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校舎前の通路は、人で溢れていた。
呼び込みの声、笑い声、スピーカーから流れる音楽が混ざり合って、普段より何倍も騒がしい。
☔️「わ、もうこんなに人いるんだ」
こさめは周囲を見回しながら、少し楽しそうに笑った。
その横で、なつは人の流れを読みながら一歩後ろを歩いている。
🍍「昼前が一番混むからな」
短くそう言って、なつは自然に歩幅を合わせた。
人混みは得意じゃない。でも、今日は妙に落ち着いている。
——と思った次の瞬間。
☔️「……わっ、」
人の波に押されて、こさめの身体が少し流れた。
その袖口を、なつの指が反射的に掴む。
🍍「ぁ、、転びそうだったから … 」
低い声でそう言って、すぐに手を離す。
それだけの動作なのに、こさめは一瞬だけ目を丸くしてから、にっと笑った。
☔️「なつくん、やさし」
からかうような口調。
でも袖を掴まれた感触が残っていて、胸の奥がじんわり熱い。
🍍「……んなことねぇだろ、」
そっけなく返しながら、なつは少しだけ前に出た。
無意識に、こさめを人の流れから庇う位置。
歩いているだけなのに、距離が近い。
それを意識しているのは、たぶん自分だけだ。
クラスの出し物をいくつか回ったあと、廊下の角で足を止めたときだった。
M「こさめ」
少し低めの声に呼ばれて、振り向く。
同じ三年生の男子が一人、壁にもたれかかるように立っていた。
どこか余裕のある態度。顔も、まあ整っている。
M「よかったらさ、一緒に回らない?時間あるなら」
同学年特有の距離感。
遠慮がないぶん、断りづらい。
☔️「あー……ごめん、今——」
こさめが言いかけた、その瞬間。
🍍「先約あるんで」
なつの声が、すっと割って入った。
一歩前に出て、さりげなくこさめの前に立つ。
☔️「え … ?」
こさめが小さく息をのむ。
なつが前に出たことで、空気が一瞬止まった。
3年生の男子は視線をなつに移して、わずかに眉を上げる。
M「先約、って?」
探るような声。
簡単には引かない態度。
🍍「一緒に回ってる」
なつは淡々と答えた。
声に感情は乗せていないのに、距離だけははっきりと主張している。
M「へぇ」
男子はこさめを見る。
まるで本人に確認するみたいに。
M「そうなの?」
こさめは一瞬だけ間を置いてから、にこっと笑った。
☔️「 … うん。今日はなつくんと回る約束だから、ごめんね」
柔らかいのに、迷いのない言い切り。
その言葉を聞いた瞬間、なつの胸がまた一度、強く鳴る。
M「そっか」
男子は肩をすくめる。
M「じゃあ仕方ないな。また今度」
完全に納得したわけじゃない、でもこれ以上踏み込まない。
そういう引き際で、その場を離れていった。
人の流れに紛れて姿が見えなくなってから、こさめはなつを見上げる。
☔️「ありがと」
少ししてから、こさめが小声で言う。
その声が、やけに近い。
🍍「別に」
そう返したなつは、ふいに胸の奥が騒がしいことに気づく。
さっきからずっとだ。
🍍(……なんだこれ)
うるさい。
理由がはっきりしないのが、いちばん厄介だ。
☔️「次どこ行く?」
何もなかったみたいに聞いてくるこさめ。
その横顔が、やけに楽しそうで。
🍍「……美術室」
なつは短く答えた。
自分の展示がある場所。
☔️「行こ行こ」
即答。
迷いのない返事に、また心臓が一拍ずれる。
文化祭の喧騒の中で、
なつはまだ知らない。
この違和感が、ちゃんとした名前を持つ日が来ることを。