なおも強気な芹那に「どっちかなぁ」と、とぼけた様子で答える。けれど次の瞬間には感情のない声と蔑むような視線を向けて続けた。
「自分たちは何もしてないんだから、そりゃ認めないよ。でも“お前がそそのかした“っていう証拠はあるんだって、わかる?」
「いや、何回も言うけど未遂! そもそも事が起こってないんだってば」
坪井の声につられるようにして、芹那の声のトーンが低くなっていく。
そんな芹那の苛立っていく様子を嘲笑いつつ、問いかけた。特に答えを求めているわけではないけれど。
「実行してなきゃ罪にならないんだったら、未遂じゃなかったことにする?」
「はぁ?」
意味がわからない、とでも言いたげに大きく目を見開いた芹那は呆れたようにため息をつく。
「何が言いたいの? まわりくどいの嫌いなの、私」
刺々しい声に「ああ、ごめん」と、軽く謝罪の言葉を発した後にさらに笑顔を深めて言った。
「やり取り中どこにも立花の名前出てなかったじゃん。だから他の女使って未遂じゃなくせばいいのかなぁとか思って」
坪井の声を脳内で反復させていたのだろうか。
数秒の沈黙の後、また軽く舌打ちが聞こえてきて。けれどその後続く言葉はない。坪井は芹那へ畳みかけるように言った。
「やってないことをやってないって証明するのは大変だけど、やってないことをやったって証言させるのは簡単だよね」
「いや、だから誰が素直に口割るかってのよ」
「お前が使った男は、別の人間をさ、嵌めたいんだって。そいつに押し付けてどーにかするんじゃない? 俺今回のボーナス割と消えたもん」
芹那がうんざりとばかりに長いため息を吐く。
「……想像以上に嫌な男になってたね、坪井くん」
「うまくいくかなんてわかんねぇけど、お前の思うとおりには無理じゃない?」
「うっざ」
芹那は憎しみのこもった声を喉に詰まらせるようにして吐き捨てる。坪井はその言葉を受けて、片方の眉を上げ意地悪な笑顔を浮かべた。
「だって俺、相手の男なんてどうなっても構わないし。最悪お前も」
「これじゃ、何しに来たかわかんないじゃん私」
あーあ、と。ぐったりした様子で言った後、肩をすくめた芹那。そんな彼女を見下ろしながら坪井は煽るように鼻で笑った。
「はは、何にも用意せずに来るわけないでしょ、俺もお前も」
「そうみたいね」
苦々しい顔つきで、芹那は小さく首を縦に振った。
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