生臭い鉄の匂いが漂う。
バンバンと銃声がする。
其れも束の間。
銃声は一瞬で止んだ。
暗い倉庫に唯一人佇むは
獣のような真っ白の少年。
「連絡連絡……」
ワンコールで出る電話。
「あ、太宰さん、終わりましたよ」
彼は武装探偵社の中島敦。
白虎になれる異能を持つ。
「ぐ……」
其の少年の後ろで動けない男が居た。
其奴は懐から銃を取り出し……
少年に向けて打った。
「!?」
反応が遅れ、銃弾は彼の右肩、左脚、
腰周りに当たった。
「い”っ……!!」
急いで男を取り押さえる。
「敦くん!!!」
「あっ……太宰、さん……」
仲間が来た安心からか、
朦朧としていた意識が完全に途切れた。
「敦くん?敦くん!!!???」
名前を呼ぶ太宰さんを後に、
眠ってしまった。
「……ん」
「!敦くん!」
「あれ……太宰さん……?」
「敦、起きたかい?」
「与謝野女医まで……」
「アンタねぇ、油断は禁物だよ?」
「すいません………」
「はぁ……まぁしばらくは安静にしときな」
そう云い、与謝野女医は病室を後にした。
「敦くん……大丈夫かい?」
「大丈夫です……」
「油断してしまい、本当に御免なさい……」
「そんなこと云わないでくれ給え……」
「でも、僕が悪いんです……」
そうだ、僕だ。
僕が悪いんだ。
全部、全部……
『この穀潰しめ!!!』
嗚呼……本当その通りだ。
「全部……僕が悪いんです」
「僕のせいで……」
「みんなに、迷惑掛け……」
「敦君」
「ッ……!」
いきなり鋭く冷たい目線を喰らい、
背中にゾクリと悪寒が走る。
バクバクと暴れ始める心臓。
背中は冷たいのに、顔は暑い。
冷や汗が出てきそうな程、恐ろしい目。
濁流のような鼓動が、
耳の奥深く、こだましている。
そして、目の前に居る彼の口が開いた。
「好い加減にしてくれ」
ゾッとした。
流石は元ポートマフィア。
普段のおちゃらけた雰囲気とは全く違う、
怒りを混ぜた覇気だ。
「君は、どれだけ自分を卑下すれば済むんだ」
「あ……っう……」
やめてくれ。
其の光の無い瞳で僕を見つめないで。
「君は本当に人を怒らせるのが上手だ」
やめて、
怒らないで。
……あの人の様な表情を、
『穀潰しめ!!!』
「もう自分を卑下するな」
しないで。
「はッ……はッ……」
息が荒くなる。
此処に居られなくなるのは嫌だ。
捨てないで。
お願い。
そう願っていると、
「敦君は、」
「こうしないと分からないのかな」
太宰さんは僕を押し倒した。
僕の行き場の無くなった手を握りしめ、
僕の顔へ近付く。
「何してンだい太宰!!!!!」
「うわぁっっ!!」
与謝野女医によって太宰さんは引き剥がされた。
「与謝野女医!何するんですか!!」
「アンタが何してンだい!!!」
「此の、性欲の権化が!!!」
「酷い!!!」
「あ……えっと……」
「敦!アンタも無防備すぎるンだよ!」
「気を付けな!」
「有難う、御座います……?」
「よし、太宰、アンタは説教だ」
「みんな待ってるぞぉ〜?」
悪魔の笑みを浮かべる与謝野女医の後ろに、
同じく悪魔の笑みを浮かべる探偵社員がいた。
「え、え……」
目をぐるぐるさせ戸惑う太宰さん。
ひっそりと「ご愁傷様です……」と呟いた。
「さぁ、行こうか……!」
「ひょぇぇ……」
恐らく、此の後は写せないだろう。
と、太宰さんが連れて行かれる前僕に、
「私が怒っていたのは本当だ」
「今度、覚悟していてね」
と囁いたのは気の所為だろう。
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