コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※二人が学生+同じ学校に通っている世界線
※みじかめ
【雨栗side】
〈雨だ〉
授業中、誰かがポツリと呟く。
窓の外を見遣れば、先程降り始めたであろう小雨が紫陽花の葉を揺らしているのが見えた。
(あ〜、傘持ってきてたっけ)
朝は晴れていた空も、今は一面曇天。
これは帰りまでに止みそうにないとため息を吐く。
呟きを皮切りにざわつく教室に響き渡るチャイムの音。
次移動教室だ〜とみんなが廊下に出ていく中、ふと教室に残る緑色が目に留まる。
普段は騒がしいくらい元気で笑顔の彼が、窓の外を静かに眺めていた。
紫陽花を見つめているのか、伏し目がちな表情に思わずどきりと心臓が跳ねる。
先日晴れて恋人に昇華した私たち。
未だ知らない彼の一面を見る度に、痛いくらいにドキドキしてしまう。
それが存外悪くないと思えてしまうのは、恋心のせいだろうか。
『こめしょー』
私たち二人だけの空間に、甘ったるい声が響く。
直ぐに雨音にかき消されたが、こちらを振り向く彼の眉間には皺が寄せられていた。
「……その呼び方、何とかならんの?」
とげとげした声色に、いつもこめしょーって呼んでるでしょ?なんてニヤニヤと返せば、そうじゃなくてと頭を抱える彼にまた笑いが込み上げる。
『いいじゃない、誰も聞いてないよ』
だからこれも、誰も見てないね。
椅子に座る彼の額に口付ける。
まるで時が止まったかのように、雨音がぴたりと止んだ気がした。
唇を離せば、目をまん丸にした彼と目が合った。
「……は?」
『誰もいないからいいでしょ』
「っんなわけ……って、マジでおらん!なんで!?」
『ほら、次移動教室だから』
「はぁ!?おまっ……それ先言えよ!行くぞ!」
バタバタと準備して出ていく背中に筆箱忘れてるぞ〜と声をかけながら自分も準備する。
真っ赤な耳には恐らく届いていないであろうと、机の上に忘れ去られたそれを手に取り後を追う。
未だにうるさい心音は、雨音にかき消してもらう事にした。
《そういえば、窓から何見てたの?》
〈かえるが葉っぱに止まってたんよ〉
《あ、花見てたんじゃないんだ》
〈んだよ悪ぃかよ〉
《ん?可愛いなって》
〈……そういうとこだぞ〉