「あ、熾天使様!ここにおいででしたか。奏斗様がお呼びです」
「そっか。ありがと」
奏斗様の部下である天使に感謝の一言を述べ、奏斗様がいる部屋へと向かう。
表向きの階級は俺のほうが上なため、側からみるとおかしいだろう。
しかし、実際彼は高貴なる存在なのだ。熾天使である、俺なんか敵わないほどの。
彼はその力をなぜか、眼帯で隠している。
まぁ、彼がいいならいいのだけれど。
「奏斗様。お呼びでしょうか」
俺は礼をすると同時に、扉を開き、挨拶をする。
扉を閉め、目の前を向く。
真っ白なスーツを見に纏い、眼帯を右目にしている、金髪の男が、椅子に座ってこっちを見ている。
彼はニコッと微笑むと。
「セラ。そんなに畏まらなくてもいいよ?」
「いいえ、目上の人には丁寧に。そう教わりましたので」
「、、、まぁいいけど」
「ところでなんの御用でしょうか」
「新たな仕事を頼みたいと思って」
「新たな、仕事、、、?」
ん。と書類を差し出した奏斗様。
「魂の受け渡し、、、?」
「そ、本当は熾天使に頼む仕事じゃないんだけどさ、しょうがなく」
「私は良いですが、いきなりなぜ、、?」
「魂の受け渡しの時に悪魔に騙されちゃった天使のこと覚えてる?」
「覚えています」
だいぶ最近の出来事だ。
魂の受け渡しをする際に、出会った悪魔が天使を騙し、地獄に連れ込まれてしまった可哀想な天使のことだ。
「その子がいたから魂の受け渡しの際に誰か上の人を呼ぼうってなって」
「それで私が」
「うん。、、、本当はセラにやらせたくないんだけど」
「私は特に問題ないのですが」
「、、、、、、そうだね。でも、その場所に行く時、僕に必ず通達してね。必ずだよ?」
「了解しました。話はこれだけでしょうか?」
「うん。わざわざ来てもらって悪いね。手が離せなくて」
「いえ、では失礼します」
そう言って俺は部屋を離れた。
「、、、、」
僕は机にある写真立てを眺める。
「ごめん、でももうあの日みたいには、させないから」
そうして、俺は仕事が増えた。
と言っても元から仕事は少なかったので大変ではない。
俺の目線の先には、悪魔がいた。
熾天使という立場だからなのか、俺は悪魔に出会ったことがなかった。
物珍しさから、ずっと彼のことを見つめていた。
「熾天使様、仕事が終わりました」
「あ、ご苦労様。大変だったでしょ、今日はゆっくり休みなね」
「では」
帰っていく天使たち。
仕事ができてることを再度確認して、帰ろうとすると。
「こんにちわ」
悪魔が話しかけてきた。
「、、、すみませんが、悪魔とは話すな。と言われておりますので」
『いい?たとえ悪魔が話しかけてきても、絶対に目を合わせないで。できる限り話もしないで。約束』
「では」
「っ、でも!また会えたら、その時は、目だけでも合わせてくれませんか、、、?」
「、、、、許可が出ましたら」
「!では、楽しみにしてます」
なんとなく、悲しげな声をする彼を拒絶することができなくて。
空を飛ぶ。
風を切る感覚が気持ちいい。明日も、あの人に出会えるかな。なんて、、、。
俺、何思ってるんだろ、、、、。
「奏斗様〜!」
そう、明るい口調で、堂々と扉を開ける男。
「、、、ひば」
僕の部屋に入ってきたのは、渡会雲雀。
「お前、一応悪魔なんだからさぁ、、、、」
「ん〜?ま、いいべ」
こんな気楽なやつが悪魔やってて大丈夫なのか。と地獄のことを心配してしまう。
本来ならば、悪魔は天界に入れないはずなんだけれど、ひばは特別だ。
「、、、、セラおの調子は?」
「普通。前と何1つ変わってない」
「そ、っか」
「あと、ごめん。セラにあそこにいく仕事渡しちゃった」
「っ!?」
ダンッ!という机を叩く音が鳴る。
「おまっ!!あそこはっ!!だめだって!!!!」
「、、、本当にごめん」
ひばが怒る理由も、わかる。セラをあそこに連れてはいけない理由も。
「セラ以外手が余ってる人がいなくて、仕方がなくだったんだ」
「っ、だとしてもだろ!?!?」
ひばは、僕の胸ぐらを掴んだ。
「またっ、あの日みたいなことをっ、繰り返したいのかよ!!お前は!!!!」
「、、、、」
僕は、ひばの目を見ることができなかった。
「繰り返したく、ないよ。ひばだって知ってるでしょ。あの日以降一番辛いの、僕なんだよ」
「、、、わかってる。お前が一番辛いのもわかってる。でも!」
「知ってるよ!!!あそこに行かせたくなかった。僕だって。でも、、、ごめん」
