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 ズボンのポケットに手を突っ込み、お金があることを確かめる。

いま、わたしはお兄様の同僚数名とノアとお酒が飲める酒場に向かっている。大人になった気分だ。


今朝、お兄様の机の中を開けて日記を探した時にお金が置いてあったのには気づいていた。

お兄様には大変申し訳ないが、少しお金をお借りすることにした。

人生初の飲み会だ。どうしても行ってみたいし、お兄様の願いを同僚の人たちから聞き出せるかも知れない。


ただ、お金を黙って勝手にお兄様に借りるのは心苦しくて、事務室からもらってきた7枚の紙に1日1枚で、わたしがお兄様の姿になってしてきたことを日記のように書くことにした。そこにお金を借りたことも書く。

わたしがお兄様の願いを叶えられて、お兄様がこの現実に戻られたときに困らないようにする目的も含まれる。

1枚目には目が覚めたら夕方であったこと、ノアが呼びに来たこと、騎士団の夕食はとても美味しかったこと、入浴はとても恥ずかしかったことを書いた。

そして今日は、事務室での仕事の内容を引継書のように書き記す。お金も飲み会のために持ち出してしまったことも書く。

この借りたお金をわたしはお兄様に直接返すことはできない。お兄様の願いを叶えられても、そうでなくてもわたしは天に召されるからだ。だから、謝罪も付け加える。


飲み会は騎士団の馴染みの酒場のようだ。

みなが入るなり、次々と注文していく。

「レオンは何を飲むんだ?」

同僚のひとりに尋ねられて、困惑をした。

わたしはお酒を飲んだことがないから、どんな種類のお酒があるのかを知らないのだ。「酒」1種類しか知らない。

「え、えっと…」

「レオンは最初はいつもビールだったよな」

ノアが助けてくれた。

「そ、そうだ。ビール。ビールでお願いします!」


長椅子の席につくとすぐに飲み物が届いた。

「乾杯」と言って、みなで杯を差し上げ、ガチンと触れ合わせることにとても驚く。

大聖堂では、食器の音など立てるのはご法度だったからだ。

一気に飲み干すのがマナーらしく、わたしもみなの見よう見まねで一気にビールを飲み干そうとするがこのビールという酒はとても苦い。

「に、苦い!!!」

思わず、本音を口にしてしまった。

「その苦みが良いんだよ。いつもレオンは葡萄酒なのに今日は珍しくビールなんだな」

そう同僚に言われて、ジロリとノアを見た。

はす向かいに座るノアは何食わぬ顔をしている。

「今日はビールの気分だったんだ」

苦笑いしながらも、ノアにお兄様の中身がわたしであることがバレたのではないかと、内心冷や汗が流れる。


しかし、酒場のメニューは最高だった。

同僚たちはいつも注文する料理があるようで、どんどんとテーブルに溢れんばかりに運ばれてくる。

燻製された肉、煮込まれた肉、焼かれた肉…肉、肉、肉。

まるで1週間のおかずが一気に出てきたかのように豪華なのだ!!

「おかずばっかりで夢のようだ!」

たくさんのおかずが幸せ過ぎて、感嘆を素直に口にすると、みなが一斉に笑い出す。


「今日のレオンはいつもの上品でたおやかなレオンと一味違うな。まるで酒場に初めて来た女みたいだ」

作り笑いをしながら、背中から汗がどっと噴き出す。


でも、緊張はそこまでだった。

愉快な同僚たちとの会話は楽しく、ふわふわした良い気分になってきた。心なしか身体も熱い。饒舌になり、ちょっとしたことだけですぐに笑ってしまう。

こんなに楽しいことが世の中にあったんだ!

そして、ずっと聞きたかったことを会話が途切れる時を待って、同僚たちに聞いてみる。


「私の願いは何だと思う?」

「レオンの?」

「わかる訳ないだろう。あ、あれだ。酒と女をたらふくだ!」

「それは全世界の男の夢だな。でもレオンみたいに顔も家柄も良いやつはそんなことはないだろう?」

「いつも澄ました顔をしている上品なレオンだから、頭の中は女のことだけだと、俺はこいつも男だったのだと、うれしいぞ」

そう言われて、隣の男性に抱きつかれて、頭を撫でられた。

男性に抱きつかれることが初めてで、思わず身を固くする。


「おい!やめてやれ。レオンが困っている」

ノアが笑いながら、隣の男性をやんわり制止してくれた。

レオン、意外に優しい。


(「酒と女をたらふく」がお兄様の願い…かも)


酒はいま飲んでいるこれだ。ビールは苦いから好きじゃないが、葡萄酒は肉料理と合ってとても美味しく飲める。

酒をたらふくはいますぐ実行だ。

女…女をたらふく?


「女をたらふくってなに?どうやって実行するのですか…だ?」

「レオン~!!なに、可愛いことを言っているんだ!女だよ。女」

同僚たちがニヤニヤしている。

「今日のレオンはなんだか可愛いな!」

一同が頷いた。


女をたらふくはなぜか、詳しい説明をしてもらえず、みんながニヤニヤするばかりだったので、とにかくすぐに実行できる「酒をたらふく」を実行した。

酒をたらふくがお兄様の願いでありますように…


そしていつの間にかわたしは意識が朦朧としてきて…あとは覚えていなかった。



「レオン、レオン!」

ノアが呼んでいる。

「おい、起きろよ。みんな先に帰ったぞ」

「ノア、置いていかないで。帰り道がわからない」

ここがどこだかわからなくて、まだ意識がもうろうとしていて、不安でノアの腕にしがみつく。

「なにを言っているんだ。この王都で何年暮らしているんだ。わからないわけないだろう」

わからないよ。

王都で暮らしたことはない。大聖堂に入るまでずっと侯爵家の領地にいたのだから。社交シーズンだけは王都のタウンハウスに少し来たが、侯爵家の令嬢だったのだから、ひとり歩きなどさせてもらえなかった。


「王都で暮らしたことはほとんどないよ」

「えっ?…レオン?」

ノアの表情が怖いくらい真剣だ。


「お前、誰なんだ?」

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