водка
ウォッカ、それは度数がおよそ40前後の蒸留酒。穀物を使い、発酵、蒸留することによって作られる。成分は水とエタノールで、不純物をほとんど含まない。無色透明で雑味がないことが特徴で、カクテルの材料としても使われてきた。
クセが無く、クリアな風味のその酒を愛した彼の名は、ソビエトといった。
そしてそんな彼には、息子であり将来跡継ぎとなる、ロシアが居た───
ある日の夜。毎晩遅くに帰ってくる父親をロシアが出迎える。
「おかえりなさい、父さん」
「ああ、」
何とも言えない様な、絶妙な返事だがその所作や表情から彼の機嫌が悪くない事がロシアには分かり、多少の安堵をする。
近くを通った父の体から、ほんのかすかに酒の香りが漂っていた。
「飯、食ったか?」
「、まだです。」
「冷蔵庫にあるもの食っていいぞ。」
特に何も食べてはいなかったから、些細なその言葉はとても嬉しかった。
「俺は食って来たから。」
冷蔵庫の中に入っていたちょっとした弁当の中のような具材と冷たいままの白米を食べたのち、父がいるであろうリビングへと向かった。
いつも通り、ウォッカを瓶のまま飲むソ連の姿が目に入る。
せめてとグラスを持ってきて、ウォッカをついで渡すと目を細くして笑った。
少し、気味が悪いような、背筋の凍るような笑みに1歩後ずさりする。
周りを見れば、片手ではとても数え切れない本数の瓶が転がっている。毎日毎日。日常の光景であった。
ただ、幸い質の良いウォッカはあまり香りが無いらしく、鼻につくほどの酒臭さは感じることは無かった。
外は大雪であれど、室内は暖房がよく効いていて暖かい。父親の顔が酒で暑くなったのか火照っている。
「ロシア」
「は、い。」
唐突に名前を呼ばれたことに少々驚き、ぎこちない返事を返す。
「ここ座れ。」
目線で示されたのは父の横辺りのカーペットが敷かれた床。
理由も良く分からない儘ゆっくりと正座する。こんなに近くで、静かに父の顔を眺めたのは久しぶりだった。
「お前も俺の事を否定するか?」
突然の問いにしばらく理解に時間が掛かってしまった。
俺の事、というのは一体何なのか。
…おそらく政治の方針の事なのだろう、お前”も”と言っていたし…。
少しの沈黙が流れる。目が合っている訳では無いが、父からの独特の重い無言の圧を感じた。
「…否定しません」
恐る恐る答えた。
「どうするつもりなんだ」
その質問はあまりにも言葉足らずで、それがまた恐怖を煽るのだ。
具体的に。なんて話してはくれる気などまっさら無いのだろうか、?
「僕は、父さんのしてきた事を否定も、代えることも、しようとは考えていません。だけど、……。」
そこで、自分の考えが口に出すのに適さないと気が付き言うのを辞めた。嫌な思いをするのは必ず自分であるというだけの簡単な理由だった。
だが、それはもう遅かった。
「だけど、何だ?」
「答えろ」
「ぁ、えと、…。何でも無いです」
「俺が解らないとでも思ったのか?嘘をつくだけ無駄だ。」
あぁ、だめだ。やってしまった
こうなったらもう、真実以外の話は何一つ通じない。
先程言いかけたのは、自国の政治だけでなく他国にも目を向け、高め合うことが出来ないかということ。
だがこれは、ソ連が1番に嫌う考えであったから、意地でも絶対に言うべきで無いのだ。
…だから、答えることは出来ない。
「お前には耳と口がねぇのか?」
自分の父は信じられない程冷たい目で此方を見ていた。
「言いたく、無い、です」
やっとの事で絞り出した声は父親の核心に届きはしない。
すると、ゆっくりとロシアの傍に近寄って来た。
右手に酒瓶を持ったまま。
どれだけ見慣れようとしても恐ろしいその大きい身体からの圧。
なにをする気ですか。やめてください。
そうはっきりと言える程の精神も、決意も持っていない。
何も出来ず後退りするだけの愚か者だ。
「言えない理由は?……ぁ゛?」
何も言えなかった。黙りこくる事しか出来ない
すると、大きな手で自分の胸ぐらを掴まれた。唐突に感じた衝撃にぎゅっと目を瞑る。
その瞬間、自身の口腔へ冷たく、慣れない味が流れ込む。
「ッ、───、ッ──ぅ、─ぁ!」
僅かな抵抗も虚しく、無理やりそれを呑まされる。否、その液体に呑まれる。
途切れ途切れに漏れる吐息と小さな声は、何処かに消えて散るだけ。
怖い。やめてほしい。嫌。真っ白になってしまった頭は全く有効に働いてやくれないものだ。
長い。
苦しい……
暫くすれば口に当てられていた物がゆっくりと離される。ちらりと目に入ったそれは瓶だった。よく見慣れた、あの瓶だった。
父は何も言わない。
ただ依然、冷淡な瞳でこちらを見ている。
口の中に残る慣れない味。
独特の、今の自分には形容し難いこの感覚に嫌悪感を覚える。
「どうだ。まだ答えられないか?」
「ッう、な、にも、ないです、」
するとソ連は小さく舌を打って乱暴に言った。
「もういい。部屋に戻ってろ」
よかった、。あきらめてくれた。
立ち上がり、ゆっくりと部屋に戻る。自室の扉を閉めて壁に寄りかかるように座り込んだ。
どうしてこうなってしまったんだ、という利益の無い問に、ぎゅっと目を閉じて頭を抱える。
今の自分の身体には負いきれない量のアルコールに、すぐに変化が現れた。
身体の奥から、じんわりと熱さを感じる。気持ち悪い。喉が痛い。
顔が火照って赤くなっている事が手に取るように分かった。
熱い。熱い。熱い熱い熱い熱い。
頭が、視界が、ふわふわする。
ただ、冷たい空気を求めて。
雪の降りしきる、吹雪の中へ出た。
雪ってこんなに心地よかったんだ!
真っ白な雪に寝転がって、積りたての雪はいつもより柔らかくって。
徐々に消えて行く辛さに身を任せて、ロシアはゆっくりと眠りについた。
あぁ、
しあわせって、なんだろうね。
コメント
8件
クソ連......マジでクソ連だ...... がっと読めてしまったけど後味がなんかやるせない感じでした...... 何はともあれ神作をありがとうございました!
ソ連さん……何やってるんだ小さい子供相手に……。 というかお酒飲むと喉痛くなるんすよね…ロシアの体の状態がよくわかるからなんだろう…すごくつらい… 物語としては一瞬で読み切ってしまったけど、濃度が高すぎて眩暈がしてしまいそうです。 栄養補給ありがとうございました()
うわぁぁぁぁ!クソ連がよぉぉぉぉぉ!可愛い可愛いショタロシアになんてことを!うわぁぁぁぁ!