テラーノベル
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◇
「皆さーん、全員いますかー?」
海岸へ向かう人々の中で、テルが何度目か分からない人数確認をする。
しかし、返ってきたのは妙に疲れた声だった。
「はぁ……ほんっとにあんたねぇ……。」
リーナが大きなため息をつく。
その隣ではソフィアが申し訳なさそうに笑っていた。
「ごめーん。」
「私まで死にかけたじゃないのよ!」
「ごめんってばー。」
「何をどうしたら祭りに来て山へ入ろうと思うのよ……。」
リーナは呆れたように額を押さえる。
「……な、何かあったのかい?」
フローが恐る恐る尋ねた。
「こいつが勝手に山に入ろうとしたから……さっき全力で止めてきたのよ……!」
「なる……ほど……。」
フローはそれ以上聞かないことにした。
「テルさん……。」
「はい……。」
「……お疲れ様。」
「ありがとうございます……。」
テルは遠い目をした。
まだ祭りは始まってすらいない。
なのに、すでに一仕事終えたような疲労感がある。
その時。
「テルさーん!」
遠くからニアが慌てた様子で駆けてくる。
「?」
テルが振り返る。
「ニアさん、どうしたんですか?そんなに慌てて……。」
「リンちゃんとラテちゃん……ルカくんも……!」
ニアは息を整えながら言う。
「目を離した隙にいなくなっちゃっ……!!」
「はい…!?」
少し離れた場所。
「なんか向こう大変そう。」
ヴェルクが騒ぎの方向を眺めながら呟く。
「でも賑やかね……。」
ローラは楽しそうに笑った。
屋台の明かりに照らされた海岸には、次第に人が増えている。
あちらこちらから笑い声が聞こえ、子供たちが走り回り、店先では店員が忙しそうに客を呼び込んでいる。
普段の村とは、まるで別の場所のようだった。
「私もたまにははしゃごうかしら。」
ローラが冗談めかして言う。
「えぇ……。」
ミシェルが微妙な顔をする。
「何よ、その反応。」
「いや……。」
ララビットもローラを見る。
「イメージ湧かないんだけど……。」
「でもお酒飲んでる時は結構はしゃいでますよ?」
ラグドールが何気なく口を挟んだ。
「……そうなの……?」
ナターシャが少し驚いた顔をする。
「その話はやめてちょうだい……。」
ローラは恥ずかしそうに目を逸らした。
「……あれは忘れて。」
「えー、あれ面白かったのに。」
ラグドールが笑う。
「ラグドールちゃん?」
ローラがじっと睨む。
「…はい。」
ラグドールは大人しく口を閉じた。
そんなやり取りを眺めながら、イリアが腕時計を見る。
「んー……。」
「まだ全員集まってませんし、十九時までまだ時間ありますね……。」
海岸では、祭りの準備が着々と進んでいた。
たくさんの灯篭が並べられ、村人たちが忙しそうに準備をしている。
その光景を見ながら、プリムローズが立ち上がった。
「わたくし、鈴凛さんたちの捜索を手伝ってきますわ!」
「私も……とは言いたいですけど……。」
イリアは周囲を見渡す。
「皆さん見張ってなきゃなので……。」
少し申し訳なさそうに笑う。
「プリムさん、頼みました……!」
「お任せ下さい!」
プリムローズは胸を張る。
「必ず見つけてみせますわ!」
そう言って、鈴凛たちを探しに駆けていった。
「……頼もしいなぁ。」
イリアがその背中を見送る。
「……。」
ララビットは、隣からじっと見つめてくるラグドールに気付いた。
「……何?」
「こっち来てください。」
「は……?」
ラグドールが手招きする。
「みんなから離れちゃダメって決まりでしょ?」
「それにイリアが……。」
「大丈夫ですって。」
「いや、ダメ……」
ララビットが断ろうとした、その時。
「皆さん屋台で何買ったんですか?」
イリアの声が聞こえた。
二人は反射的に振り返る。
「色々……。」
ナターシャが答える。
「色々ですか……。」
イリアは買い物袋を覗き込む。
「結構買いましたね……。」
その隙に、ラグドールがララビットの腕を掴んだ。
「ほら! イリアさんもみんなも見てませんし……。」
「すぐ戻ればバレませんよ。」
「いや……っ、ちょ……!?」
そのままラグドールに引っ張られていくララビット。
「ちょっと、ラグドール…!」
二人は人混みの中へ紛れていった。
◇
「……はぁ……。」
少し離れた場所まで来ると、ララビットが大きくため息をつく。
「……イリアにバレたらどうすんの……。」
「適当に誤魔化しておけばいいんですよー。」
「絶対バレるでしょ……。」
「まぁまぁ。」
ラグドールは近くにあった岩を指差した。
「ほら、ここに座りましょう。」
「……はぁ……。」
ララビットは渋々腰を下ろす。
隣にラグドールも座った。
祭りの喧騒が少し遠くなる。
屋台から漂う甘い匂い。
遠くから聞こえる笑い声。