「、、、いや、いいよ。でも、またあの日みたいになったら、俺はもうお前とは関わらない。セラおもこっちで預かるから」
そう言って、彼は出て行った。
わかってる。わかってる。
僕が悪い。あの日だって、僕が、悪いんだ。
今天界でセラに会えてること自体運命なんだから。
あの事件は、もう繰り返さない。
それだけは、約束するから___。
「奏斗様」
「ん?な〜に、セラ」
廊下を歩いていると奏斗様に出会った。
「なぜ、悪魔と目を合わせてはいけないのですか?しかも、私だけ」
その俺の質問に、奏斗様は黙り始めた。
「、、、、ダメだからだよ」
「理由になっておりません」
「ダメなものはダメだよ。君に理由を話したら、全てが水の泡になってしまう」
「何が、ですか、、?」
「言えない」
「っ、なぜ!」
俺はつい、声を荒げてしまった。
質問に答えない、奏斗様に、、、。
「とにかく、悪魔とは目を合わせないで、話もできる限りしないで。いい?」
階級が上である奏斗様に俺が、逆らえるわけもなく、、、、。
「わかりました」
「ん、わかったらいいんだよ」
そう、俺の頭を、撫でてくれた奏斗様。
俺の、恩人___。
目が覚めたら知らない部屋にいて、自分のことも、何1つ知らない俺の面倒を見てくれたのは奏斗様だった。
俺は生まれつき、天使で、勉強などの出来も良かったため、頑張れば熾天使になれる。そう言われてきた。
でも、奏斗様は強制しなかった。
『セラの好きなことをしな。ここは天国だからね』
そう微笑んでくれた時のこと、いまだに覚えている。
俺にとって、奏斗様は見ず知らずの俺を助けてくれた、恩人だ。
そして、階級も上の奏斗様に俺は、逆らうことができない。
立場的にも、精神的にも_。
「、、、、アキラ。もうあそこにいくのやめろ」
「どこのこと言ってるんですか?」
「お前、わかって言ってるだろ」
俺は、昔からの友である”四季凪アキラ”に話をしていた。
なんの話かわかってるにも関わらず、しらばっくれるのが上手いやつだ。と思う。
「セラおに会いにいくな。もう」
「っ、なんで知って」
はっ、とした表情をしたが、もう遅い。
「会ってたのか」
「偶然ですよ。仕事をしていたらたまたま、彼がその場に居ただけで」
本当に偶然なのだろうか。しかし今はそこはさほど重要ではない。
「わかった。だけど、もう会いにいくな」
「、、、、」
顔を歪めるアキラ。
気持ちはわかる。痛いほどわかるよ、アキラ。でも、あの惨劇は、もう繰り返さない。
誰の得にもならない。みんなが悲しんで終わっただけだから。
俺だって、会いたいよ。セラおに。
あの頃みたいにさぁ。でも、セラおに会わないことが、セラおの幸せなら、俺は我慢できる。
可愛い可愛い末っ子に悲しい思いはさせない。
「会いにいくな。仕事もこっちで代わりを用意する。仕事を減らしたっていいから、あそこにはいくな」
「、、、、はい」
アキラは、階級が上である俺に逆らうことができない。
いらない。と思っていた権力がまさかここで役に立つとは。形だけの権力が。
「でもアキラ。お前は悪くないからな」
「、、、、そうで、しょうか」
セラお。一回だけでも会いたい。でも、あったらダメだ。また、繰り返すかもしれないんだから__。
あの日、声をかけてくれた日からあの人を見ることは無くなった。
たとえ、あの人に会えたって、できることはないのだけれど。
そうして、仕事にも慣れ始めた時奏斗様の部屋を通りかかった。
『〜〜。〜〜〜』
『〜〜〜?〜〜』
誰かと話す声が聞こえた。それ自体珍しくなかったのだが、その声が。
「奏斗__」
その声が聞こえた瞬間、俺は扉を思いっきり開けていた。
「っ、なんでセラが!?」
心の底から驚いている奏斗様。でも、それ以上に。
「ここにいたんだ」
あの日出会った、悪魔に目が入った。
「こんにちわ。名前を聞いてもいいかな?」
無我夢中だった。
彼が話しかけてきてくれた日から、彼のことばかり頭に浮かんだ。
青と紫の綺麗なグラデーションの瞳に、吸い寄せられていた、、、。
「俺は、セラフって言うんd__」
自己紹介をして、それから名前を知ろうとしていた、その時。
「セラ。ダメだよ」
奏斗様の羽で目の前を隠された。
「アキラ。いくぞ」
彼の名前はアキラというのか。
「アキラっ、行かないで、せめて名前だけでも!!」
「セラ。目を瞑って、声を発しないで」
「アキラ。アキラ!そっちに行ったら、もう手遅れになる!!」
周りがうるさい。
俺は、彼の名前が知りたいのにっ!
