことがあるから困るけど。 」
アリィ「そ、それもそうだけど…そうじゃなくて…私って…」
ジーク「アリィはアリィだ。他のなんでもない。それに、ノアとアリィには明確な違いがあるだろ?だから、違う。悪魔じゃないよ。」
アリィ「…だといいけれど。ありがとう。」
ジーク「…お前はどうしてテオスを…いや、じいちゃんを連れ出したんだ?」
ノア「童話に出てくるような英雄のような正義感があった訳じゃないよ。でも、それでも連れ出したのは…きっと、ムカついたんだ。テオスに。」
アリィ「…ノアからしたら怒るのも無理ははないけど…」
ノア「アリィが考えている理由とは違うよ。…少なくとも、ボクは1度だって諦めたこと無かった。きっと皆そうだった。襲ってきた奴ら誰一人にボク達の大切な思い出を汚されたくなくて、利用されたくなくて、廃人になるのを覚悟で大切に保管していた皆の記憶を飲み込んで、逃げた。皆戦った。今だって…ジハード達は仲間がヒトで居られるうちに、殺してあげて…アヴィニアのかつての誇りを守り続けて…それをずうっと繰り返してきて…テオスは自分が誰のためでもない、自分のために生きるのをとうの昔に諦めていた。命が無くなるって時にまで…素直に受け入れてて。…じゃあ必死に抗って諦めない自分達はなんなんだ、バカにするなって…ムカついたんだ。カッとなって、気づいたらテオスを連れ出してた。」
ジーク「…その、じいちゃんのこと、なにはともあれありがとう。」
ノア「…お礼を言われるようなことは何も。ジークは、気まずいかもしれないけど…ボクは君を罪人だなんて思ってない。」
ジーク「…そうか。」
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