テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
仏滅という事もあり、今日の式は2件だけだった為、比較的ゆったりとした空気が式場には漂っていた。
麻耶は今日は美樹のフォローで列席者のインフォメーションの担当だった。
事務所に入って始と目が合うと、ニヤリと笑われて麻耶は顔が熱くなるのを感じた。
「おはようございます。いろいろと……」
そこまで言葉を発した麻耶に始は、
「よかったな」
それだけ言うと、すぐに館長の顔をして事務所を出て行ってしまった。
(そんなに顔に出てる?私……)
「美樹さん、今日はよろしくお願いします」
ニコリと笑って挨拶をした麻耶に、
「こちらこそ今日はよろしくね~、麻耶ちゃんだと安心していろいろ任せられから嬉しい!」
「がんばりますね!」
美樹はじっと麻耶を見ながら、ニコリと笑った。
「ねえ、麻耶ちゃん……」
「はい?」
「今日は、元気みたいね。よかったわ」
「え?そんな顔してますか?」
(なんで、何も言わないのにそんなにみんなにわかっちゃうの?)
「すごく顔色もいいし、笑顔が以前の麻耶ちゃんだもん」
ふふっと笑って言って、美樹は「じゃあ、今日はよろしくね」そう言うと綺麗な笑顔で事務所を出て行った。
(知らない所でたくさんの人に心配をかけてたんだな……)
何も言わないでいてくれた優しさが嬉しくて、麻耶は気合を入れなおして正面玄関へと向かった。
「おはようございます」
丁寧にお辞儀をして、笑顔で列席される方の案内をしつつ、追加で入ったヘアメイクの希望が可能か調整を取ったり、小さい子供の相手などをして、式が始まるまでを忙しく過ごしていた。
ようやく列席者の入場も終わり、式が始まり麻耶は一息ついて、事務所に戻るために館内を歩いていた。
正面玄関から入ると、ホテルのロビーのような広い空間がひろがっているその場所で、きょろきょろ周りを見渡している男性がいた。
70代ぐらいだろうか、割腹のよい初老の男性だった。
「いかがなさいましたか?」
麻耶はにこやかな微笑みを向けると、その男性に声を掛けた。
「今日、昼に家内と昼食を取るために待ち合わせをしているんだが、場所がわからなくてな」
少し困った顔で話すその男性を麻耶はすぐ横のソファーに案内をすると、その横に膝をついて話を聞く事にした。
「ありがとうございます。本日の昼食は和食とフランス料理どちらをご希望でしたでしょうか?」
この式場の中には、一般の客も入れる和食とフレンチレストランがある。
フレンチレストランはミシュランで星を取った人が総料理長も務めており、式の料理の監修もしておりその料理のおいしさもこの式場の魅力の一つだった。
「家内が予約をしたと言っていたからな……」
少し困った様子のその人に、麻耶はにこやかな微笑みを浮かべると、
「恐れ入りますが、お名前を頂戴してもよろしいですか?すぐにお調べいたします」
「ああ、白木といいます」
「白木様ですね。少々こちらでお待ちくださいませ」
丁寧にお辞儀をすると、麻耶はすぐ入り口付近のインフォメーションに向かい受話器を取った。
確認すると、12時からフレンチレストランに予約が入っていることが分かり、麻耶はホッと息を吐くとその人の所に戻り声を掛けた。
「大変お待たせいたしました。フレンチレストランでご予約を頂戴していました。ご案内いたします」
「おお、悪いね。ありがとう」
「とんでもありません」
麻耶はゆっくりと、館内を歩き始めた。
「お連れ様もいらっしゃってるそうです」
「おお、家内の方が早かったか。娘も一緒だからわかるのだろうな」
その言葉に、麻耶は笑顔で男性を見た。
「お嬢様もご一緒なんですね。楽しんで頂けると嬉しいです」
「ありがとう。それにしても綺麗な場所じゃな」
外のチャペルや緑の木々を見ながら、その男性は足を止めた。
「ありがとうございます。弊社社長、スタッフがこだわって作った場所になります。レストランから見える景色も気に入って頂けるといいのですが」
「ほお、社長さんが……。まだ若いと新聞で読んだことがあるな」
思い出すように言ったその男性は、また歩き出した。
