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「でもさ。オレ無理させてない?」
「え?」
「同じように仕事してんのにさ、一緒に暮らし始めてから、帰ってからご飯作ってもらったり、こうやって弁当までさ。オレ全然料理出来ないからその大変さとかもよくわからないんだけど、結婚する前からオレの為に無理させて負担かけてないかなって」
単純に弁当作ってくれて一瞬喜んでしまっていたけど。
だけど、実際その分透子は朝早く起きて大変なんだよな。
仕事も完璧にこなす透子なのに、オレの我儘で透子の優しさで何も言わないのかと、少し無理させていないか気になる。
「大丈夫だよ? 元々料理作るのは好きだし」
「でも一人の時はさ、修さんとこよく食べに行ってたじゃん。なのに、今はオレがいることでずっと家で作ってもらっててさ」
「そんなの気にしてたの? あの店にいつも食べに行ってたのは一人だからこそだよ。自分の為に毎日頑張って作らなくても、あそこに行けば美咲とかいて話も出来るし、気分転換になるんだよね。あの店で一人でいる時間が好きだっただけ」
「そうなんだ。まぁオレもそんな透子密かに見てたんだけどね」
「そなの?」
「うん。一人の時間楽しんでる透子にオレ釘づけだったんだよね」
「何それ(笑)」
「その時の透子ってさ、実はすごく魅力的だって知ってる?」
「へっ? ただ一人でお酒飲んだりご飯食べてただけが?」
「そう。なんかさ。その周りに流されず一人で自分の時間に入り込んで楽しんでる姿がカッコよくて綺麗でさ」
「そんな風に意識したことないけど」
「でもオレにとってはそんな透子が魅力的で憧れだった」
きっと透子はそんな自分の魅力も気づいていなかったのだろうけど。
だけど、きっとあの店は本当の透子を唯一出せていた場所。
会社にいる時の透子も、あの店にいる時の透子も、どちらも知っているオレだからわかること。
きっと透子はそれは無意識で無自覚だったとしても。
オレはそんな透子の顔全部知ってるから。
会社ではいつもカッコよく凛としている透子だけれど、この店では気心知れた美咲さんがいて安心して気楽な姿を見せていて。
会社でいつでもカッコイイ透子ももちろん憧れて好きだったけど。
でも、やっぱりあの店で何の気兼ねもなく時には美咲さんと無邪気に笑い合って楽しんでいたり、時には一人であの店での時間を楽しんでいたり。
自然な透子があの店にはいた。
一人でどの時間も楽しんでいる姿が綺麗で魅力的だった。
きっとその時間は透子にとってもずっと大切にしていたものだろうから。
「だからオレがさ、透子と一緒にいたいばっかりに、そういう透子の自由な時間奪っちゃってるんじゃないかなって思って」
その姿が魅力的で好きになったはずなのに、オレが透子を好きになればなるほど、透子に求めてしまうモノが増えて、透子の自由な時間を奪っていってしまう。
オレ自身が実際そうだったから。
今までのオレは、誰か他人に自分の時間を邪魔されるなんて嫌で。
オレが誰かに求めるモノなんて今まで存在したことなかったから気付かなかった。
なのに今のオレは、透子とずっと一緒にいたくて、透子にしてほしいことがどんどん増えて。
透子が優しいことをいいことに、どんどん要求してしまう。
決して、透子もオレと同じ気持ちだなんて限らないのに。
「そうだね・・・。今はすべて樹との時間に費やしてるもんね。一人の自由な時間なんて全然ないし」
「だよな・・・。ごめん・・」
やっぱり・・・。
そうだよな・・。
オレと一緒にいることで、オレの欲望が満たされていることで、透子のそんなことも気づいてあげることが出来なかった。
「だけど、そんなこと樹と一緒にいる時間が幸せすぎて、言われるまで気付きもしなかった」
「え?」
「今は一人でいるよりも、樹と一緒にいたい。一人でいる時間だって、今は樹のこと考えて料理作ったり家で待ったりすることが幸せ」
「ホントに・・・?」
「うん。今は何より樹との時間が一番大切だから。私を必要としてくれるんだなって思えて嬉しい」
あぁ・・・。ヤバい。
その言葉ホント嬉しすぎる。
同じように透子もそう想ってくれてることが幸せで。
「じゃあ、オレこのまま甘えても平気?」
「もちろん」
「透子がイヤって言わなきゃ、オレ多分これからなんでもかんでも透子に求めちゃうと思うけど」
「なんでも言って」
「なんでも?」
「ちゃんと受け止めるから。樹の望むことならなんでも」
「そんなこと言うとヤバいよ?透子」
「えっ、なんで?」
「オレの透子への気持ちこれからもこのまま止まることないよ? そんなこと言ってくれるならオレも我慢しないし気持ち抑えることしないけど」
「いいよ。私も止まることないし。もういつでも受け止める覚悟は出来てる」
「それなら問題ないね。じゃあ、この先も覚悟しといて」
「樹相手ならもう何されても何起こってもおかしくないから、とっくにそんなの覚悟してる」
「さすが透子」
どこまで男前なんだよ透子。
オレより全然頼もしい。
そりゃそうだよな。
オレの方が透子より断然何倍も透子のことが好きで、求めるモノも多くて。
もう止まらないオレの想いを透子はこうやってしっかりと真正面から優しく受け止めてくれる。
「でもさ、もし何かあったら言ってよ。相談でもお願いでもなんでもいいから。透子のことならオレもなんでも受け止める」
だけど、透子は優しすぎてたまに心配になる。
自分より他人を優先してしまう優しい人だから。
「うん。わかった」
「無理せず透子は透子らしくいてほしい」
だから、オレの為に無理はしてほしくない。
透子が透子らしくいてくれるのがオレは一番嬉しい。
オレの為とかじゃなく、ちゃんと透子の為の時間を使ってほしい。
オレは透子がオレのことを好きでいてくれたらそれで十分だから。
「うん。樹も。ちゃんと言って。嬉しいことも悩んでることも、ちゃんと二人で分け合おう。一人で抱えずにお互いがお互いらしく。ちゃんと自分を好きでいれるように」
「了解」
だけど、透子はやっぱりまたそんなことを言ってくれる。
オレの為でもなく、透子の為でもなく、二人の為に。
そうだよな。
これからは一緒に歩んで行く人生。
お互いを想い合って、お互い無理せず自分らしくいられるように。
どんなことも二人で分け合って、お互い助け合っていこう。
何があってもお互い支え合っていければ、きっとオレ達なら大丈夫。
これからは、きっともっとまた好きになっていく。
お互いのことを。
自分という存在を。
自分の人生を。