テラーノベル
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宇治橋を渡った私たちは、さらに奥へ進んでいく。
「あとからもう一つ橋を渡るんだが、川って〝境界〟って言われてるだろ。霊的な意味での境界とか」
「あー……、三途の川?」
思いついた単語を口にすると、尊さんは頷く。
「まぁ、あの世じゃねぇけど、神域という意味では異界と言っていいのかもしれない。こうやって二重に川に囲まれている事で、奥の神格が高くなっている……とも言えるんじゃないかな。那智の滝みたいに、川、水には何らかのエネルギーがあって、常に流れている新しい水ほど神聖化されているというか……。ほら、淀んでいるため池みたいなのは、危険なイメージがあるだろ」
「あっ、分かります」
某、井戸で有名なホラー映画を思い出したのは、今は言わないでおこう。
鳥居をくぐってさらに奥に進むと、右手側に五十鈴川が見えた。
「昔はあそこで禊をしてから参拝していたそうだ。でも全員がやったら大変な事になるから、その代わりに手水」
「あー!」
私は深い納得を得て、ポンと手を打つ。
「……という事で、手を洗ってみるか」
私たちはゾロゾロと連れだって、五十鈴川へ向かう。
流れはとても静かで、水面も穏やかだ。
ほとりでしゃがむと手を洗えるぐらいの段差で、私はタオルハンカチを出してから手を洗う。
「川の中にお金入ってますけど、お賽銭ポイントですか?」
「いや、違うな。ここは入れちゃいかん場所だ」
「あー、聞けて良かった。なんかみんなやってるの見ると、『そうなのかな?』って思ってやっちゃい勝ちですよね」
そこに、弥生さんが参戦してきた。
「分かるわぁ~! 私あちこちで、お賽銭ばらまきポイントだと思ったら、惜しげもなく小銭撒いちゃう」
「正月の餅撒きじゃないんだから」
尊さんがボソッと突っ込む。
「公演で世界中回るから、色んな所でコイン入れてるわね」
「あっ、トレビの泉的な」
私が合いの手を入れると、弥生さんは「そうそう!」と頷く。
そのあとも御正宮に向かって歩くけれど、砂利の道が広々としていて歩きやすいし、天照大御神を祀るだけあって、御正宮のほうから差し込む木漏れ日が神々しい。
通り道にとても立派な木があって、思わず触りたくなるけれど、神社の境内にある木は基本的に触ったらあかんのだ。
手水舎でお清めをしたあと、さらに鳥居をくぐり、外宮でも説明を受けた五丈殿、お酒を造る御酒殿やお供え物を収める由貴御倉、忌火を起こす忌火屋殿、祭典の時に神職の方々を清める祓所などを横目に、ずーっと進むと御贄調舎がある。
「何か、目隠しされてますね」
大きな衝立があるけれど、その他は一見、屋根と柱だけの建物に見える。
臣桜
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上野文
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「ここはさっき言った神嘗祭の由貴大御饌を用意する時、天照大御神の大好物の鮑を用意するための場所だ。大好物を調理してる所を、神様に見られたらアレだろ? だから目隠ししてる訳」
「あ~……、なんか分かります。私も目の前でお肉焼かれてたら、ガン見しちゃう。嬉しくて華麗なステップ踏んじゃうかも」
「そんな感じ。清らかなお祭りだから、あくまでしっとりとな」
「んふふ」
私たちは笑い合ったあと、階段を上がって鳥居をくぐり、御正殿を参拝する。
外宮の時に学んだお作法に気をつけ、先ほどと同じように日頃の感謝と世界平和を願っておく。
そのあと、例によって別宮・荒祭宮――外宮でいう所の多賀宮へ行く事にした。
途中、御稲御倉という所があり、ここは抜穂――お供えするための稲穂が納められるらしい。
この建物は唯一神明造と言って、御正宮とほぼ同じ造りらしい。
全国津々浦々、神社には色んな建物の建築様式があるけれど、伊勢神宮は最も格式高い所なので、同じ建物を造るのを遠慮し、ここだけのオリジナルデザインなのだとか。
「あれが棟持柱な」
尊さんは建物の両脇にある柱を示す。
「建物ができたての頃は、屋根との間に隙間が空いているそうだが、二十年も経つと雨風に晒されて湿気を含んだりで、木が膨張し、時間が経つと共に隙間がぴったりになるらしい」
「なるほどー」
ミコペディアの説明を聞いたあと、私たちはいよいよ別宮・荒祭宮へ向かった。
コメント
2件
第861話、めっちゃ面白かった!伊勢神宮の空気感がすごく伝わってきて、まるで自分も一緒に歩いてる気分になったわ。特に「神様に大好物の調理現場を見られたらアレだろ?」っていう尊さんの説明と、それに「私も目の前でお肉焼かれてたら華麗なステップ踏んじゃう」って返すやり取り、めちゃくちゃ好き。神社の豆知識が自然に会話に溶け込んでて、勉強になりつつクスッとくる。五十鈴川で手を洗うシーンの神聖さも良かったな。また続き読みたい!