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ぽんぽんず
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プロローグ【戦場に吹く不遜な風】
地獄。その二文字以外で、この場所を表現する言葉を人類は持たなかった。
「天魔大戦」が勃発してから、すでに3年。
神ハデスの寵愛である【加護】を巡る熾天使アウリナの嫉妬から始まった戦火は、世界を、人間界を、容赦なく焼き尽くした。
かつて栄華を誇った人類の数はわずか1万人にまで激減し、
大地は深く抉れ血と煤にまみれて黒くひび割れている。
冥界の神ハデスは天魔大戦で
亡くなった29万人の
惨なる魂の餞別を冥界でしていた。
3年目を迎えた天魔大戦。
死者の餞別中
日に日に増えていく死傷者……
傲慢なアウリナを憎む
惨なる魂からの切実な声が届いた。
胸を痛めた冥界の神ハデスは
憤った……
“己が始めた戦争を高みで眺める
その傲慢さを嘆く。
戦いもせず寵愛が欲しいと宣う
その傲慢さを嘆く。
お前に神からの寵愛をくれてやろう
懺悔するがいい”
そうして、神ハデスからの憤りに
最高神ゼウスが動いた。
最高神ハデスの神罰によって
敵陣の眼前に堕とされたアウリナ。
魔皇帝の俊敏な動きに気づかないアウリナ……
容赦なく無く振り落とされる断罪の剣
魔界の主――魔皇帝アイラナ・ハデス・リーズヴェルトの手によって討ち取られ、
ようやくこの凄惨な大戦は終結を迎えようとしていた。
生き残った下級天使たちの呻き声と、勝利に沸く魔族たちの咆哮が入り混じる悍ましい戦場。
だが、その硝煙渦巻く最前線に、あまりにも場違いな、軽やかな風を吹かせる男がいた。
天界最強と謳われる大天使、レミエルで
「はいはい、痛いね。すぐ治してあげるから大人しくしてて」
レミエルは満身創痍の下級天使たちの治療を淡々とこなしていた。
その薄紫色の瞳は、睫毛の長い流し目も相まってどこか退屈そうで、しかし息を呑むほどに超絶美形だ。
薄黄緑色の美しい髪が、血生臭い風に揺れている。
神の癒やしを施し終えた彼は、ふう、と息をつくと、ゆっくりと視線を上げた。
その先には、アウリナを討ち取ったばかりの敵の総大将――魔皇帝アイラナが佇んでいる。
まだ幼さの残る面影に、溢れんばかりの気高さを湛えた、一途で苛烈な魔族の王。
レミエルは、返り血に濡れるアイラナに向かって、ひどく軽薄な、けれど極上の笑顔を浮かべて歩み寄った。
そして、まるで宮廷の夜会で令嬢を誘うかのように、優雅に手を差し伸べる。
「やあ、アイラナちゃん。……僕と一曲、踊ろうよ?」
周囲の魔族たちが一斉に武器を構え、殺気を放った。
しかし、アイラナはただ一人、目の前の美しい天使を冷徹に睨みつける。
その燃えるようなレッドダイヤモンドの瞳に、明確な不快感を灯らせて。
「その煩い喉元、かっ捌いて黙らせてあげましょうか?」
低く、容赦のない拒絶。
だが、レミエルは「おっと、怖い怖い」と笑うだけでまったく怯む様子がない。
激闘の余韻が残る戦場で、繰り返される不遜な口説き文句。
だが、アイラナは気づいていた。
目の前のふざけた男の裏側にある、底知れない気配に。
構える隙すら与えない身のこなし、魔皇帝である自分をも容易く凌駕する圧倒的な戦闘力――。
(……この男は、何者だ)
向けた刃の先で、レミエルはどこまでも楽しそうに目を細めている。
アイラナの胸に宿った激しい殺意は、この瞬間を境に、800年の時を経ても決して消えることのない、狂おしいほどの執着――そして恋心へと変貌していくことになる。
しかし、この時のアイラナはまだ知らない。
戦後処理という膨大な事務作業を一人で完璧にこなした後、「天界、つまんない!」と自ら翼を捨てて堕天してしまうほど、この大天使が退屈を嫌う、気まぐれで苛烈な「鬼畜ドS」であるということを。
800年の時を超え、二人の運命が再び交錯する舞台。
それは、人間界の頂点――「ミラディア帝国」へと移ろうとしていた。