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「芳也さん、自分で運転するんですね」
「俺?運転するよ。基本視察とか行く時も自分で行くし。他の会社とか夜の会食の時は会社の車で出かけるけど。一人の方が動きやすいしね」
「でも、秘書の人いますよね」
「ああ、松木?」
「松木さんていうんですか?あのキレイな人」
その言葉に、芳也はチラリと麻耶を見ると、クスリと笑った。
「気にしてる?」
その言葉に、麻耶は軽く睨むと、「してないですよ」と窓の外を見た。
「麻耶、こっち見て」
信号で止まると、芳也は麻耶に声を掛けると麻耶の肩に手を回した。
「嫌です……」
秘書の人にまで焼きもちを焼いた自分が嫌で、麻耶は芳也を見れずにいた。
(こんなんじゃ嫌われちゃうよ……)
泣きそうになりながら外を見ていると、頬に手がかかりグイッと顔を芳也の方に向けられた。
「麻耶。かわいい」
そう言うと、チュッと頬にキスをされ麻耶はその頬を手で触れた。
「俺は麻耶が好きだよ」
そう言って芳也は信号が変わると、また前を向いて車を走らせた。
(嬉しすぎるよ……)
夕日に照らされて運転する芳也を麻耶はぼんやりと見つめた。
「麻耶、始に話を聞いたんだよな。俺の事」
急に、真面目な顔で聞いた芳也の言葉に、麻耶も表情を戻すと頷いた。
「勝手に聞いてごめんなさい」
静かに呟くように言った麻耶に、芳也は首を振った。
「いや……いいんだ。嫌われなかったか心配になっただけ」
そう言って少し悲しそうに笑った芳也に、麻耶は芳也の開いていた左手にそっと手を重ねて静かに尋ねた。
「お兄さんとは話はできたんですか?」
「ああ。お前がいなくなってかなり荒れてて……」
苦笑しながら芳也は言うと、チラッと麻耶を見た。
「そんな俺を見かねて始は兄貴の会社まで行ってくれた」
「館長が?」
「そう。俺を許してやってくれって頭を下げてくれて」
驚いた麻耶に、芳也は嬉しそうに言葉を続けた。
「そこで、兄貴がもうまったく怒ってない事、むしろ俺がその事にとらわれていたことに怒っていて殴られた」
「え?殴られたんですか?」
心配そうに言った麻耶に、芳也は思い出したように目を細めると言葉を続けた。
「ちなみに、その時の女の人、小百合さんって言うんだけどその人にも殴られた。小百合さんはもう結婚して子供もいて、俺が幸せにならないと許さない。そう言ってくれて」
ホッとしたような表情をした芳也を見て、麻耶もうれしくなり微笑んだ。
「そうだったんですね。よかったです」
「親父やお袋とも久しぶりにきちんと話ができて、誤解も解けた。きちんと話をしないとお前と向き合えないと思ったから。アイリとの結婚もきちんと断ったから。全部麻耶のおかげだよ。麻耶と会えたからこうして俺はきちんと過去を清算できた。本当にありがとう」
急にお礼を言われて、麻耶は照れたように笑った後、少し考えてから言葉を発した。
「アイリさんは?」
「アイリは……。アイリにはきちんと俺の気持ちは伝えてある。泣いていたけど……」
「そうですか」
以前会った時のアイリの真剣な表情を思い出して、麻耶も表情を曇らせた。
「麻耶?」
ちょうど麻耶のマンションの前に到着し車を停めると、その表情の意味が解らないといった表情をした芳也は、麻耶を見つめた。
「アイリさんに会ったんです」
「え?どこで?いつ?」
驚いた顔をして、芳也は麻耶を見た。
「まだ、芳也さんと一緒に暮らしてる頃、会社にアイリさんのお使いと言う人がきて、アイリさんの事務所で」