「私は、”四季凪アキラ”といいます」
そう、彼は残して消えた。もう一人の悪魔と共に。
その証拠に、綺麗な黒い羽が落ちていた。
「、、、セラ。こっちにきて」
「なんでっ!邪魔したの!?せっかく、彼と仲良く、なれそうだったのに」
「、、、僕は悪魔と目を合わせていい。って許可した覚えないけど」
「っ、そうだけど!あの人、普通の悪魔と違うんだよ!そうだ、どっかで出会ったk__」
出会ったことがあるんだよ。
そう言おうとした瞬間だった。
奏斗様の眼帯が外れた。
十字架に光る瞳。
「ダメだよ。セラ。悪魔と目なんか合わせたら」
「ぁ、え、、」
「セラにとって、嫌なことだろうけど、ごめん。君を守るためだから、許して、ね?」
「わかり、ました」
何があったのだろうか。
俺は奏斗様に逆らうことができなかった。
物理的に、、、。
光り輝く奏斗様の姿は、神と入っても過言ではないほどだった。
「お前!!!」
俺は目の前にいるアキラの頬を引っ叩いた。
「、、、、」
それでもなお、アキラは黙り込んでいた。
「おい!!お前はまた、セラおを傷つけたいのかよ!?」
「っ、そんなわけ、ないでしょう!?」
「なら、なんで!セラおに!名前を教えたんだ!!!」
俺は許せなかった。
自らセラおを傷つけようとするアキラがっ!!
「、、、」
「あの頃のセラおは、もう、いないんだよ」
「違います!!セラ夫は優しいから、忘れてるフリをしてるだけでっ!絶対に、覚えてます、、。私たちのこと!!」
そういって、アキラが顔を上げた。希望に満ちた顔で。いや、違う。ありもしない夢に縋っている顔で、、、。
「現実を見ろ。お前はまたっ!!あの惨劇を繰り返したいのかっ!?!?約束したじゃないか!!セラおのために!」
「でもっ!でも!!!」
「でもじゃねぇよ。俺だって、あの頃みたいにしたいよ、、。でも、無理じゃんか」
俺は笑顔を見せた。苦笑いに似てる、笑顔を。
「お前だって、見たじゃないか、あの景色。誰か得したか、、?違うだろ。全員苦しんだ。全員罪ありきものとなった。いいことなんてなかった。だから、こうなってるんじゃないか」
「凪ちゃん!!」
あの頃はまだ、私たちも天使で、生きていた頃の記憶もあって、楽しく暮らしていた頃の話だ。
今日も魂の受け渡しの仕事をしていた。
セラ夫も、たらいも、奏斗も、全員階級は下で、同僚と同じようなものだった。
「セラ夫」
よー!っと手を振って、笑顔で、笑いかけてくるあなたが愛おしかった。
前世みたいに、みんなで笑い合っていたのが、楽しかった。
彼から生えていた大きな天使の羽が、眩しかった。
いつもみたいに、仕事をしていただけだった。
『コンバンワ』
私たちの背後に立つのは、知らない男の子。
悪魔の羽を生やし、悪魔のツノを生やした男の子。
黒髪で、赤い目をしてる、”Ares”によく似た悪魔がいた。
『コッチニ来テヨ』
そう言って、セラ夫の腕をとり、地獄へと連れていった。
「セラ夫!!!」
私は、セラ夫を追いかけた。
「?アキラ〜!」
「どこいったんだ?」
後ろから呼んでいる、二人に気付かずに、、、。
「セラ夫!セラ夫!!」
暗い、地獄の中、セラ夫を必死に探す。
『コッチニオイデヨ』
セラ夫を連れていった、悪魔の声はいつの間にか、私の背後から聞こえた。
「え____」
「凪ちゃん!!!」
悪魔から私を庇ってくれたのは、セラ夫だった。
セラ夫は、私の代わりに、悪魔に取り込まれた。
『誰ダオ前ハ』
それでも、悪魔は話をする。
「セラ夫を、どこに!!」
私が、そう叫ぶと、
『アイツ、誰ノコト言ッテルノ?凪チャン?』
悪魔は囁く。
彼以外、私のことを凪ちゃんと呼ぶものはいない。彼以外、ピンクの髪で、赤い触覚があるものはいない。
「っ、、、、」
私は絶望した。
神様、神様。私はどうなってもいい。だから、だから!!!
