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髪を誰かに触られている。思い瞼で目を開くと、まふゆの顔が至近距離にあった。夢、だろうか。多分夢だ。だってまふゆが一緒に寝ているわけないし。
「……私って、案外まふゆのこと好きなのかなぁ」
「え……。さあ、そうなんじゃない?」
まさか答えられるとは。予想外。
「なに。こんなことしてないで、まふゆなら起きればいいのに」
「絵名のせいで起きられなかったんだよ」
その発言、よくわからないのだが。
「ほら、見てよ」
今一度自分の姿、そしてまふゆの姿を確認してみると、理由がわかった。
右手は俗に言う恋人繋ぎで繋がれていて、私の脚はまふゆの右脚を両脚で挟んでいる。また、まふゆは私の右脚を両脚で挟んでいる。これは結構絡み合ってるし、どっちもどっち。
残された私の左手は、まふゆの体を抱きしめていた。また、まふゆの右手は今私の髪の毛に触れている。なら、これもどっちもどっちか。
しかしこんなにまふゆとの顔の距離が近い理由がようやく分かった。でも、なんだか感覚がリアルなような。
「よく寝れた? もう八時だけど」
「えー、まだ八時なの?」
鳥のさえずりが聞こえてくる。
天気は良くなったみたいだ。昨日は台風だったし、昨日は台風、台風──?
「え」
「どうかしたの?」
「まっ、え」
「絵名?」
「ちょ、っと、まっ……て」
「うん」
──じゃあ、これは、夢じゃなくて。
「は、離れなさいよ!」
「急にどうしたの……」
「ちょっと!」
私はまず脚だけでも離れようと、まふゆの脚を蹴り抜け出す。
「はあ……寝てる時は静かだったのに」
「あんたも、こんな状態で放置しないでよ!」
「抜け出そうとしたら絵名が強い力で抱きしめてきたんでしょ。私のせいにしないでよ」
「そんなわけないでしょ!」
「何回か抜け出せるか試したのに、すぐ抱きしめてくるし」
「はあ!?」
「私もっと早く起きてたよ」
「まふゆの都合とか知らないし!」
まさか私がまふゆの体を抱きしめるなんて、そんなこと、ない……と信じたい。でも、いつもなら猫のクッションを抱きしめて寝てるから、もしかしたら──
「おい絵名、起きてるのはいいけどうるせーぞ。って違う違う。朝比奈さん、朝食ができたので、是非一緒に──ん?」
彰人が急に言葉を止める。何故、あ今一緒に寝てる。
私はなんとかこの状況を誤魔化そうと、急いで体だけでも起こす。それにつられてまふゆも体を起こした。
「……布団、用意する筈だったんですが。絵名が我儘言ったんですかね、すみません」
「はあ!? そんなわけないでしょ」
「いや、私から一緒に寝たいと頼んだので気にしないでください」
「ああ、そうだったんですか。頼んだ、頼んだ……女子ってそんなものなのか」
「そうよ私はこいつと一緒に寝たくて寝たわけじゃなくて、どうしてもって言われたから……!」
「嫌だったの?」
「……そうか、そういうものか」
「え、いやだから嫌じゃないって言ってるでしょ……」
「そっか、よかった」
「ああ、仲いいんだな」
とりあえずご飯を食べに行こうとした。恥ずかしいし。なので私はすぐにベッドから降りようと身体を動かす。が、降りられなかった。腕が伸びたのだ。いや伸びたというより、手が離せなくて、そう、ずっと握ったままだったのだ。
「……あ」
「もう、絵名ったら急に動かないでよ」
「最近の女子って、手を繋ぎながら寝るのか……?」
「ご、ごめん。ってなんで私が謝るのよ……!」
「ご飯だっけ、じゃあもう少しだけお世話になっちゃおうかな…?」
「あ、ああどうぞ。そうか、仲いい人できてよかったな、絵名……」
「ていうか、手離しなさいよ」
「絵名がいつでも繋いでいいって言ったんでしょ?」
「……は、どういう?」
「い、言ったけど、そうじゃないでしょ!」
まふゆ、お願いだから弟の前で変なことを言わないでほしい。ただでさえ恥ずかしいのだから。
「まふゆ、彰人がいるから」
「そう。分かった、じゃあやめておくね」
「うん、そうして……」
「………………」
彰人の視線を感じる。ああ最悪だ、あんな姿を見られるなんて、何か言われるに決まってる。からかうな彰人。
「ごめんなさい、朝比奈さんはちょっと先に、向こうに行っててもらえますか?」
「え? はい、分かりました」
「……おい、絵名」
低い、怒ったような声。私にそのような態度を取る理由がわからない。少しだけ身構える。
「な、何よ……」
「お前……朝比奈さんと付き合ってるのか……?」
「……は?」
「オレは全然認めるし、うん、あの人いい人そうだし絶対家族全員認めてくれると思うから、心配しなくていいぞ」
「あんた、何言ってるの?」
「ま、でもあんまりイチャつきすぎるなよ」
「…………」
悟ったかのように語り始めるバカ。私の見ないうちに頭のネジが何本も飛んでいったようだ。
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけんじゃないわよ! 誰があいつと付き合ってるって!?」
「あ、おい絵名。そんなこと言ったら落ち込むぞ、お前ただでさえ素直じゃないんだから」
「バカ、どこをどう見たらそうなるのよ、あれは友達よ!」
「はあ!? おい、これオレがおかしいのか!? あ、別に隠したいなら隠したいって言ってくれれば……」
「付き合ってない!」
勘違いも困ったものだ。そう、私達は友達なのだ。まふゆの距離感がおかしいだけの、ただの友達。