「はい。皆様が幸せになれる場所を提供したいという思いで、この場所を作ったと私も聞いています」
麻耶も木々が揺れるその場所を見ながら感慨深げに言った。
「お嬢さんもこの場所か好きかの?」
「はい、とても好きです」
フフッと笑った麻耶に、その男性は目を細めて麻耶を見た。
「おお、いたいた。おい!」
芙月みひろ
5,379
#虐げられヒロイン
すぐ先に、和服を着た女性と、ベージュのワンピースを着た上品な女性が立っていた。
「お父さん、迷子にでもなったの?」
50代ぐらいの奇麗な女性は麻耶を見て、頭を下げると、
「案内して頂いて申し訳なかったです。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ楽しいお話をさせていただきました」
ニコリと笑った麻耶に、
「お嬢さん、お名前は?」
男性はそういうと、麻耶に目線を戻した。
「はい、水崎麻耶と申します」
ゆっくりと頭を下げると、「麻耶ちゃん」そう言って麻耶をジッと見た。
「うん、うちの孫の嫁にでもきてもらいたいぐらいだな」
声を上げて笑うと、「じゃあ、ありがとう」そう言ってレストランに入っていった。
麻耶はなんだかほっこりとした気分になり、事務所へと戻った。
仕事も終わり更衣室で携帯を出すと、麻耶は少し悩んでメッセージを作った。
【今終わりました。何してますか?】
初めて彼氏の様な、プライベートを尋ねる内容を送ることに対して、少し悩んでから送るとすぐに返信が来た。
【家にいるから迎えに行く。朝の場所で待ってて】
ありがとうと返事をして、麻耶は着替えて職場を後にした。
夏の十八時半は明るく、早い時間に帰れることと芳也が迎えに来てくれるという事が、なんだかドキドキして落ち着かず気づくと待ち合わせの場所についていた。
(なんだか急に彼氏みたいでどうしよう……)
「麻耶!まーや!」
急に声が聞こえて、ハッとして前を向くと芳也のドイツ車が止まっていて芳也が車から降りてくるところだった。
(うわ……目立ってる。私が相手って大丈夫?)
白の高級車から降りてきてた、芸能人のような芳也を見たあと、相手である麻耶に視線が移るのを感じて、急いで車に向かった。
「ごめんなさい!」
「ぼんやりしてどうした?」
目の前で優しく笑いながら聞く芳也の笑顔に、キュンと胸が締め付けられた。
「なんでもないです」
頬が熱くなるのを隠すように、麻耶は慌てて首を振ると芳也に開けられた助手席に乗り込んだ。
クスリと笑って芳也は自分も運転席に乗り込むと、麻耶を見た。
「何考えてた?」
更に追及されて麻耶はあたふたしながら、芳也にチラリと目線を向けると、
「なんか、急にこんな彼氏みたいに迎えに来てもらったりして緊張しちゃって……。車の助手席にのるのも今日の朝が初めてだったし……」
「みたいってなんだよ?彼氏だろ?それに酔っ払ってる時に乗せたぞ。でもだから朝あまり話さなかった?」
「はい。今までも男の人の車に乗るってあまり無かったから……」
基樹は東京に出てきたこともあり、車を持っていなかった。
「休みも会わないし、仕事も忙しいんだからこれぐらいしないと一緒に出掛けたりできないだろ?」
ポンと頭に手を置かれて、微笑んだ芳也になぜかホッとして麻耶も頷いた。
「じゃあ、まず荷物取りに行こうか。元カレ……いないと思うけど一応明るいうちに行こう。そして引っ越したばかりだろうけど、俺の家に引っ越してくれる?手配はこっちで全部するから」
「え?」
「ダメ?どのみち元カレが知ってる場所にお前を住まわせておけないと思ってたから。引っ越しの日はまた麻耶と決めようと思っていたけど」
「ダメじゃないです。不動産屋さんに行かないとって思ってたから……。なんか全部任せちゃってるなって……」
「いや、俺のせいで引っ越しとか負担を掛けたんだし、気にするなよ」
芳也の優しさに甘えっぱなしの様な気がしたが、芳也と離れることは考えられず麻耶は感謝して芳也に任せることにした。
「ありがとうございます」
「三十分もあれば着くと思うから、まだ明るいかな」
芳也は空を見ながら言うと、慣れた様子でハンドルを握っていた。