セラ夫を、元に戻してください、、、、。
「アキラ!!何で地獄に__」
「セラおも一緒にいるのk、、、」
奏斗とたらいも私たちを追ってこちらに来たらしい。
地獄に天使がいるのはそうそうないため、地獄の悪魔が集まってきた。
『奏斗ト雲雀ダ、ドウカシタノ?』
セラ夫の姿で、喋る、何かに、二人も動揺した。
神様、神様!!
『救ってあげましょう』
目を開けると、そこには神様がいた。そこは白かった。なんもなかった。
薄茶色の髪に天使のような輪に棘が生えているみたいだ。白いスーツを見に纏い、すごい神々しい。
『しかし、条件があります』
「条件はなんでも飲む!!ですから!!セラ夫を!戻してください、、、」
私がそう、頼むと。
『あなただけの問題ではなくなります、あなたと一緒にいた風楽奏斗・渡会雲雀も同じです。彼らの責任も持てますか?』
「アイツらだって、同じこと思ってる!!セラ夫を、救ってくれるならなんだってしますから!!」
『、、、わかりました、惨めな彼を救ってあげましょう』
「っ!!良かった、、、」
『その代わり、あなたと渡会雲雀は悪魔となり、彼を襲った悪魔と同じような呪いを受け、彼の記憶は全て消されます。風楽奏斗は右目に呪いをかけます』
それは、なんとも得がない条件だ。
でも、
「それで、セラ夫が、天使に戻れるなら。あの日みたいに笑えるなら」
ー私たちはその条件を飲みます。
『そうですか。では、救ってあげましょう___』
これで、セラ夫が救われえるなら__。
「アキラ、セラ夫救えたんだよな」
「えぇ」
「アキラ、僕たちの代償は何?」
「勝手に条件を飲んですみませんでした。しかし、これしか道は__」
「そんなの知ってる、セラを救うためにアキラが取った道は正解だ」
「、、、私とたらいは悪魔となり、セラ夫を襲った悪魔と同じような呪いを受けます。セラ夫の記憶は全て消え、奏斗は右目に呪いを受けることになりました」
「セラおを襲った悪魔と同じ呪い、、?」
「はい。おそらく、天使を取り込むことができる呪いのことでしょう」
「僕の呪いはなんなんだろ、、、」
「それはわかりませんでした」
ただ、自分たちが受けた代償について私は話すことしかできなくて、
「そろそろセラおも起きるんじゃね?じゃ、俺らはもう行こうぜ」
「え」
「セラおが起きて、またああなったらダメだろ」
「でも、、」
「セラおの幸せを眺めたいのは俺もだ。アキラ。でも、セラおを傷つけたくない」
「、、、わかりました」
「じゃあね」
そう言って、この件は終わり、セラ夫に幸せな時が訪れるはずだった。
『簡単に救うわけないじゃないですか。あなたたちにはもっと、辛い思いをしてもらわねば。彼を救ってあげたのですからね』
そう神は微笑んだ。その神の微笑みは、いつしか彼らも見たことのある微笑みだった。
『(しかし、人間だった頃お世話になりましたしね)』
『あなた方に神のご加護が在らんことを』
そう言うと、霞の中から一人の天使が現れた。
『それを神であるあなたが言いますかね?加賀美さん』
『叶さん』
『いいんですか?本当はもっと重い罪ですけど』
『いいんですよ、彼らが消えたら元も子もないので』
『、、、優しいですね』
『いいえ、優しくなんてありませんよ?ただ、彼らがどんな運命に出会うのか、気になっただけです』
『嘘つきー、責任感じてるだけでしょ?加賀美さんは』
『、、、なんのことでしょうか?』
『セラフを襲った”悪魔”を見逃したのは貴方。なんでしょ?どうせ』
『なんでわかったのですか?』
『なんとなく〜』
そう会話を繋げる一人の神と一人の天使。
『まぁそうですね。彼らがあぁなったのは私の責任です。ですから少し罪を軽くしただけ』
『ふ〜ん?ま、僕には関係ないからいいけど』
『いいえ、ありますよ』
『は、、?勝手に僕巻き込まないでもらえます?』
『風楽奏斗に力を分けてください』
『っ!ねぇ僕の力が何か知ってて言ってる〜?普通の天使にあげたら耐えきれないけど』
『それが、彼に与える試験です』
『彼だけなの〜?』
『いいえ、全員に与えます』
『、、、そのセラフ君はどんな試験を与えるの〜?記憶消すんでしょ?』
