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56短編集

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56短編集

1 - 背伸び。

♥

90

2024年10月07日

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ずっとパソコンの前で作業していたせいで固まった首をほぐしながらリビングへと向かう。

歌ってみたの編集作業は単調な作業なゆえに、何かと疲労がたまるものだ。まあ、いふ民たちの笑顔を想像したら疲労なんて安いものなんだけれど。

でも数分前、仕上げに入った瞬間ソフトが落ちた時は物理的にも精神的にも目の前が真っ暗になった気がした。幸い途中まで保存していたから修正箇所は少しで済んだものの、一度した作業を繰り返すのは虚しさが募るばかりで。

甘いものが食べたい欲を言い訳にして部屋から逃げ出してきた、という訳だ。

蒸し暑い廊下を進んで、ドアノブを掴む。クッキーか何かあったかな、なんて考えながら、ドアを押し込んだ。


リビングに入って一番に目に入ったのは、紺色に黄色の装飾が入った、俺らのお気に入りのソファー。

…そして、愛しい人の後ろ姿。


えっ、あにきって歌録ってたんじゃなかったっけ、なんて考える暇なくあにきが振り返る。

「まろ!」

そのまま、とてとてと擬音語が着きそうな走り方で俺に近づいてきた。あー愛しい。ほんとに癒しの塊やなあにき。ほんとに好き。

俺の心の中はこの数秒だけで急速にあにきのことで埋め尽くされる。

「編集終わったん?」

「仕上げの時ソフト落ちて辛すぎて逃げてきた…」

弱音を吐けば、あれ辛いよなあなんて言いながら抱きついてきてくれる。あー世界平和…


「まーろ」

恋人の可愛さに浸っていると、ちょっと舌っ足らずな声で名前を呼ばれる。えっ待ってかわいい。

「ん」

腕を伸ばして俺の顔の横に差し出された、大好きな手。



…なるほど、かわいいかわいい姫は珍しく甘えたらしい。

でも、



「…っえ?」

今日はちょっと、意地悪したい気分だ。


大きくてくりくりの目を見開いて、俺と自分の間で視線を行き来させるあにき。

分かってるよ、あにきのあのしぐさはキスしたいときのサインだってこと。いつもは俺がかがんで、あにきが首に手を回しやすいようにする。その手をいきなり恋人つなぎでホールドされたら、戸惑うのも当然だ。


まだ何をされるかつかめない様子のあにきは、正直言ってめちゃくちゃ可愛い。甘えるの得意じゃないから照れちゃって、うっすら染まったままの頬。あー、美味しそう。

俺のこと大好きだから、俺に振り回されてくれる。それって、最上級の信頼なのかもなあなんて思っていると、手にぐっ、と力がかかる。と、ほぼ同時にぐらりと揺れた恋人つなぎ。

「…!」

アニキの目がさらに見開かれた後、咎めるような目つきに変わる。どうやら俺が背伸びしてること、分かったみたいだ。

「まろ、それやめ…」

「なにを~?」

「…っ」

俺が少し背伸びすれば、あにきとの身長差は広がって、あにきはキスができなくなる。さっきあにきは自分が背伸びすればいいと思ったみたいだけど、二人が背伸びすると不安定になってしまう。あにきは俺にけがさせるようなこと、絶対しないからね。

手は俺に封じられて、アニキの逃げ場はなくなる。あにきは身長がちょっとコンプレックスだから、やめてとも言えないし。


あにきは睨んでるつもりだろうけど、正直全然怖くない。むしろちょっと涙目で上目使いって、俺を喜ばせるだけなのわかってるのかな。あっ、あにき今日ポニテだ。もしかして、俺の為かな。歌録ってたのに、俺に構ってほしくなったとか?何それ可愛い。

「……背伸びしたらえっち禁止」

「ごめんなさい二度としません」

やばいやばい、ちょっと意地悪しすぎたかも。そりゃもちろんどんなあにきでも可愛いのは変わりないから後悔も反省もしてないけど。

…返事早すぎって?当たり前やんこんなかわいいあにきを俺だけのあにきにできてどろっどろになって俺のをいれさせてくれて俺に…これ以上は言わんけどそんなあにきが見れるんやで?禁止されたかないやん??


ちょっととがった唇に自分のものを重ねようと、背中を曲げる。すると、愛しい唇が下から降ってくる。

あにきからされるキスは決まって重ねるだけの、でも重みがある不思議なキス。それに、甘い。食べ物で例えるなら、マシュマロが一番近いかも。

そういえば、恋人繋ぎしてキスしたことなかったな。あにきの顔を見ようと閉じていた目を開けると、幸せそうに細められた目と目が合う。幸せを具現化したら、こんな感じになるんじゃないかってくらい幸せな空間。

どちらからともなく唇が離される。でも寂しくはなくて、これ以上ないくらいに満たされている。

突然、俺の右手が揺れる。俺が揺らしたわけじゃなく、兄貴が左手を揺らしたのだ。

「離す?」

こくん、とうなずくあにき。

右手から離れた温もりが、遠慮がちに俺のシャツの袖口を掴む。

これ、は。



「今夜、ええの?」

「………………うん」

至近距離でありがと、と囁けば、照れ屋な彼の耳はあっという間に朱く染めあがった。


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