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このままじゃやられる──そう思った、そのとき。
──カイト、カイト──
──わたくしの声が聞こえますか──
脳内に声が響いた。
(誰だ!?)
──私は記憶の女神──
──かつてあなたと契約したものです──
(女神? 契約? いったい何を……)
──わからないのも当然でしょう──
──あなたは、記憶を失っていますから──
──かつてあなたは、私と『ある契約』を交わしました──
──それは、あなたの持つ記憶を差し出すかわりに──
──大いなる力を与えるというものです──
記憶を差し出すことで力を得る……。
カイトは息を呑んだ。
自分がなぜ記憶喪失なのかを理解した。過去に何者かと戦い、すべての記憶を女神に渡してしまったからだろう。
──あなたは現状を打開する力を求めていますね──
──私は、それを与えることができます──
(……俺の記憶を差し出せば、か?)
──理解が早くて助かります──
(どれだけの記憶を渡せば、力を与えてもらえるんですか?)
──差し出す記憶が、あなたにとって大切であればあるほど──
──与えられる力は大きくなります──
──今の状況を鑑みるに──
──村で起こった記憶すべてが妥当でしょうか──
それは……すべてを忘れろと言っているようなものではないか。
だが、しかし。
(……タニアさんを救えるなら、記憶なんてどうでもいい)
──本当によろしいのですか?──
──後から思いだしたり、記憶を返したりなどということは、絶対にありません──
──あなたは彼女と、大切な約束をしたのではないですか?──
カイトは、タニアと交わした会話を思い起こした。
『タニアさんを守りたい』
『必ず帰ってきて、タニアさんのそばにいます』
そう、たしかに彼女と大切な約束をした。
もし女神と取引をしたら……その約束を忘れてしまうだろう。
だが、それでも。
(たとえ忘れてしまったとしても、彼女を救いたいです)
──その覚悟、しかと受け取りました──
──取引成立です──
そのときだった。
カイトの目の前が真っ白に染まった。
* * *
眩しさを感じて目を開ける。
カイト──いや、その名を忘れてしまった青年は、意識を取り戻した。
彼の目の前に、無数の氷の刃が迫っていた。
青年は剣を握り締めた。
瞬間、右手の甲に刻まれた紋様が白く輝き始めた。
その光は一気に大きくなり、カイトの全身を包み込んだ。
迫りくる氷がその光に触れると、瞬く間に溶け去った。
「なっ!?」
攻撃を仕掛けた男は、驚きの表情を浮かべた。
青年は、自分が何者なのか、空を飛ぶ異形が何者なのか、そして男が抱える少女が誰なのか──その一切がわからなかった。
ただ、涙を浮かべてこちらを見つめる少女を助けなくてはならない──それだけは理解していた。
青年は剣を構えた。
すると、右腕の傷が瞬く間に塞がっていった。
剣を構え、空を飛ぶ男を見据える。
「お、お前はいった何者なんだ!?」
男が叫んだ。
(さあ、俺にもわからない)
麗太
#女主人公
そんなことを思いながら、青年は地を蹴った。
空を飛ぶ男に一瞬のうちに迫る。
そして驚愕に歪む顔に向かって一閃。
次の瞬間、男の首が宙を舞った。
「ば、バカなっ!」
首をはねられた男が叫んだ。
「この僕が、人間ごときにやられるなんて……!」
異形の男から解放された少女は、空中に放り出された。
青年はすぐさま少女を抱きとめる。
無事に着地すると、男の首も落ちてきた。
首だけになっても、男はまだ生命を保っていた。
「お前のその力……まさか、かつて魔王さまを倒した、あの──」
青年は、首に向かって剣を振るった。
剣からオーラのようなものが放たれ、首に直撃した。
男の断末魔の悲鳴が響き、まもなく首は消えた。
「カ、カイトさん……」
抱きかかえていた少女がこちらを見ていた。
涙を流しているが、安堵の表情が浮かんでいる。
(カイト)
青年は、少女が発した言葉を反芻してみた。
(それは、俺の名前なのだろうか……)
返事をしない青年を見て、少女の顔に不安の影が差していった。