彼は気だるそうに問う。
『記憶を消すのが試験です』
『意味わかんねぇ』
『ふふっ、そのうちわかりますよ?』
神は微笑み、消えていく。天使は囁いた。
『君たちに、神のご加護が在らんことを__』
神に近し天使は目を瞑る。あの頃の彼らを反芻するように。
「あ、起きた?」
目を開けたセラ。
「貴方は、誰、、?俺は、誰」
漫画でよくありそうなセリフを放つセラ。
「君の名前は、セラフだよ」
セラからは、6つの羽が生えていた。
「セラフ、、、?」
「うん。それが君の名前だよ」
そう僕が伝えた。その時だった。
『やぁ。風楽奏斗』
目の前には、天使がいた。
『君に力を与えにきた。僕の力だ。僕の力は通常普通の天使では耐えきれない。だから、頑張ってね』
「え、」
体の中に何かが巡る感触がする。光が、巡るかのように、力が溢れてくる。
「あ”あ”あ”あ”!!!」
くるな、くるなぁ!!!抑えきれない力が暴走する。
『、、、頑張って』
天使はそうとだけ残し、消えていった。熱い熱い。
「あ、ど、どうかしたの!?」
セラが焦っている。見ず知らずの僕を心配するなんて、優しいやつだ、な、、、、。
「あそこやけに光ってね?」
俺が指さしたのは俺らが来たところ。
つまり、奏斗がいるところだ。
「、、、何かあったのでしょうか?」
嫌な予感がするぞ。
「いくぞ!!」
「え、、!?」
俺は走っていた。なんだろう。セラおのためには会わない方がいいんだけど、ちょっと遠目で見るだけ!セラおが危険な目に遭う気がする!!!
そうは知った先には、信じられないものがあった。
「た、たらい!どうかしたd__」
「か、かな、と、、、?」
天使みたいな見た目のやつが、セラおを襲っていた。
「あ、あ、ぁ、、。や、やめて!!」
涙を流しながら逃げようとするセラお。しかし、セラおの足を天使は羽で掴み続ける。
『ドウシタノ、早ク戻ロウ?』
あの時みた、悪魔に似てる。
「セラお!!」
俺は、力を使っていた。正確には、呪いを__。
『カナト。ダメダヨ、戻ッテコイ』
みんな。もうあの時のみんなじゃない。私が狂わせたんだ。私が、、、。セラ夫を襲う、天使と、天使を襲う悪魔。その様は目に入れたくないものだった。
「戻ってきて、戻ってきてください、、、」
セラ夫も、奏斗も、たらいも、全員みんな、幸せでいて、、、。
『わがままですねぇ』
「か、神様、、?」
私の隣に現れた神様。
『どうします?”渡会雲雀”の持ってる呪いも全て貴方が受け止めるなら、この場をどうにかしますけれど』
「っ!本当に!?」
『えぇ』
それが、本当ならっ!!
「お願い、しますっ!!」
『わかりました』
そう言って、神は目を閉じた。
『この場にいる天使・悪魔に告げる。太陽の神・加賀美ハヤトが命令する。呪いを解きたまえ』
その瞬間、光に溢れた。
『”渡会雲雀”に命ずる。其方の呪いを四季凪アキラに移したまえ。そして四季凪アキラは呪いを受け止めたまえ』
私に呪いがかかる。重い、呪いが。
『”風楽奏斗”に命ずる。其方の力を抑えたまえ。それと同時にセラフを解放せよ』
奏斗の姿が、たらいの姿が、だんだん戻っていく。
これで、これで、、、。
『セラフに命ずる。其方に熾天使の位を授ける。熾天使としての仕事を全うし、熾天使としてこの天界を守りたまえ』
セラ夫に光が宿る。これが、神の力、、、。
『これでいいでしょう。では』
「っ、ありがとうございました!」
神は消えた。みんなは寝ている。
「、、、行きましょう。たらい」
私はたらいをおぶって地獄へ歩く。
「(神のご加護が在らんことを)」
そうして、その惨劇は幕を閉じた。
「ごめんなさい。たらい」
「、、、、いいよ、わかってくれれば」
俺の呪いの分まで全て受け止めたアキラ。つよすぎる力を、呪いを受けた奏斗。記憶を忘れ俺らを忘れたセラお。俺は、なんもない。唯一あるのは、虚無感だけ。自分にはなんもない。呪いも、背負ってるものも、、。
「アキラ。もう諦めよう。セラおに記憶が戻ることはないんだから、、、、」
「、、、、えぇ、それが、一番幸せなんでしょうね」
あぁ、そうだよ。全員、諦めた方がいいんだ。セラお。その代わりな?
