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時計の針が午後十一時半を示した頃。
僕は自分の部屋であの役立たずのヒーターをつけ、十一月の部屋を気持ち暖めながら、小出さんに借りたアニメのDVDを流していた。
が、しかし。内容が全く入ってこない。理由は簡潔かつ明白。スマートフォンの様子が気になって仕方がないからだ。
僕は今日、小出さんとメッセージアプリ『ネットライン』のIDを学校で交換した。とても嬉しかった。天にも昇る気持ちだった。まさか小出さんが、僕とのメッセージのやり取りを望んでくれるだなんて。
だけど今、僕は悩んでいた。小出さんにメッセージを送っていいものかと。悩みに悩みまくっていた。いくら連絡先を交換したとはいえ、気軽に好きな女の子にメッセージを送れる程、僕の肝は座ってはいない。基本的にヘタレなんだ。
「うーん、落ち着かない。あ、そういえば」
以前、小出さんから小説やらなんやらが詰め込まれたボストンバックごとお借りしたのだけれど、その中にちょっと気になる物が入っていた。それが何かというと、やたらと薄い本。開いてみたら六ページしかないし。なんだろう、これ。
中身は確かに小説なんだけれど、でも内容がちょっと過激というか、有り体に言えばちょっとエッチな内容だったのだ。しかも小出さんがいつも好んで読んでいる異世界ものでもないし。なんだろう、これ。
まあ、いいか。今度訊いてみよう。それよりも、今はメッセージについてだ。
「うん、今日はメッセージを送るのはやめておこう。さすがにちょっと時間が遅すぎるし、寝てたら起こしちゃ――ん?」
『ピロン』
スマートフォンの通知音が鳴った。僕はすぐにそれを手に取り確認した。もしかしたらと思いながら。
すると──。
『小出千佳からのメッセージが届きました』
「え!? 嘘!?」
夜も遅いというのに、驚きのあまりついつい大きな声を出してしまった。まあ、声も出るさ。まさか小出さんの方からメッセージを送ってもらえるなんて、あまりに想定外だったから。
僕は一度唾をごくりと飲み込んだ。そして深呼吸をひとつ。高鳴る胸の鼓動を抑えながら、小出さんからのメッセージを開封した。
【こんばんは! 園川くん、アニメ観てる?(*^◯^*)】
小出さんが送ってくれた、僕へのメッセージ。しかも可愛らしい顔文字付きである。嬉しさのあまり、また声を出しそうになってしまった。
しかし、どうやら小出さんは顔文字を多用するタイプみたいだ。昼間のメッセージもそうだったし。真剣な顔をして、可愛い顔文字を打ち込む小出さんを想像すると、なんだかちょっと面白い。
【うん、さっきまで観てたよ。今日はもうテレビ消しちゃったけどね】
【そうなんだ! 面白いからこれかもぜひ観るべし!
うししっ(●´ω`●)】
うししっと、小出さんが笑っている。
小出さんって、ネットだと性格変わるタイプだったんだ。普段の小出さんと比べるとテンションがちょっと高い。まあ、SNSあるあるではあるけど。
【小出さんは今何してるの?】
【さて問題です、今私は何を
しているのでしょうか? ( ̄∇ ̄)】
突然のクイズである。何をしていると言われても……。うん。全然分からない。クイズとして出してくるくらいだから、いつものように小説を読んだりしいているわけでもなさそうだし。うーん。
【小出さん、ギブアップ。見当がつかない や】
【えー? 諦めちゃうの? ( ̄3 ̄)
仕方がないなあ】
【ちなみに、正解はなんだったの?】
【正解はー、ドコドコドコドコ──】
あ、ドラムロールだ。
【正解は、CMの後で!】
【ちょっと小出さん! CM挟まないで! 早く正解教えてよ!】
【正解は、お風呂の中でした \(//∇//)\】
ええ!? 小出さん、お風呂入りながらスマホいじってるの!?
小出さんが、お風呂。ということは今、小出さんは一糸纏わぬ姿というわけで。想像してはいけないと思いっつも、無理。想像しちゃう。
一糸纏わぬ小出さんの姿かあ。とっても色っぽ……くはない。うん、全然色っぽくはない。言ったら絶対に怒るだろうけれど。
て、いけないいけない。冷静になれ。これでは僕がヘンタイみたいじゃないか。もっと紳士的に、かつジェントルマンな返信を心がけなければ。
【小出さん、今裸?】
ぐわあーー!! なんという返信をしているんだ僕は! 血迷ったか! お風呂なんだから裸に決まっているじゃないか! ああ……もう駄目だ。絶対に嫌われる。
と、思っていたんだけれど。
【うっふーん♪ もちろん!
すっぽんぽんだよー! (//∇//)】
……なんだろう、この返し。小出さんのキャラ、崩壊してるんですけど。現実ではいつもあわあわしている、あの小出さんとは思えないな。
まあ、それは置いておいて。僕は今度こそ、落ち着いてちゃんと返信するよう、一文字一文字に気をつけながらメッセージを打ち込んだ。
【小出さん! お風呂でスマホいじらないの!】
【怒られた。しゅーん
(´;Д;`)】
【怒ってるんじゃないの!
風邪引いちゃったら大変でしょ!】
【しゅーん(´;Д;`)】
なんだろう、この可愛い生き物は。なんだか軽い罪悪感を覚える。ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。なので僕は、フォローのメッセージを送ることにした。
【お風呂でスマホもほどほどにしてね。風邪引いて学校休んじゃったら僕寂しいよ】
フォローではあるけど、これは僕の本心だ。もし明日、小出さんが風邪でも引いて学校を休んでしまったら、僕は寂しくて仕方がない。それに何よりも、小出さんのことが心配で堪らなくなってしまう。
しかし、来ない。返信が、来ない。いくら待っても、小出さんからメッセージが返って来ないのだ。どうしたのだろうか。さっきまでは、僕が送ったメッセージが既読になった瞬間、すぐに返事が送られてきていたのに。
もしかして僕、小出さんに嫌われた? だとしたら僕、もう生きていけない!
そう、僕が思い詰めていると。
『ピロン』
メッセージが返ってきた。僕は恐る恐る、そのメッセージを開封した。
【ありがとう♡】
その返事はとても短いけれど、だけど小出さんの気持ちがいっぱいに詰まった、温かなメッセージだった。
僕はスマートフォンを机に置いて、ベッドに寝転び天井を見つめる。
小出さんの返事が、嬉しくて仕方ない。僕の中で、小出さんの存在がどんどん大きくなっていく。それを僕は実感した。
だけど、僕はこれからどうすればもっと仲良くなることができるのだろうか。ちょっとだけ、そんな不安にかられた。
僕はもう一度、小出さんのメッセージを読み返す。
そうすれば、小出さんから勇気がもらえるような気がしたから。
『第7話 メッセージ交換だよ小出さん!』
終わり