ユズキはまた、手首に赤い線を引いていた。
痛くは無いが、着る度に流れ出る血が自分の事を慰めてくるようで、時には蔑むようで
心臓がバクバクと鼓動が早くなってくるのが分かった。
何故、こんな事をするのか自分に問いかけてくるようだった。
何故、こんな事をするのかなんて自分でも、もうよく分からなくなっていた。
ユズキは、ポツリと発したか分からないような小さな声で、こう呟くのだった。
「もう………死にたい……」
言葉に出してみたものの、やっぱり死ぬのは恐ろしい事だ。
だが、ユズキはこうも思えた、「自分が死んだらみんな後悔するだろうか?」と、
学校に行けと怒鳴り散らし、話さえ聞いてくれなかった母親。
勉強を間違えたら、煙草を手のひらに押し付け、耳を引張ってきた父親。
近づけば、「キモイ」と笑って教科書やノートを破ってきたクラスメイト。
助けを求めても、頷いて誤魔化していた担任の先生。
思い返すだけで虫唾が走る。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」
ユズキがブツブツ呟いていると、いつの間にか手首の血がベッドのシーツに水溜まりのように広がっていた。
左手首の感覚もおかしい。どうやら少し切りすぎたようだ。
手馴れた仕草で、ポーチを開きガーゼと消毒液、包帯を取り出す。
適当に血を拭き、消毒液を垂らす。消毒液独特の嫌な匂いが鼻に刺さる。
ユズキは顔を顰めながら手当を続ける。
少し乱れた包帯がユズキの左手首を覆う。初めは包帯なんて少し大袈裟にも思えたが
今になっては、包帯でもぐるぐる巻きにしないと血は止まらないのである。
手首が血まみれになっても、その日のユズキの気分は落ち着かなかった。
膝より少し下のセーラのスカートをたくって骨がうっすら見える太ももを出す。
少し前に切った傷跡が、まだはっきりと残っていた。
お気に入りのピンク色のカッターをグッと押し当てると、ジワジワ血が出てくるのが分かった。
そのままカッターを、素早く右にスライドさせるとブワッと一気に血が流出てくる。
いつもの光景だ。
もうなんの違和感も持てない体が血まみれの、そこらじゅう傷だらけの光景だ。
そのまま何度も何度も繰り返した。
その日はなかなか気分が治まらなくて、何度も何度も……
気づけばそこらじゅう血まみれ、足なんかもう感覚が無くなっていた。
ふと、さっき切った左手首を見ると血が浮き出ていて、包帯も赤く染っていた。
今までに無いぐらい鼓動が早くなり、次第に目の前が真っ暗になってくる。
全身の力が抜けて頭がふわふわしてきた。
( そっか、私……さっきクスリも……飲んだんだ……)
風邪薬と睡眠薬を合わせて25錠。
何も考えられなくなった頭と、アチコチから湧き出る血。
コレが意味するのはたった一つだけの、彼女の運命なのだった。
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