幸せになってくれ。
俺から言えるのはそれだけで、それ以外望むものはない。天界で、熾天使として、普通に生きて、幸せになってくれ。
「アキラ、行こう」
「えぇ」
俺らは地獄の奥底へと歩き出した。セラおにもう会わないために。セラおの幸せを害さないために。
「(でも、やっぱり、悲しいなぁ)」
やっぱり、涙は出ちゃうんだ。永遠の別れなんだよなぁ、これって。
「こんばんわ。太陽の神・加賀美ハヤト様。お初にお目にかかります」
『そんなに畏まらなくていいですよ。何かありましたか?熾天使・セラフよ』
見知った顔が現れる。初めましてではない、彼の顔をよく見つめる。あの日より、大人びている。よく言えば。悪く言えば、笑顔がきえた。
「全てを教えてください」
『どういうことですか?』
彼は気づいてるのだろうか。
「私の身体に何があったのか。奏斗様はなぜあんなに悪魔と目を合わせてはならないと仰っているのか。悪魔・四季凪アキラは一体何者なのか」
『それに関しては答えることができません』
白く、無駄に広い教会の中、沈黙が流れる。
『熾天使・セラフよ。どうしても、その答えが知りたいのならば、教会の先をずっと奥に行った記憶の欠片に触れなさい。しかし、その代償として、今の平穏・幸せが崩される可能性があることを覚悟していきなさい』
「ありがとうございます」
『貴方が真実を知ったのならば、もう天界にいることができるなど思わないでください。私は彼らの誠意に応えて貴方をここに置いています。奏斗と一緒にいることはもう二度と、叶わないと思いなさい』
「ご忠告どうもありがとうございます。しかし、私はそれでも知りに行きます。真実を知らなければ、私はずっと檻の中にいると思うから」
『、、、、、そうですか。行きなさい、熾天使・セラフよ。真実を知りに』
「太陽の神・加賀美ハヤト様。ありがとうございました」
そう言って、空を飛ぼうとする彼を一旦引き止めた。
『熾天使・セラフよ。私はその判断が誤っていると考えています。しかし、それでも貴方はその判断をした。ならば、その判断が正しかったと、私に証明しなさい。太陽の神・加賀美ハヤトが命令します』
「かしこまりました」
そう言って、今度こそ、旅立った彼。
『加賀美さん』
『叶さん』
『よかったの?行かせちゃってさ〜』
『いいんです。ここで止めても彼は探し出すでしょう。真実を』
『、、、、。その判断が、彼にとって正解か、不正解かなんて僕らにはわからないしね』
『正解であることを私たちは願うばかりです』
『、、、不正解だったら?』
『それこそ、私たちには関係のないこととなります』
『貴方が、逃げてるだけじゃなくて?』
『、、、。貴方は質問するのがお好きですよね』
『答えになってないけど』
『、、、、、えぇ。私は逃げています。私が犯した罪から。彼らの運命から』
『神がそんなことしちゃっていいの〜?』
叶さんは、私のことをじっと見つめている。嘘を見抜くかのように。
『神が全てではないですよ。叶さん、ところで、奏斗の様子は?』
『いきなりその話する?ま、報告するよ』
すると、その場の空気は変わった。叶さんは、地に手をついて、こちらに頭を下げた。
『太陽の神・加賀美ハヤト様。私が受けました命・風楽奏斗の現状について報告することに許しをください』
『赤の天使・叶よ。太陽の神・加賀美ハヤトがお前が報告することを許可する』
『感謝いたします』
そして、叶は立ち上がった。
隠していた力を表に出して。赤い羽が6つ。彼の正体はセラヒムという熾天使であり、その中でも最も神の玉座に近い、赤の天使、”愛の天使”だ。
『赤の天使・叶が報告いたします。風楽奏斗は以前と少し変わった様子が見られました。悪魔である渡会雲雀との接触も以前と変わらず続いているようですが、四季凪アキラとの接触が増えてきたようです。その時、熾天使・セラフが悪魔と接触。悪魔はその場を立ち去りました。風楽奏斗は己の能力を使い、熾天使・セラフを押さえつけたと思えます』
『報告ご苦労。熾天使・セラフに変わった異常は見られたか』
『特に変わった様子は見られませんでした。先ほど、加賀美様が見られた熾天使・セラフと同じかと』
『了解した』
叶さんの報告が終わる。奏斗の動きは変わらず。しかし、セラフが、悪魔と接触を果たす。だからか、セラフが真実を知ろうとしたのは。
『なんとなく勘づいてはいましたが、、、』
『っ!!』
叶さんが明らかに驚いた顔をしている。
『加賀美さん!!』
『何か、ありましたか、、、?』
『セラフが、記憶の欠片を触りました』
その報告は意外にも普通のことで、そんなに慌てることか。と思う。
『そんなに慌てることでh__』
『いいえ!!今すぐ向かわねばなりません!!セラフが!』
『セラフが、、?』
『_______!!』
『っ!?叶!今すぐ向かいますよ!』
『はい!!』
急がねば、急がねば!!