そして、波が砂浜を撫でる音。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように、二人の周りだけ少し静かだった。
ラグドールはそんなララビットを横目で見る。
「……ため息ばっか。」
「仕方ないでしょ。」
ララビットは少しだけ視線を逸らした。
「……そんで。」
「何の話がしたいのさ……。」
「んー……。」
ラグドールは少しだけ考えるように空を見上げた。
祭りの喧騒が、少し離れたところから聞こえてくる。
屋台の明かりが人々の間からちらちらと見え、潮の香りを含んだ夜風が二人の間を通り抜けていった。
「せっかくだし、お祭りの話しましょうよ。」
ラグドールは隣に座るララビットへ視線を向ける。
「ララビットは信じてます?」
「何を?」
「海の向こう側には神域があるっていう話。」
ララビットは少しだけ黙った。
海へ目を向ける。
昼間なら青く見えるはずの海は、今は夜の色をしていた。
その向こう側には、何があるのだろう。
「……信じるとかいう話なの?」
「え?」
「神域が本当にあるかどうかなんて、誰にも分からないでしょ。」
ララビットは少し肩をすくめた。
「……ま、私は信じてないけど。」
「私と同じですね。」
ラグドールはあっさり答えた。
ラグドールは遠くを見つめる。
「海の向こう側ってどこなんだろ……。」
波の向こうに広がる暗闇。
その先は、どこまでも続いているように見えた。
「ララビットは考えたことありません?」
「何を?」
「この海の向こうに、何があるのかなって。」
「……知らない。」
ララビットは素っ気なく答えた。
けれど、その視線は海から離れなかった。
ラグドールはそんな横顔を見ながら、少しだけ笑う。
「いつか行ってみたいですね。」
「……。」
「海の向こう側。」
ラグドールは、まるで遠足の予定でも話すような軽い口調で続けた。
「もしも屋敷がなくなったら、一緒に行きましょうよ。」
ララビットの表情が、ほんの一瞬だけ止まった。
屋敷がなくなる。
その言葉が、妙に現実味を持って胸へ落ちてくる。
「……。」
ララビットは何も言わず、海へ視線を戻した。
そして、しばらくして。
「好きにしたら。」
それだけだった。
「ふふっ。」
ラグドールは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、決まりですね。」
「決まってないでしょ。」
「えー?」
二人の間に、ほんの少しだけ穏やかな笑い声が落ちる。
その時。
「ララビットさーん!」
「ラグドールさーん!」
遠くから、聞き慣れた声が響いてきた。
ララビットが目を閉じる。
「…はぁ…やっぱり……。」
「見つかっちゃいましたね。」
「当たり前でしょ……。」
人混みの向こうから、イリアがこちらへ駆けてくる。
「あっ、いた……!」
息を切らしながら、イリアが二人の前で立ち止まった。
「もう……!お二人とも、こんなところに……。」
「心配したんですよ……?」
「ごめんなさーい……。」
ラグドールは悪びれた様子もなく笑う。
「…ごめん。」
ララビットも小さく頭を下げた。
イリアは二人を交互に見つめる。
しばらく黙ったあと、困ったように笑った。
「……今回は許しましょう。」
「でも、もう勝手に離れちゃダメですよ?」
「はーい、わかってます。」
「……分かった。」
「さぁ。」
イリアが二人を促す。
「もうすぐお祭りが始まるので、早く戻りましょ。」
三人は、再び人の集まる海岸へ向かって歩き出す。
その背後で、夜の海が静かに波打っていた。
ラグドールは歩きながら、一度だけ海を振り返った。
暗い海の向こう。
その先には、何があるのだろう。
「……。」
ラグドールは何も言わず、イリアたちの後を追っていった。
#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
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#闇
ruruha
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コメント
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作者コメント┊︎ 屋敷はなくなるかな?
第三十三話、拝読しました。お祭り前の賑わいと、ラグドールがララビットを連れ出して「屋敷がなくなったら」という未来の話をする場面が特に印象的でした。にぎやかなシーンが多い中、二人だけの静かな時間がすごく素敵で……「好きにしたら」というララビットの返しに、彼女の距離感がぎゅっと詰まってる気がしました。イリアに見つかるところもほっこりしました。次が楽しみです🌷