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臣桜
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上野文
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運転手さんが冷房をつけてくれていたので、私たちは車の中で涼みながらみんなを待った。
やがて全員集合したあと、車で十五分ほど離れた内宮へ向かった。
「わー! ここ、テレビで見た事ある!」
駐車場から歩いてすぐ、鳥居の向こうに宇治橋がある。
橋が架かっているのは五十鈴川だ。
橋を見ていると、皆さん今度は右側通行をしている。
「ここ、冬至になったら宇治橋の真正面に太陽が上がってくるんだよ。日光東照宮も、江戸の真北にあって、その上に北極星があるだろ」
「はい」
テレビでも見たけれど、日光東照宮を参拝する事は、宇宙の最高神を参拝するとされているらしい。
北の空の星については、北極星を中心に周りの星が回っている事で知られているし、日光東照宮や外山、瀧尾神社、釈迦堂など、近隣にある建物をなどを結ぶと、オリオン座の形になる事でも有名だ。
「ああいう感じで、独自のやり方で正確な方角を見つけて、そっちに向かって建物を建てていたんだと思うよ。すげぇよな」
「ふんふん」
私は鼻息荒く頷き、ミコペディアに傾聴する。
「で、この宇治橋も二十年に一度架け替えられるし、この鳥居も、元は外宮にあったんだよ」
「なんと!」
「外宮の御正宮が神明造っていう建築物で、左右に棟持柱っていう立派な柱があるんだ。妻って、屋根のてっぺんのラインから続く面があるんだが」
尊さんはそう言って、指でツゥッと空中を横に撫で、両手を揃えて下ろす。
「その両妻を支えている柱なんだ」
「なるほど。……って、涼さんが妻になったって思っちゃったの、秘密にしておきます」
「ぶふぉっ」
尊さんは噴き出し、「ノリノリでフリルのエプロンつけてそうだな」と付け加える。
「そうやって外宮の御正宮から、内宮の鳥居に変わって二十年。さらに役目を終えたあと、カンナをかけて新品同然に戻したあと、同じ三重県の桑名市にある船着き場で、天明年間に神宮の〝一の鳥居〟が建てられた、〝七里の渡し〟や、伊勢国の入り口と言われている、亀山市の〝関の追分〟の鳥居になる」
「へー! 再利用してるの偉い!」
「そこまでで六十年だが、そのあともさらにカンナをかけて綺麗にして、とてもありがたい物だから、全国のお宮に分けられて朽ち果てるまで使われるらしい。だから全国の神社に、かつて伊勢神宮で使われていた……って鳥居が結構あるみたいだ」
「サスティナビリティ……」
感心しつつ橋を歩き、五十鈴川を写真に収める。
「内宮だけでも年間五百万人ぐらい訪れてるらしく、この橋は参拝するのに往復するだろ? で、一千回は通られてる。それを二十年で、二億人以上は渡っている事になる」
「ふえー! 億千万!」
今まで橋の大変さを考えた事ってなかったけれど、二億人以上の人に踏まれた橋が気の毒になってくる。
「だから場所によっては、かなりすり減ってるらしい」
「そっと歩かないと……」
「で、朱里が今写真に収めた川の向こう、この辺は神宮の森と言われて、甲子園球場の一四百個分相当と言われてる」
「わーお! 神様、土地持ち!」
「この辺の森を宮域林って言って、式年遷宮に必要な木材は、この辺りから調達しているそうだ。……だが一回の式年遷宮で、一万本の檜が必要になるから、資源が枯渇しちまう。森を守るために植林を始めたのが明治天皇の時代だ。……前回の式年遷宮では三割が宮域林の木材で賄ったらしく、式年遷宮で必要な一万本をすべてこの宮域林の木で賄えるようになるには、あと三百年は必要らしい」
「わぁ……、壮大。その頃になっても、伝統が守られてるといいですね」
「だな。あと三百年経ったら、それ以降はずっと宮域林の木だけで式年遷宮が行えるそうだ」
「なんか凄いなぁ……」
観光地として、映える橋を渡ってすぐ終わり、と思いそうだけれど、ミコペディアのお陰で周りの森にも畏敬の念を抱けている。
コメント
1件
読み終わりました〜!第860話、宇治橋のエピソード、すごく良かったです🥀 ミコペディア(尊さん)の知識が深くて、宇治橋が20年ごとに架け替えられて、その後もカンナをかけて全国の神社で再利用されるサステナビリティの話、めっちゃ響きました…!「億千万!」って朱里ちゃんが言うところ、可愛くて微笑ましかったです🤍 あと「涼さんが妻になった」のノリノリなボケに尊さんが噴き出すシーン、二人の関係性が伝わってきて好きです。伊勢神宮の伝統が300年後も続くように…って願い、じんわり来ました。良い回でした🌙