『加賀美さん。私はあの3人に連絡を入れて参ります。なので、貴方は先に!』
『わかりました!頼みました!!』
そう言って、私は旅立った。あの二人みたいに、彼をさせないために!
『葛葉。不破さん』
『ん〜?叶何〜?』
『珍しいっすね』
『連絡を入れなさい』
〜〜〜〜〜。
『『、、、了解』』
さて、僕も行こう。
連絡を入れよう。
あの、二人、いや3人みたいにはさせない。
『奏斗』
『アキラ』
『ひば』
『なんですか?叶さん』
『なんのようでしょうか?葛葉さん』
『なんかあったんすか?不破さん』
『今すぐに、記憶の保管所に行きなさい。これは上司命令です。貴方が今受け持っている仕事は僕が受け継ぎます。だから、急いで。すぐに行きなさい』
『今すぐに、記憶の保管所に行け。これは上司命令だ。お前がしてる仕事は俺がやる。だからすぐ行け。逆らうことは許されない。急げ』
『今すぐに、記憶の保管所に行くこと。これは上司命令な。君がしてる仕事は俺がやるから。だからすぐ行けよ。急いで。すぐに行かんとダメやかんな』
『え、、なんでですk__』
『どうかしたんですk__』
『何があったんですk__』
『『『行け』』』
『は、はい!!』
『わかりました!』
『了解です!!』
3人とも、意味は理解できなかっただろう。
でも、上司である彼らは違った。
あの、3人みたいにはさせまい。と息巻いていた。
『(弦月くんみたいに、ならないように)』
『(長尾景みたいに、あんな結末を迎えないために)』
『(甲斐田みたいにならんように)』
あの3人を、もう二度と見たくないから__。
そう言って、記憶の保管所へと向かう3人。
そこには、ボロボロの加賀美ハヤトと、何者かがいた。
「え、、、」
そう、奏斗はこぼした。
『み、みなさん。きましたか、、、』
「か、加賀美さん!」
唯一加賀美ハヤトの名を知っている奏斗が叫んだ。
『、、、こんにちわ。太陽の神・加賀美ハヤトと申します。そちらのお二人とは、”初めまして”ですね』
「っ」
アキラが反応する。
『前回の惨劇と、現状について、お話ししますのでどうぞこちらに__』
そして、目を開くと白い場所。
前回の惨劇の際、アキラが呼ばれた場所もこのような場所だった。
『前回の惨劇については、私のミスが含まれています』
加賀美ハヤトは語り出した。
あなた方を天国か地獄かで区別する際、私は今までの関係もあり、貴方たちが悪人ではないことを前もって知っていましたので、天国へと振り分けました。天使と悪魔が行っているのは本当はかみが振り分けた魂を回収する仕事なのです。
あなた方3人は無事天国へ送り出せたのですが、問題は”セラフ”でした。彼は第二人格と言ったらわかるでしょうか?心は、昔暗殺業を行っていた頃の”セラフ”で、地獄に行くことを望んでいました。しかし、今の前向きで明るく、笑顔のセラフは天国に行けるような、2つに分かれています。この辺はあなた方の方が知っているでしょう?