「なんで言わなかった?」
「言おうと思ってたんです。でも、そのあとあんなことになってタイミングが……」
その言葉に、芳也も表情を曇らせ、麻耶をギュッと抱きしめた。
「ごめん」
「もういいんです。ただその時のアイリさんが真剣だったので……」
「じゃあ、麻耶は俺がアイリを選べばよかった?」
その言葉に麻耶は、ハッとして顔を上げる。
「そんな事は絶対ないです。その時にはっきりと芳也さんの事は譲れないって言ったし……」
「じゃあ、もう気にするな」
「……はい」
麻耶もギュッと芳也を抱きしめると、芳也の胸に頬をつけた。
少しの間抱き合った後、「荷物俺も一緒に取りに行くよ」そう言って二人は車を降りて麻耶の部屋へと向かった。
麻耶は当面必要な物をスーツケースにまとめると、芳也とともにまた車に戻った。
「麻耶、どこかで食事でもしようか?」
「本当ですか?」
「ああ、いつも家でどこかに連れてったこともないよな」
申し訳なさそうに言った芳也に麻耶は微笑む。
「それは当たり前ですよ?社長と一社員が行くわけないですし」
麻耶も苦笑しながら言うと、急に芳也が社長という事を思い出した。
「芳也さん……本当に私でいいんですか?」
「どういう意味?」
芳也はゆっくりと怒るでもなく麻耶に前を向いたまま問いかけた。
「今でさえ芳也さんは私にとって雲の上の人で……。それに芳也さんのお父様ってミヤタ自動車の社長ですよね?」
始からも聞いていたが、再度芳也の口から聞きたくて麻耶は不安だった事を口にした。
「だから?」
尚も表情を変えずに言った芳也に、麻耶は更に不安になり俯いた。
「私なんかでいいのかって。芳也さんにはもっとお似合いのお嬢さんがいるのかなって」
呟くように言った麻耶に、芳也が少し不機嫌そうに口を開く。
「麻耶はそれでいいんだ」
麻耶は唇を噛んだ後、ジッと芳也を見据えた。
「嫌です……」
「じゃあ、そんなくだらない事聞くな。俺の愛情を舐めるなよ。そんな事で麻耶を諦めるぐらいなら、こんな風にお前の所に戻ってない。兄貴に許してもらえたなら、俺は麻耶をもう離さない。わかったか?」
その言葉に、麻耶は瞳に涙を溜めるとゆっくりと頷いた。
「ただ、麻耶にはいろいろと嫌な思いや、努力してもらう事もあるかもしれない。一緒に努力してくれるか?」
「芳也さんと一緒にいたい。そのために努力したいです」
はっきりと言ってニコッと笑った麻耶に、芳也も嬉しそうに微笑んだ。
「麻耶、和食とイタリアン……」
そう言いかけた芳也に電話がなった事を知らせる音が車に響いた。
ナビのディスプレイに表示された【健斗】の文字を見て、芳也は路肩に車を停めた。
「もしもし?」
少し困ったように返事をしながら、チラリと麻耶を見ると芳也は言葉が言葉を濁しているのが麻耶にも分かった。
「今日?親父が?」
その言葉に、麻耶は実家からの急な誘いという事が解り、芳也の肩に触れると笑顔で頷いた。
「いや……でも……」
尚も麻耶を気にする芳也に、麻耶は大丈夫と小声で言うと芳也を見つめた。
「わかった。後で行く」
そう返事をして電話を切った芳也は「ごめん」と言うと、麻耶を見た。
「大丈夫です。明日からの食材を買いにスーパーにも行きたかったし、荷物も片付けたいから。また食事は連れて行ってください」
麻耶は笑顔を向けて芳也に言うと、
「あー、クソ。俺が麻耶と一緒にいたかったの」
少し拗ねたように言った芳也は、麻耶を抱きしめると「ありがとう」そう呟くとそっとキスを落とした後、車を発進させた。
#謎