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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。セレスティンに港湾調査を命じた翌日、ただ知らせを待つだけでは時間が勿体ないので同時に他の問題解決も図ります。
優先すべきは、暁の装備更新。現在はターラン商会経由で武器を購入して構成員達に配布していますが、所詮は軍の横流し品や旧式のものばかり。どうしても性能は劣ります。
個人的にはシスターの持つMP40のようなサブマシンガンの採用こそ火力の強化に最適で、我が暁の戦力強化に必要不可欠であるのは論を待ちません。前回の訪問から二年、今度こそはと再びチャレンジしてみましょう。ドワーフのドルマンさんにね。
東方には思い立ったが吉日と言う言葉もありますので、私は早速ベルを連れてシェルドハーフェン六番街へと向かいます。
六番街路地裏にひっそりと佇む小さなお店、鉄の穴。二年前はある種門前払いを受けたお店に、再び足を踏み入れます。店内は相変わらず油の匂いがして様々な機材なんかが散乱しています。
「すみません、ドルマンさんはいらっしゃいますか?」
声をかけると、奥から立派な髭の男性が現れます。
「なんだ、ここは……ほう、シスターのところの嬢ちゃんか?見違えたな」
まあ背も伸びましたし、服も変わりましたからね。
「ご無沙汰しています、ドルマンさん。ちゃんと生き延びているので、また来ましたよ」
「元気そうで何よりだ。で、相変わらず新しい武器が欲しいのか?」
「はい。新しい組織を立ち上げましたし、何よりあらゆるものから大切なものを護りたいので重武装したいんですよ」
「変わらねぇな。いや、ちょっと垢抜けたか?経験を積んだみたいだな」
「まあ、それなりには」
この二年間、農園が襲撃された回数は手足の指では足りないくらいです。雇った傭兵さんに死人も出ましたし、私自身何度も戦っています。多少は成長できたかなと思っているところです。
「良いだろう。最新モデルはまだ渡せねぇが、約束を果たしたご褒美だ。シスターに渡したMP40が数挺手元にある。こいつを売ってやろう」
「ありがとうございます。おいくらで?」
「一挺金貨五枚でどうだ?」
「おいおい大将、いくらなんでも高過ぎないか?」
ベルが口を挟むのも無理はありません。何せ一般的に出回っている帝国軍の拳銃が一挺銀貨五枚程度ですから、明らかに高い。
「正規のルートの品じゃないんでな。本当なら金貨十枚と言いたいところ何だが、嬢ちゃんだから割り引くのさ」
さて、その言葉が本当か確かめる術はありませんね。ふむ、確かに出せる額ではありますが……面白くない。
「分かりました。その代わり初期の弾薬と長期的なアフターサービスをセットにしてくれるなら買います」
「お嬢?」
「アフターサービスは勿論だが、弾薬代を出さねぇのは納得いかねぇな?」
「二年前と同じ、先行投資だと考えてください。貴方の店の武器で私達が活躍すれば貴方の名も知れ渡るでしょうね?」
「そんなに有名に成るつもりか?」
「最終的には、この街を全て手に入れますから」
そうすれば敵はいませんし、情報も集まります。その過程で黒幕を殺れるかもしれませんし。
「随分と大きく出たな、嬢ちゃん」
「夢は大きく雄大に、ですよ。もちろん大言壮語で終わらせるつもりもありません。なにより」
「なんだ?」
「最終的には貴方も手に入れます」
優れた武器商人兼製造職人など欲しいに決まっています。
「はーっはっはっはっ!」
私の言葉を聞いたドルマンさんは、心底愉快そうに高笑いをします。はて、笑える箇所がありましたっけ?
「面白れぇなぁ嬢ちゃん!俺が欲しいときたか!可愛い顔して大層な野望の持ち主だなぁ」
「目的のためなら、何だろうと手に入れてみせますよ」
可愛いのはレイミです。異論は処刑です。慈悲はない。
「良いだろう、そこまで吼えたんだ。弾薬はサービスしてやるから、期待外れにならないようにしてくれよ?嬢ちゃん」
「もちろんです。取引成立ですね」
こうしてサブマシンガン数挺と充分な弾薬を手に入れた暁は、その質を高めることに成功しました。ドルマンさんの期待に応えて、引き入れる事も視野に入れて、ね。
さて、武器が手に入っても十全に扱えなければ意味がありません。傭兵やターラン商会から送られてくる人材によって組織された我が暁の戦闘団員に、MP40を扱わせて上手な者を選別。シスター主導のもと激しい訓練を課すことにしました。お母様曰く、汗は流血を防ぐ。まさに真理ですね。
それ以外の人員にもボルトアクションライフルを標準装備させて熟練度向上を目指し猛烈な訓練を課しましたよ。ライデン社発行の新世代の戦術理論を取り入れて個人技はもちろん、集団戦の訓練を重点的に行います。
「お嬢は軍隊でも作るつもりか?」
訓練を視察する私に同行したベルが苦笑いしつつ尋ねてきます。
「暁をチンピラの集まりにしたくはありません。その意味では、軍隊と言うのも強ち間違いではありませんね」
政府や軍を頼れない以上は仕方ないです。私設軍隊?良いではないですか。
もちろんただ訓練を課すのではなく、美味しい食事に立派な宿舎。功績にはしっかりと報いるなどの福利厚生もしっかりとね。軍に倣って階級制度も設立。
ただし、寝食は階級問わず一緒に行うことで一体感を産み出します。正規軍では将校の大半が貴族で威張り散らして兵の士気も低いと聞きますからね。うちには必要ない文化です。
「お嬢が順調に貴族令嬢をやってたらと思うと、シェルドハーフェンに居るのは帝国にとって良かったのかもな。いや、この場合損失か?」
ベルが遠い目をしていますが、まあ問題ありませんよね。間違ったことはしていない筈なので。
後にライデン社社長が視察した際「なにこれ、武◯親◯隊?」と呆れるような私設軍隊を有する暁の始まりである。