そして、私は今のセラフのみ天国へ送り出しました。昔の頃の”セラフ”は記憶の保管所という場所に閉じ込める、、。封印していました。
そこには貴方たちも知っている、”長尾景”の心も封印されていました。出てこないよう、封印されていたはずなのです。
悪魔はそこに目をつけました。その記憶の欠片を壊し、その心を出してしまいました。第一被害者は、長尾景です。
その時はまだ、”セラフ”の心は出ていませんでした。ちょうど、あなた方が天使として仕事を任されようとしていた頃ですので、悪魔たちにとって価値がないのです。
しかし、長尾景は天使としても地位が高かったので価値があると思われ、封印を解いたのです。悪魔たちは。
なぜ、この話をするのか。と不思議に思ってるでしょう?あの惨劇を語るには、3人の惨劇について語った方が早いのですよ。
そして、長尾景は何かになりました、、、。化け物と言った方がわかるでしょうか?あれですよ。あの惨劇、セラフが飲み込まれたもの。あれになったのです。
長尾景は天使だったが、悪の心に支配されてしまい、友人であった、甲斐田晴・弦月藤士郎を、道連れにしました。
この惨劇を知っているのは、数少ない地位の高いものたちのみです。
『強欲の悪魔・葛葉』『嫉妬の悪魔・不破湊』『愛の天使・叶』
この3人は特に彼らと関わっていた人物でした。
悪魔・天使和解計画の中心となっていたのがあの3人であり、先ほど言いました3人の悪魔・天使でした。
そして、3人は、もがきます。
『あ”ぁ””!!ぁ”〜!!』
言葉も発しません。ただ、化け物のように、ただ、、、、。3人を解放する手段は1つだけありました。
悪魔の呪いで縛り付け、天使の能力で浄化する。
それだけでした。そして、彼らは成し遂げました。そうすることで、3人は救われるから__。私はあの時の、彼らの表情が忘れられません。涙を流していました。
そして、あの惨劇は、私のミスです。封印されていたはずの心をが、放たれていることに気づくことができなかった、私のミスです。すみませんでした。
そのこともあり、私はあなた方の罪を軽くしました。本来ならば、あなた方が犯した罪は、、、正確には”セラフ”を守るため犯した罪は、一生償われることのない重き罪なのです。
しかし、私が原因なので、軽くしました。あの惨劇の本当の犯人は私です。これが、あの惨劇の正体です。
、、、現状につきましては、セラフが耐えきれませんでした。
あの心を受け止めるほど、セラフは強くありませんでした。そして、心に飲み込まれてしまったのです。
”セラフ”は暴走を起こしています。
あなた方がその暴走を止めることができます。そして、私が止めることもできます。
自らの手で、”セラフ”を解放するのは、とても、辛い選択です。しかし、その選択は、セラフにとっては嬉しいでしょう。愛し、愛された親友の手で解放されるのだから。
どちらの選択を取るかはあなた方次第です。
『決めてください。今すぐに』
僕たちは、真っ先に言った。
「「「僕/俺/私たちが解放します」」」
『あ”ぁ””』
もう、セラフじゃないんだ。
「悲嘆の悪魔・渡会雲雀」
「色欲の悪魔・四季凪アキラ」
「智天使・風楽奏斗」
「「「ただいまより、”セラフ”の解放の儀を行う」」」
渡会雲雀と四季凪アキラの呪い・能力で、鎖を作り上げ、”セラフ”を縛り付ける。風楽奏斗の呪いが光を放つ。
「(僕が、”セラフ”を__!)」
そう、奏斗が焦っていると、奏斗の肩に手が置かれた。
「大丈夫だ」
「解放してあげましょう」
涙が溢れる。
「うん、そうだね」
奏斗から放たれた光は直接”セラフ”へと向かっていった。
「奏斗、凪ちゃん、雲雀」
どこからか、そんな声が聞こえた。
「今まで、ありがとう」
光は”セラフ”へと届いた。
”セラフ”は消えた。光る塵となって、空へと上がっていった。3人はその場に崩れ落ちた。涙を流して。セラフがいた、その場所に3人で重なり合って。
「「「セラフが、幸せでありますように」」」
ただ、3人はそう願った。叶うことない。と思っていても。頼むから。頼むから。ただ、ただ、幸せでいてくれ。と、ただひたすらに、願っていた。
「おぎゃぁおぎゃぁ!」
「元気な男の子ですよ〜」
とある産婦人科にて、元気な男の子が生まれた。お母さんはこれで4人目の出産だそうだ。
「「「可愛い〜!」」」
兄となった男の子たちは元気な赤ちゃんを見て真っ先にいった。
「お前、頑張ったな」
お父さんはそうお母さんに声をかけた。
産声を元気よくあげる赤ちゃん。そんな赤ちゃんは、家族に愛され、幸せに生きていくだろう。
なぜなら、天使の加護を、悪魔の加護を、受けているから__。
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