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その日の夕方前。
透子と一緒に家に帰ろうとしてたのに、なぜか急に親父に呼び出されて夜食事に行くことになった。
親父の指定した店に直接来いとしか言われず、いきなりの連絡で少し不思議な気もしたけど、透子との結婚を報告するいいきっかけかとも思って了承する。
『ごめん。急遽親父に呼び出されて今日の夜食事に行くことになった』
親父の対応がどうなるかわからなかっただけに、透子にはそう簡単にLINEに連絡だけ入れる。
そして親父と約束した店に向かい、親父が到着するのを案内された席で待っていると。
「樹。待たせたな」
「いえ」
しばらくして親父が顔を見せたと思ったら、隣に親父以外の男性が。
親父だけかと思っていただけに、知らない男性が一緒にいるのを少し不思議に思ったが、親父はその男性と共に席へ着く。
どうやらその男性は親父の昔からの仲のようだが、余計に仕事関係でもない男性がその場に居合わせていること、そしてオレも一緒に同席させられていることを少しずつ不審に感じだす。
料理を注文し、親父たちと酒を酌み交わしながら、少し時間が経った頃。
ようやくその不自然なこの状況の理由が判明した。
なるほど。
不自然なこの食事の席の本来の目的は、この男性の娘をオレの結婚相手にどうかという提案だった。
当然親父はこの話をまとめたいと言わんばかりの雰囲気を醸し出していて。
この雰囲気から察すると、二人の仲からしてすでにもうそそっちに持って行けるように話を二人の中でつけているようにも感じる。
後はオレの了承を得るだけってとこか。
でもまだ無理やり決めないだけ救いではあるけど。
「どうだ? 樹。こちらの娘さんとのお話、いいご縁だと思うから今度一度お会いする機会を設けようと思うんだが」
親父と二人だけなら断りやすかったのに、敢えて相手の父親をこの場に同席させるのが手堅い親父らしいやり方。
簡単に断れないように状況からそう仕向けて来る。
はぁ・・・。なんでこの人はこんなことをまた懲りもせず続けて来るんだ。
麻弥の時でわかってくれたんじゃなかったのか。
大切に想っている人がいると、あの時伝えたはずなのに。
麻弥との結婚はオレが会社と母親の会社を救うことでなかったことにしてもらったから、てっきり親父もそれで納得してるとばかり思っていた。
親父はあれでオレの話がなくなったとでも思ってるのか?
そんな簡単に終わるはずないだろ。
いつもそうだ。
オレの考えなんてお構いなしに親父が思ったように事を運ぶ。
だけど、もう今は今までのオレじゃない。
結局今までオレもどっちつかずの反応で親父から逃げていたのかもしれない。
親父と向き合うのをどこかしらきっと避けていたのかもしれない。
だけど、今はちゃんと結婚を約束した透子がいる。
誰より大切に想ってる透子がいる。
他の誰かなんて考えられない。
「・・・すいません。その話、お受けすることは出来ません」
今のオレは何の迷いもない。
「樹。こちらの娘さんは素敵な方でお前にとってもこれはいい話・・・」
「すいません。そちらの娘さんがどれだけ素敵な女性だとしても、オレはその話お受けするつもりはありません」
どれだけ魅力ある素敵な女性なのかは知らないけど。
オレにとっては透子以外興味なくて。
透子以外そんな風に思えないから。
「理由はなんだ、樹」
「オレには自分で決めた大切に想ってる人がいます。近々その人と結婚したいと思っています」
オレは迷うことなく親父にそう告げる。
同席しているその男性には申し訳ないけど、親父が勝手にこんな状況作ったのが悪い。
オレは前にちゃんと伝えた、大切な人がいるからと。
なのに無理やりこんな状況を作ったのは親父の責任だ。
「お前、それ本気なのか」
「はい。彼女以外オレは考えられません。だから、それを伝えたくてオレは大事なお話があるから時間を作ってほしいとお願いしてました。だからそれでてっきりその時間を作ってくれると思ってオレは今日ここに来たんです」
「その考えはお前は変わることはないのか?」
「はい」
「こちらの娘さんと一度お会いしてそれから決めても遅くはないんじゃないか?」
「考えは変わりません。だからお会いするつもりはありません。彼女にはもうプロポーズして結婚の約束もしています」
ひるむことなく親父に伝えるモノの、親父は何も言わず黙ったままで。
その黙ってる心の裏でどう思ってるのかはわからないけど。
「彼女と一度会う時間を作ってもらえませんか」
「・・・・」
「お願いします」
変わらず沈黙を続けている親父に、オレは負けじと気持ちを伝えて頭を下げる。