センシティブな行為ありませんが、内容が少しセンシティブなのでセンシティブつけてます!
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玄関が開いた音と同時に、リビングから勢いよく飛び出してくる仁人。
「ねえねえはやと!!プレゼントがあります!!」
「え?急になに!」
勇斗はコートを脱ぐ暇もなく、
満面の笑みで突き出された細長いスティックを見る。
急にサプライズでプレゼントかと、勇斗は帰って早々、嬉しい気持ちになった。
「……え?なにこれ……妊娠検査薬?」
「そう!みて!線出てるでしょ!?赤ちゃんできたんだよ!!俺らの子!!」
検査薬には……
どう見ても、赤マーカーで書いた線があった。
は?
「ね!すごくない!?2人で頑張って育てような、勇斗もお父さんになるんだからね!」
仁人の顔は、
これ以上ないくらい幸せそうで、
純粋で、
信じ切ってる。
勇斗は困惑のまま、一言。
「……は?、仁人。お前……男だぞ?妊娠なんてできるわけないだろ?頭おかしいって」
その声は、呆れと戸惑いが混じって硬かった。
仁人の笑顔が、
一瞬で落ちる。
「…は?」
勇斗は検査薬をまじまじとみると、書き足した赤い線を見て小さくため息をつく。
「これ、どう見てもマーカーじゃん。……冗談にしてもやりすぎだって。怖いよ」
「……え?」
仁人の声が震える。
目が潤み始めて、喉がつまったみたいに喋れない。
「ねえ……嬉しくないの?」
「いや、だからありえないんだって、……現実考えろよ、仁人」
その瞬間。
仁人の中で、
何かがぷつん、と切れた。
「おまえさ、なんでそんな言い方すんの!?俺ずっと考えて……嬉しくて……はやく勇斗に言いたくて……!」
声が震えて、涙で視界が滲む。
「……なんで喜んでくれないの……!?なんで……!」
「いやちがう仁人、落ち着いて、」
勇斗は一歩近づこうとするが、
仁人は大きく後ずさる。
「来ないでっ!!」
玄関にひびく叫び声。
空気が一気に張りつめる。
玄関に立ち尽くす仁人は、まだ涙を溜めたまま、
検査薬をぎゅっと握りしめていた。
「……最近さ……体調悪かったんだよ、ずっと」
声が震える。
「朝起きたら気持ち悪いし、眠いし、ご飯の匂いで吐きそうになったりして、」
ぽつぽつと落ちていく言葉。
「だから……もしかしてって思って……検査したら、陽性だったの。だから俺……」
勇斗の胸がぎゅっと縮む。
でも、言葉にするしかない現実がある。
「仁人」
勇斗はゆっくり近づき、優しく言うつもりだったのに
声が思ったより強く、冷たく響いた。
「それ……ただ体調悪いだけでしょ?男は妊娠なんてできないから、な?」
仁人は首を横に振り、おもむろに妊娠検査薬を見る。
「できるよ!!だってこれ、陽性だもん!!」
「……だからそれ、マーカーで書いてるだろ」
「違うもん!!ほんとに出たの!!」
泣きそうな声で叫ぶ仁人。
その必死さに胸が痛いのに、勇斗は現実を曲げられない。
「仁人。お前がつらかったのは分かるけど……妊娠じゃないって。体調悪いだけだなの」
「じゃあなんでこんなに気持ち悪いの!?なんで眠いの!?なんで食べられない日もあったの!?はやとと一緒にいると落ち着くのも……!」
たまらなくて、言葉が噴き出すように続く。
「…おまえさ、嬉しくなかったの?」
「俺、お前との子だって思って……すっごい……すっごい嬉しかったのに……」
勇斗の心臓がドクン、と鳴る。
嬉しそうに話す仁人の顔が、脳裏に浮かぶ。
必死に検査薬を差し出してきたあの笑顔。
それが全部、誤解で、
俺が壊してしまったんだと理解した瞬間、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
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