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人魚姫

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人魚姫

31 - 王

♥

10

2025年10月16日

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◇◇◆◆◆◇◇



月明かりの下、小瑪は露台に佇み、たくさんの星を映した海を眺めていた。

日が暮れ、月が世界の舞台へ向かい始めた頃、エミールと別れた。

不安げな表情を見せるエミールには、安全のため海底に隠れていろと言っておいた。

「…海の底は、あまり好きではありませんけど、小瑪が言うならそうします」

と、エミールは小さく笑んだ。

明日の夜明けにまた会おう…小瑪は約束した。

「できるだけ、独りにはさせない」

そう言ったら、エミールははにかみ、

「…小瑪は優しいですね。ありがとう…」

何度目かの言葉を唇に乗せた。

潮風が、肌に沁しみる。

…この想いをどうすればいいのだろう。

エミールを愛し、独占欲が胸をかき立てる。


…誰ニモ見セタクナイ…


孤独を知り、怖れるエミールの、時に見せる心の底からの微笑みは幸福感に満ちている。真っ暗闇に灯るささやかな光のよう。


…誰ニモ聞カセタクナイ…


耳を撫ぜるあの清涼感に溢れる音楽的な声。その歌声は危険に満ち、甘く切ない。


…誰ニモ触ラセタクナイ…


柔らかな唇は吸うごとに熟れ、艶かしく、可愛らしい。


…自分ダケノモノニスルニハ…


小瑪は手摺てすりに寄りかかり、頭を抱えた。

エミールと共に生きたい…誰の手にも渡らないようにしたい。月長石ムーンストーンの瞳には、自分だけを映したい。他のナニモノも、エミールには必要ない。

(違う…そうじゃない。ただ二人だけで、平穏に居たいだけ…邪魔しないでほしいだけだ…)

生きたい…殺シタイ…

(殺したくなんかない!)

暗闇の世界から、声が囁く。紛れもない、小瑪の声で。


…デモ、イツカ、誰カガ攫ッテイク…


…エミールハ、自分以外ノモノデモ喜ブ…


…愛デルノハ、自分ダケデイイ…


…自分ダケノ側ニ…


…逃ゲラレナイヨウニ…


声は止むことなく響く。すべて、否定できない自分の心。けれど、

「やめろ!」

それでも小瑪は目を背けようとする。背ケラレナイノニ…

(違う。生きたい。俺たちは…二人だけで…!)

唇を噛み締め、もう一人の自分を殺そうとした。殺セナイノニ…


…エミールモ、ソレヲ願ッテイル?…


「当たり前だ!」


…本当ニ?…


「───」

小瑪は瞠目し、息を詰めた。

(エミール、は…?)

エミールも、自分と同じように願っているのだろうか?

小瑪には、答えが出せない。そうであってほしいと願うのに、エミールが遠い。

≪人間よ≫

夜闇に谺する声が、立ち昇る海の音と共に注そそぐ。

小瑪は驚いた様子もなく、丸めていた背を伸ばした。心の乱れを、一瞬で呑み込んだ。

「…一国の王が直々(じきじき)に、何の用です?」

涼やかな唇の片端を上げ、皮肉に言う。

海上に現れたのは、まさしく海の王であった。神秘なる月光を孕んだ長い髪は、寄せては退く波のよう。自然の叡智が窺える容貌に、形容し難い双眸。すべてを見透かしているような、千里眼の力を感じさせる、水晶の眼まなこだ。

≪王だと思うか?≫

くすりと鼻を鳴らした小瑪は、自らの額を指差すことで、相手の額を示した。

「人魚の世界では、藍玉アクアマリンは王の証」

小瑪の示す通り、拳大の藍玉アクアマリンが額に輝いている。

≪…いかにも。我は十一代目国王を冠せられておる≫

表情という表情もなく、王は頷いた。

≪先の質問だが、察しがついておるのではないか?≫

「…さあね」

≪瑞樹の末裔。東の果てより来し一族。

我ら人魚属と人間属を繋ぐ者よ≫

ハァ、と、吐息する小瑪。

「その役目は、もう担っていません」

≪そうであろうな≫

特に嘆くわけでもなく、王は首肯した。

≪瑞樹の者よ。

…これが、人魚属と人間属の最後の交流となるであろう…

我の望みを聞いてはもらえぬか?≫

「……」

≪しかし、そなたは拒めぬであろう。

彼かの者については、そなたは誰にも譲りたくないであろうからな≫

小瑪は瞼を下ろし、手摺の冷たさを手の内に感じる。

(…エミール…)

銀しろがねの煌きが、眼裏をかすめた。

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