テラーノベル
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👑「はぁ……やっと終わったぁ」
みことは椅子からずるっと背もたれに体を預けて、天井を見上げた。
今日は部活のない日だったけれど、文化祭前で忙しそうなすちの様子が気になって、作業室に顔を出していた。
見ているだけのはずが、気づけば片付けや運搬を手伝っていて、思った以上に体を使ってしまった。
机に突っ伏すと木製の天板に額が軽く当たって、コツンと小さな音がする。
放課後の作業室はすっかり静まり返っていて、さっきまで聞こえていた話し声や足音はもうない。
🍵「お疲れさま。これ、よかったらもらって」
そう言いながら、すちが片手に自販機で買ってきた缶コーヒーを持って戻ってきた。
👑「ほぇ、ええの、?」
🍵「好きでしょ?」
当たり前みたいに言われて、みことは一瞬きょとんとしてから、嬉しそうに笑った。
みことが缶を受け取って指先で温度を確かめている間に、すちは軽く肩の力を抜いた。
一仕事終えたみたいに息をついてから、自分の椅子へ戻る。
すちは椅子の背にもたれ、少し力を抜いた声で言った。
さっきまで大きなキャンバスを運んでいたせいか、前髪の隙間から額にうっすら汗がにじんでいる。
腕まくりしたシャツの袖が、まだ仕事の名残みたいで、みことはそれをぼんやりと眺めた。
👑「すちくんは……平気そうだね。体力あるなぁ」
みことは顔を上げて、くしゃっとした笑顔を向ける。
陸上部で鍛えているはずなのに、今日はなぜかいつもより疲れがどっと来ていた。
🍵「慣れてるだけだよ。美術部は、案外力仕事も多いからね」
おっとりとした口調で答えるすちに、みことは「そっかぁ」と小さく笑った。
文化祭が近づくにつれて、普段は静かな美術室も、最近は少し慌ただしい。
その中心にいるすちの姿を思い浮かべて、みことは自然と口を開いた。
👑「ねぇ、文化祭本番……すちくんの絵、楽しみだなぁ」
その言葉に、すちは一瞬だけ瞬きをした。
聞き間違いかと思ったみたいに、ゆっくりと聞き返す。
🍵「……楽しみ?」
👑「うん。わたし、美術のことは詳しくないけど……」
みことは少し考えるように視線を落としてから、またすちを見る。
迷いのない、まっすぐな瞳。
👑「すちくんの描く絵は、見てると心があったかくなるから」
飾り気のない一言だった。
でも、それはすちの胸の奥に、じんわりと染み込んでくる。
🍵「……そんなふうに言ってもらえると、照れるなぁ」
すちは頬をかきながら、照れ隠しみたいに小さく笑った。
自分の絵をどう見られているかなんて、あまり考えたことがなかったから。
👑「えー、ほんまやで?」
みことは机に頬杖をつき、にこにこと彼を見つめている。
その無防備な表情に、すちは視線をそらしそうになるのを必死でこらえた。
何気ない仕草ひとつひとつが、どうしてこんなに目に焼きつくんだろう。
文化祭まで、あと一週間。
忙しさの中で、こうして隣にいられる時間が、妙に特別に感じられてしまう。
🍵(……やっぱり、ずるいなぁ。みこちゃんは)
静かな作業室で、すちの心臓だけが、ゆったりとしたリズムを乱され続けていた。
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